past mirror
「フィリア。最近様子が変だぞ?」
「大丈夫大丈夫!全然元気だから」
何かを隠している気がする。
最近フィリアの言葉の節々がおかしいことに気がついた。
遂に悪霊のペザトリアが動き出したのか…
しかし除霊する方法がなく、ボルダーに相談すると、先に進むことを提案された。
流石に放っておく訳にはいかず、俺は『除霊』を試してみたが、A級ランクに振り分けられる霊を祓えるはずもなかった。
キマイラでは強さをランクで表しており、最低F。
最高sssのようだ。
これは例えばモンスターの強さや、冒険者の強さ、装備品の質、クエストの難度を表したりする。
日に日に苦しそうになるフィリアを見てられず、背伸び村へ急ぐことにした。
きっとボルダーさんには考えがあるはずだ。
ーーー
「ここが…背伸び村」
背伸び村は名前から大体想像できるとおり、なんでもかんでも背の高い村であった。
住宅も高層ビルのように高く、強風に煽られると直ぐに倒れてしまいそうだ。
この村では背の高いものが偉いらしい。
すると長身の男が近づいてきて、
「なんだチビ共!俺様はナガルだ!よろしく!」
なんだこいつ。
「や、やあ。俺達は『ラディアンス』ってパーティーだ。王都に向け旅をしている」
ナガルは首を傾げると、納得したように笑顔になった。
「なーんだ!チビ猿共!お前らチビは『過去の写鏡』に用があるんだろ!?なら案内してやる」
口がところどころ悪いが、とても良い奴なのだろう。
何も言っていないのに全ての事情を察した様に俺たちを導いてくれた。
「『過去の写鏡』を受けるには一人100万マントル必要だ。ちゃんともってるか?クソチビ共」
「え?」
そんなこと一度も聞いたことがない。
それ故に、エフォートビレッジやメリーナ戦で得たお金はすべて西の都市で使い果たしてしまった。
「…ないです」
おずおずと俺が答えると、ナガルはびっくりしたように、
「まじか…お前ら身の丈にあった生活してんのな。感心だが無感心!帰れ!もしくはうちで働け!」
「す、すまない!って、え?働かせてくれんの?」
「あたりめえだろ。金がねえなら働く。常識だろアホ猿共」
罵倒に背の高さが関係なくなってきたが、ありがたく仕事を与えてもらうことにした。
ーーー
ナガル、というより背伸び村の村人達は全員口が悪いものの、いい人達であった。
なんでもすぐに察してくれるので、気兼ねなく関わることが出来た。
ナガルはなんでもB級冒険者らしく、いずれはsss級クエストも受けてみたいという。
1週間死にものぐるいで働き、確実に一人百万マントルも稼いではいないのに、『過去の写鏡』に案内してくれた。
背伸び村を訪れる人の殆どは『過去の写鏡』目当てだそうだ。
「ここが『過去の写鏡』だ」
平坦な荒野にぽつんと中くらいの岩。
その上にこじんまりとした手鏡が置いてあった。
「もしかしてこれが『過去の写鏡』?」
あまりにもちゃちいので、疑ってしまった。
「そうだぜチビ。これが得の高い鏡だ」
手で持っていいか確認をとってからその手鏡を手に取った。
刹那、脱力。
視界が闇に染まり、語感が失われていく感覚がした。
そこで俺が目にしたのは『過去の』俺だった。
ーーー
「早く出せよ!お前ディエマの超レアカード当てたんだろ!」
そういって友達のともくんからカードを奪ったのは友達のハルくん。
どっちも大切な友達。
それなのに、俺は何もせずにただ事の次第を眺めていた。
「なんだこれ。小学生の頃の…俺?」
画面が切り替わる。
「お前さ、最近うざいんだよ。死ねよ」
そう言ったのは友達のハルくん。
そう言われたのは友達のあきらくん。
あきらくんは泣いていた。
悔しいと言って、それでも何も出来なくて、苦痛の渦中に吸い込まれていた。
俺は傍観していた。
「胸くそ悪い…」
過去の自分に嫌悪を抱いてしまいそうになる。
画面が切り替わる。
「ねぇねぇ知ってる?ハマヤス高校の高木ってやつが自殺したらしいよ?」
知ってた。
昔からの友達。
集団いじめにあっていて、毎日登校が辛そうだった。
「もうやめてくれ…見たくない!」
画面が切り替わる。
「美扇さ。俺、好きな人出来たんだわ」
「へぇ。気になるな」
「宮原さん!2組の!」
「あぁー。お前好きそうだもんな、ああいうタイプ」
知ってた。
三谷が宮原さんのことを好きなこと。
「ねぇねぇ、美扇くんっ!何読んでるの?」
「…小説だよ。ある国が大きな企みをしてるのを、英雄が止めようとする話。案外作り込まれててさ…」
宮原さんから話しかけてきたんだ。
俺はそんなつもりじゃなかったのに。
「もう…止めて」
画面が切り替わる。
「ねぇ…美扇。もうそろそろ部屋から出てきてよ。お母さん心配よ」
「…んー。ご飯ならそこに置いといて」
知ってた。
お母さんが心配してくれること。
ただでさえ親バカなのに、息子がひきこもって大丈夫なはずがない。
「…もう」
苦しくなって塞ぎかけた心。
「ミオ」
フィリア…?
画面が切り替わる。
「あたしを旅に連れてって」
塞ぎかけた心が広がっていくのを感じる。
「あたしを旅に連れてってよ」
月が綺麗だったあの夜。
もう悲しませないって決めたんだ。
画面が切り替わる。
「おはようございます。ミオウさん!」
レアド。
王都に行くために父親を説得したんだ。
あれが初めての共闘だったのかもしれない。
画面が切り替わる。
「私、この旅に参加して、楽しいなって感じる。おかしいよね。目的が目的なのに…」
西の都市で鍛錬中、リトーと話したことだ。
そう言って貰えてとても嬉しくなった。
画面が切り替わる。
「あの時俺に説教したお前はどこにいったんだ!お前の心持ちはその程度だったのか」
ボルダーさんに怒られたんだっけ。
前を向けって。
視界が開けて真っ白な世界に一人。
過去の出来事を変えることはできない。
これから広がっていく未来をどうするかが重要なんだ。
だからといって過去を忘れるなんて都合のいいことは出来ない。
全部背負って、未来を創るんだ。
ーーー
「…」
意識が戻った。
頬は濡れていた。
みんなが心配そうに見つめてる。
「改めて、みんなありがとう。これからもよろしく」
俺にとっては自然な流れだったが、みんなは顔にハテナを浮かべていた。
「み、ミオウさん…それって…」
「ん?なにかついてるか?」
顔をさすると、何か段差があるように感じた。
「な、なんか着いてるぅぅ!」
ナガルが宥める。
「落ち着けチビ!『過去の写鏡』を使うと一時的に顔に模様が入るんだ!その模様がついている時、お前らは神に保護される!」
「全てを受け入れた時、神が与えたもう神力。やはり伊達ではないな」
ボルダーが自身の刀を抜いて、構えたので、美扇は体をのけぞらせる。
「え?なにすんの?」
刀身が半弧を描き、美扇が両断されたかのように見えた。
「ギャァァァァァ!…って、痛くない?切れてない!」
「それが『過去の写鏡』の力だ。それと、言い忘れていたが、もし失敗すれば死ぬ可能性もあるぞ」
ボルダーの一言に一同ゾッとする。
「で、でもやるしかないなら…あたしやる!」
「フィリア…お前なかなか勇気あるな」
真剣な面持ちで、フィリアは手鏡を手に取った。
次回は『過去の写鏡』フィリア編からです。