俺氏、指名手配される
メリーナとの戦いは終わった。
結局は突然登場した『悪魔の下僕』にいい所取りされた訳だ。
しかしメリーナは完全にやられた訳では無いようだ。
腕を一本斬り飛ばされると、煙とともに消えてしまったというのだ。
村人達を助けるということには成功したが、黄金教徒の手掛かりは何一つ得られなかったようなのだ。
「不甲斐ないな…逃がしちまうなんて」
モールと名乗った『悪魔の下僕』の一員が自責の念を抱く。
「いいんですよ!当初の目的は村人達の救出ですから…」
「いや…俺らの目的は黄金教徒の方だった。突然乱入しちまったからなんにも説明できてなかったな」
確かに怪しい一団だが、さっき言っていたモールの心を安心させる魔法だろうか、全く敵意も疑いも湧かない。
「俺らは王都の雇われ冒険者だ。ま、全員ちょっと過去に悪さしてるけどな」
「王都直属!?凄いじゃないですか!」
「いやいや。直属とはちょっと違うな。俺らは裏の仕事限定。忍者隊って聞いたことあるか?そいつらみたいなもんさ」
「忍者隊…王都の諜報員…」
「まあ俺らは諜報員って柄じゃねえ。ただの戦闘軍団だ」
そんなこと喋ってしまっていいのだろうか。
「ところで…あそこにいんのはグーラだよな?王都直属剣士の家系ニュートリアス家の次男だろ?なんでそんな大物がここに…俺たちと同じく任務か?」
「グーラ様が言うにはたまたま時の村に視察に来ているとか…」
「かー!全く貴族はやることが派手だねえ!こんな大軍集めて黄金教徒とドンパチかよ」
「まあこれは時の村の衛兵所の管理主のモラル・メルクさんのお蔭でもあるんですけどね」
あんなに大勢。
それでもメリーナには勝てなかった。
まさかあそこまでとは。
侮っていた。
「ふん。まあそう落ち込むなよ!きっと黄金教徒との再戦も、仇討ちの機会も巡ってくるさ」
こいつをやると言って飴をくれるとどこかへ歩いていってしまった。
「はっ!魔法が解けたのか…感情がぐちゃぐちゃだ…はは」
リトーは平気なのかな。
メリーナにやられた時尋常じゃないほど苦しんでいた。
「すみません。リトーさんは無事ですか」
「は、はい。無事なのです」
悪魔の下僕の一員の治癒魔法使いが診てくれていた。
「よかった…なんやかんやいっても、仲間なんだよなあ」
突如、リトーの体が発光した。
「うわっ!なんだ!?」
姿を現したのは剣鬼バルクレア。
「ふむ…リトー…とかいったな。契約がまだであった」
「ば、バルクレアさん!契約してくださるのですか!」
「ふん…気まぐれだ。どうせクレイは死んでるんだ。スピノスのように新たな体と契約するのも悪くないと思ってな」
随分と一方的で乱暴な契約を済ませると、バルクレアはアンロックキーに帰ってしまった。
「あ、嵐のような契約なのです…」
「はは…武器精霊はこんなのばっかりなのかな…」
ーーー
美扇達
「ぐあっ!」
落ちた。
ほんのちょっとだけ。
「ど、どうやら助かってはいるみたいだな」
「こ、こわかった…」
口が乾いてきた。
『転移』の都度『幸運』を使うのは実に難行苦行だ。
「ここで千里眼!」
『千里眼』
その名の通り千里を見渡せるスキル。
ただしレベル1の俺に見えるのは精々半径100メル。
「む、村がある!」
十数回目の転移にして、やっと村を見つけた。
「取り敢えず九死に一生を得たな。お疲れ様だ、ボウズ」
「ありがと、ミオ」
「はいよ。そんじゃ、行きますかね」
辺りは草原。
着いた村には人の気配。
「すみません!俺たち旅のものなんですけど!」
ひとつの家のドアが開かれ中から白ひげを蓄えた老人が顔を出した。
「なっ…まさか貴様は、ミオウ!?」
…?俺の名前を知っている?
「俺を知ってるのか?」
「し、知ってるも何も…」
「おいボウズ。なんか悪いことしたのか」
「いやしてねえよ!?」
「貴様が全スキル所持者のミオウですよね」
なるほど。
王都からはさほど遠くない村なのか、俺の話はここ迄届いているようだ。
「いかにも」
やっと俺にもドヤ顔のチャンスが巡って来たか〜。
「捕らえろォォォォ!」
「ウソォォォォ!!??」
ーーー
「はあ、はぁ…一体なんだったんだ?」
「どうやらボウズは指名手配されているようだな。それも広い範囲で。ヘヴン海域の先の大陸であるエフォートビレッジやホウルヴィルにはそんな情報来なかったけどな」
「そんな…」
取り敢えず安全地帯に転移できたのは良かったが、まさか王都付近で指名手配されていたなんて…。
「フィリア。仮面を錬金してくれないか?チープな素材で構わない」
「わかった!錬金!」
「こ、こりゃまた随分と可愛いな…」
犬の面かよ…
「ありがとう。俺は指名手配されてるが、2人はされてないだろう。なんとか周辺地域の情報を見つけてくれ」
「ああ、任せろ。まあ時間停止を使って盗み見てもいいのだがな」
「おいおい。さらに罪が重くなったらどうするんですか」
「あたしは最初からミオは怪しいと思ってたけどね!ねえ聞いてよおじさん!ミオね、初めてあった時急にハグしてきたのよ!」
「お、おい!誤解を招く言い方するな!ボルダーさんもあからさまに引かないで下さい!」
また掘り起こすのか…
「まあいい。まずはレアド達との合流が先決だ。この3人では急な場面を乗り切れないかもしれん」
レアドとリトー、それに二人と契約しているスピノスとバルクレア。
ラディアンスにとってとてつもない力だ。
それ無しで未知の地域を歩き回る訳には行かない。
「ここは恐らくヘヴン海域を超えた先、王都のある大陸だ。何故か俺が指名手配されている。その上ここがどこかわからない。一度レアド達のいる大陸に戻ろう」
ーーー
「ボウズ、ここはタミル村と言うらしい。やはり比較的王都にちかいが、どちらかと言えばクレア王国に近い。つまり、ヘヴン海域も四元島も近い」
「どれくらいでホウルヴィルに戻れる?」
「急げば明日には」
明日か…。
それにメリーナとの戦いがどうなったのかも気になる。
しっかりと冒険者なり衛兵なりに協力してもらえたのだろうか。
倒せたのだろうか。
レアドとリトーは無事なのか。
「わかった。できるだけたくさん『瞬足』をかける。3人分だと少し時間がかかるが、そのあとはもう走るだけだ。ヘヴン海域はどうやって渡る?」
「ヘヴン海域は時計回りに回り続けている。つまり自動的に各島、または大陸に着くようになっている。因みにリトーの嬢ちゃんが欲しがってる蘇生アイテムはその海域の中心部にある。まあ相当危険だし、今の俺たちでは確実に命を落とすがな」
「そ、そんな怖いとこ行かないでよ!ミオ!」
「い、行かねえよ!?俺も行きたくねえよ!」
「船を借りよう。この大陸の岬に知り合いが船を持ってる。そいつが生きてりゃそのリモ電で通信できるはずだ。随分昔にしたイデア更新だから繋がるかはわからんけどな」
「まあやるしかないよな…」
名前はマスカット・ボーダンか。
「…繋がった!」
「私が伝えよう」
「やっとリトねえに会える!」
ーーー
ホウルヴィル
「そんでぇ?金髪くん。君たちこれからどうすんの?」
悪魔の下僕のチャラい金髪、スパル。
「あんたも金髪だろ?みんな挙って僕を金髪くんって呼びやがって。僕はレアド。レアド・フイッシュだ!」
「はいはいわかったよレアドくん。そんで、どーすんの?」
「…パーティーメンバーを待ちます。きっと戻ってきますから」
「ふーん…信頼してるんだね。俺たちとはおー違いだ」
「どういう…」
「ま!いいや!俺たちもう用事済んだし。王都にちゃっちゃか帰りますかね」
「ちょっ!まっ…」
「んじゃねー」
悪魔の下僕の5人は魔方陣に入りたちまち居なくなってしまった。
「…はぁ」
この戦い、僕は何も出来なかった。
むしろ迷惑かけて。
「そう肩を落とすな…レアド」
「グーラ様!すみません、気分を悪くされましたか」
「いやいや、勤勉だね君は。私だってこの戦いで何も出来なかったさ」
「そんな!ご謙遜を…」
「いや、本当さ。みんな私をすごいすごいと囃し立てるけど、実際私はそれ程でもないんだ。ニュートリアス家の肩書きを背負っただけの凡人なんだよ。さっきは自分のことを力を持つものと言ったが、あれは嘘さ」
とても悲しそうな目をするんだな。
「ごめん!歳が近い青年と話すのが久しぶりでさ!皆畏多いって俺から離れていくものだから話し相手がなかなかいなくてね」
「こ、光栄です!こんな僕なんかでいいんでしょうか」
「もちろん!これからは敬語はよさないか?共に騎士を目指すものとして、よき仲間、ライバルとして接しようじゃないか」
「グーラ様はもう既に立派な騎士様でいらっしゃいます」
「いやいや!俺はまだまだだ。今回の戦いはほぼスキルに頼っていた。こんなものは実力じゃない。俺は剣で生き残りたいのだ。でもまだ恐怖心があってね。どうしてもスキルに縋ってしまう」
「…本当に宜しいのですか?」
「ああ!よろしく、レアド」
「こちらこそ…グーラさん」
「はっは、さんもいらないよ」
「よろしく!グーラ!」
ーーー
「お前とまだリモ電繋がってよかったよ」
「ひっさしぶりだなぁボルダーの旦那!そっちは?」
「パーティーメンバーのミオウとフィリア嬢だ」
「…お前、また冒険者に戻ったのか?レアドくんは」
「あいつも同じパーティーだ。それに、これは冒険じゃない。各々の目的の為の旅だ」
「親子が同じパーティーって…たっはっは!おもしれえ」
なかなか優しそうなおじさんだ。
「お前が守ってやれよ」
「もちろん。命に変えても」
おお。
鳥肌が立った。
船をマスカットさんに借り、海域の波に乗れるまでオールで漕ぎ続けた。
「さて、久々に顔合わせるかな!」
ーーー
メリーナ戦に参加した大勢はホウルヴィルから撤収した。
ホウルヴィルの村人は沢山の感謝と果物をくれた。
村長さんも元気そうだ。
クレイさんのことはみんな残念がっていた。
死因を詳しく調べると、白骨化はメリーナの魔法の実験台にされたかららしいのだ。
とても惨い。
墓を立てた。
美扇達が戻ってくるまではホウルヴィルに滞在できることになっている。
英雄として崇められるのは小っ恥ずかしいが悪くは無い。
リトーもすっかり回復し、寧ろ以前よりも元気になっている。
取り敢えず良かったのかな。
ーーー
「うおぉぉぉぉ!波すげぇぇ!」
美扇達はヘヴン海域の海流に乗り、ブーツ島を過ぎ、そろそろオドール島を通過するところだった。
「うっぷ。悪いボウズ。吐きそうだ」
「ボルダーさん船酔いかよ!船内で吐かないでくださいよ!」
「ミオ!楽しいもっと揺らして!」
「アホー!無理に決まってんでしょーが!」
早く二人に会いたい…
ーーー
王都軍事管理部
「いんやー悪いね大将殿。追い詰めたんだけど逃しちまったんだわ…黄金教徒の手掛かりは全く残されちゃいなかった」
仕事を失敗したことをメイズから聞かされ大将は激昂した。
「クソッ!こっちは大金払ってんだぞ!しっかり仕事しろ!それに、誰のおかげでムショ出られたと思ってんだ!」
ミアスも挑発する。
「わーってるよおっさん。何?あたしたちの仕事にケチつけようってんの?それとも体目当て?」
「ちっ…ガキが舐めやがって」
モールが反論。
「ガキとかいってやりなさんな、大将さんよ。俺ァもうガキとかいう歳じゃねえんだぜ?むしろジジイだ」
「お前には言っとらんわ!」
見るに、大将も限界のようだった。
「まあまあ、大将殿。落ち着きなされ」
「貴族長マリア様…」
先程までぶらぶらしていた悪魔の下僕が全員かしづいた。
「貴様らッ…」
「ふん。いい子達だ。ミアスくん。今晩私の部屋に来なさい」
「…はい。マリア様」
「ちっ」
舌打ちしたのは悪魔の下僕、モール。
「なにかな?モール」
「いやあね、ちょっときんもいなーと思っただけですよ」
室内が緊張する。
「俺がいつでも慰めてやるのに。よりによって破瓜も迎えてないような16のガキを選ぶのかよ。多分くせえぞそいつ」
「たわけ」
より一層緊張が高まる。
「いんだよ、モールのおっさん。これって実は結構儲かるんだぜ?破瓜なんてとっくに過ぎた。金が入るんなら構わねえさ」
切なそうな表情がモールのスイッチを押した。
「貴族ねぇ…つまらん奴らだ。今ここであんたを仕留めることも容易いぜ?」
「…忍者隊」
マリアの拍手に合わせて黒ずくめの集団が部屋のそこかしこから姿を現した。
「ふん…捕らえよ」
「おっさん…」
「クソッ!」
こうしてモールは王都の地下牢に閉じ込められた。
毎日地下からは男の悲鳴が聞こえるらしい。