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無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
だからあたしは幽霊が苦手なの!【呪いの村編】
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黄金教徒

「ここがゴルフォール大橋…」


圧巻の景色にレアドとリトーは圧倒させられる。

端と最下層が見えぬほどに長く深い渓谷。

そこをとてつもなく大きな橋が掛かっている。

木材で作られたそれはちゃちな作りではなく、安心感を覚えるほどがっしりしている。


ここまでの道中、レアドとリトーはたくさんの猛獣、悪魔に遭遇した訳だが、ここで武器精霊(スピノス)の強さを体感した。

自分たちが何もしなくても良いほどに一瞬で決する結末。

不完全燃焼さえ感じさせる程の刹那に全ては終わっているのだ。


スピノスはレアドと相性がよく、契約している槍乙女である。

その名に恥じぬ美貌と力を有していながら、人間観察を趣味とする悪趣味な武器精霊だ。

ただ、頼もしいことに変わりはない。


この先にある時の村が、レアドとリトーの向かう場所である。


「早く時の村で衛兵さんや冒険者さん達に知らせないと、ミオウさん達が危ない」


「わかってるわ。いきましょう」


圧巻の景色に気を取られる暇もなく、2人は再び走り出す。


ーーー


「これは…」


軌跡(リコール)』を使ってホウル・ヴィルで起こった一連の出来事を解明した。


「何が見えたんだ?」


「まずい…早く逃げないと」


ドガン!


村の方から爆発音。

急いで駆けるボルダーさんを引き止めることが出来なかった。


「みお!何を見たの!?」


「まだいるんだ…村の中に…あいつが!」


「ぐあっ!」


少し遠くからボルダーが打撃を受けた鈍い音が聞こえた。


「ボルダーさん!」


「大丈夫だ!それよりこいつは…」


そこに現れたのは、両目を眼帯で隠し、水着ほどの薄着をした少女。

ただ、その少女の正体を知る美扇からすれば、そんなことはどうでもいいことであった。


「こいつは何かの組織の幹部だ…!魔王軍かはわからない」


少女はすぅ、と小さく息を吸うと、とてつもない大声を発した。

鼓膜が震え、耳を覆わずにはいられないほどだった。


「んふふ…魔王軍とかいう野蛮な連中とひとくくりにするでない。人間」


まだよく耳が聞こえない。


「お前は何者なんだ!目的は!何故村の人に魔法をかけた!」


「一方的に質問するとは…やはり人間は愚かしい」


宙に浮いていた少女は地面に降り、背中をぐぐぐと前に傾けた。


「まあよい。どうせ君たちはデスオアデス。どのみち死ぬのだからね」


あまりの緊張感に喉を鳴らす。

それはフィリアもボルダーも例外ではない。


「わたしはメリーナ。黄金教徒の幹部が一人。この村にはクレイ・バスケットという(かたき)がいたものでね。村人達は殺すと可哀想だからお人形にしてた」


くすくすと笑う姿が妙に子供っぽくて不気味だ。

怒りよりも恐怖が打ち勝ってしまう。

それにしても、首謀者は魔王軍ではなかったらしい。


「へ、へぇ…村人達解放してくれちゃったりしないですかね」


「それはむーりー」


「ですよねぇ」


どうするどうするどうする!?

なにかこの状況を打破する手はないか。


「それじゃあ。死んでね〜」


体が痙攣(けいれん)する。

もはや立つこともできない。

少女の手には魔法陣。


なんの魔法なんだ…


ーーー


「かはぁっ!」


俺、フィリア、ボルダーさんは無事だ。

初っ端俺を絶望させた『転移(テレポート)』に命を助けられるとは。


「た、助かったのか?今のはボウズのスキルか?」


「あ、あぁ。ギリギリの選択だったが」


しかしどこかしら欠点のあるスキル。

ここがどこかは分からない。

運良く王都に直通…なんてことはなく、森の中のようだ。


「とりあえず東に向かうか…」


ーーー


東に向かいつつ状況整理だ。


「ボルダーさん。黄金教徒ってなんですか」


「過去に1度、王都と戦争をやった巨大宗教組織だ。裏で財政を操ってるとか、国の重要な役人達も隠れて参加してるとか、悪い噂は絶えない」


魔王軍の他にそんなやばい輩がいるとは。

幼女や愉快な仲間たちと外壁工事の護衛をしていた時とは一変、スーパーウルトラハードモードになったようだ。

この世界について知らないことが多すぎる。

無知は敵だ。


「そいつらの活動目的は?」


「わからん。突如王都に侵略し、捕虜達は終戦の後理由不明の爆散をしたようだ。戦争理由も何もかも、わかっていない」


益々不気味な連中だ。

さっきのメリーナとかいう少女からも、今まで感じたことの無い殺気を感じた。

あれは本当に人間なのだろうか。


「どれくらいの人数いるんでしょうね」


「それもわからん。万とも数十万とも、はたまた百人とも言われている。魔王軍よりも知られている情報は少ない」


アジトやトップの存在など聞くまでもなく分かっていないだろう。

それにボルダーさん曰く、戦争はエフォートビレッジに転居後に起こったことで、参加はしていない故、より情報がないとのことだ。


「まずはホウルヴィルの村人達をどうにかしないとな」


あのとき『軌跡(リコール)』でみた惨状。

メリーナと死神装束の複数人が村を襲う様子。

次々と魂の抜けたように立ち尽くす村人達。

家から引きずり出された老人、恐らくクレイ・バスケット。

その殺され方の惨さに、目を閉じても再生が止まらないスキルを一瞬恨んだ。

その後取り巻きは姿を消し、メリーナだけが村に残った。

一人一人に魔法をかけ、あやつり人形(マリオネット)として遊んでいた。

それから俺達が参上し、この有様だ。


「遺体が腐るほどの長期間滞在していたのか。それに、俺達が入村してすぐに現れなかったのも不思議だ」


「あのひとたち助かるのかな…」


「心配すんな!俺達が何とかするさ。いや、一緒にしよう」


頷くフィリアを宥め、次にすることを決意した。


「とりあえずレアド、リトーと合流しよう。『念話(テレパシー)』を使う」


ーーー


「ん…なんか頭がおかしくないですか?」


「確かに、ぐわんぐわんするわね」


キーン…


「「うっ!」」


鼓膜を突き抜けるようなノイズが走り、耳を塞がずには居られない。


「一体何が…」


ゴルフォール大橋の半ば、敵が襲ってくるはずのない場所だ。


(おい!レアド、リトー!聞こえるか!?)


「この声は…ミオウさん!?どこかにいるんですか?村の人達は?」


(まあ落ち着け。俺達はホウルヴィルで起こったことの全てを知った。だが潜んでいた黄金教徒とかいう連中の幹部に襲われた。犯人もそいつだ。止むを得ず『転移(テレポート)』でどこかにとんだ。どこかは分からない。そこでお前達と合流したいんだが、今どこら辺だ?)


「ゴルフォール大橋のちょうど真ん中くらいです。あと少しで橋を抜けて、時の村に着くところです」


(もうそんな所まで…わかった。俺達はここがどこかわからないからとりあえず最寄りの村を探す。時の村に着いたらホウルヴィル村人奪還作戦の旨を衛兵か冒険者達かに伝えてくれ)


「分かりました。それで作戦の内容は」


(相手は一人、黄金教徒の幹部、メリーナとかいう薄着な少女だ。魔法をくらいかけたがあれはやばい。だが察するに精神異常系の魔法だ。それなら村人達にかかっている魔法にも合点が行く。マジックキャンセラー、もしくはそんな感じのスキルを持っている奴がいると助かる。俺レベルのスキルじゃ瞬間的に太刀打ちできないから無理だった)


「そんな高レベルな魔法を使うんですか。魔法は相当な研究や練習、実践を積まなくては成就しないんです。そのメリーナがそこまでの魔法使いなら何かしらの国と関わっている可能性もありますね」


(今はそんなことはどうでもいい。とりあえず村人救出が最優先だ。俺のスキルももう終わる。しっかりと伝えてくれよ!)


ぷつっ


何かが切れたような感覚に陥り、美扇との通信は途絶えた。


ーーー


「まさかこんな大事になるなんて思いもしませんでした」


「そうねぇ〜、これだから人間は面白いのよ」


勝手に出てきたスピノスは楽しそうに笑う。


「ちょっとあんたねぇ。こっちが真面目に頑張ってるってのに何その態度は!」


「あら、そんなに睨まないで。綺麗なお顔が台無し」


バチバチの2人に挟まれ肩身の狭いレアドであったが、いち早く時の村に着くために急いでいたため2人を(いさ)めることも忘れていた。


「あっ!あの大きな風車。きっとあれが時の村ですよ!」


中央に巨大な風車。

それを円状に住宅街が囲み、とても整った街並みだ。

時の村と言うだけあって、そこかしこに時計や砂時計のようなものが見える。

蔦や植物が適度に陣取った壁がなんとも情趣に溢れている。


「ここが時の村…初めて見たわ」


「私はクレイくんと何回か通ったけどね〜」


予想以上に大きい村だ。

もはや街である。


「早速だけど衛兵が集まる場所に行こう。その後にギルドに行って依頼を出そう」


ーーー


「だーかーらー!ホウルヴィルっていう村に黄金教徒が現れて無茶苦茶してるって言ってるでしょーが!」


先程から状況を説明しているが、一向に信じてもらえず、黒ひげが逞しいおじさん衛兵に(きびす)を返せと急かされている。


「まずいな…確かに証明材料がない…」


困ったことになった。



「もしかして、貴方はスピノス様では!?」



突然声をかけてきたのは丸眼鏡の男。


「そうですわ。して、そなたは?」


「こ、これは失礼!私はモラル・メルク。ここの衛兵所(えいへいどころ)の管理人です」


モラル・メルクはクレイ・バスケットの旧友で、S級冒険者である彼に時折魔王軍や黄金教徒関連の頼み事をしていたそうだ。


「やはり彼は殺されましたか…。私が彼に押し付けたばっかりに…」


「何があったかお聞かせ願えますか?」


「十年前、まだ彼がS級冒険者であった時。王都と黄金教徒間で戦争が起こったのはご存知ですね?それが終結すると、なんの痕跡も残さず綺麗に黄金教徒は消えたのです。中にはとんでもないスキルや魔法の操り手もいました。そんなとき匿名で黄金教徒がクレア王国に潜んでいるという情報を受けました。それを確かめるために彼に依頼した」


「その後クレイさんはホウルヴィルに隠居した訳ですね」


「隠居という訳でもないですが形式上はそうです。彼は事実黄金教徒の誰かと接触しました。しかしその事実以外何も覚えておらず、記憶が不鮮明。その上精神異常をきたしたものだから冒険者を引退したんです」


「精神異常!ミオウさんが言っていたのとおなじ」


「マルタくん。彼らが言っていることは真実だ。衛兵、それも選りすぐりの人達を連れて行ってください」


そう言われると先程厳しい顔をしていた黒ひげの男は真剣な眼差しで「御意」と言い退室した。


「彼はとても優秀な衛兵だ。きっと、素晴らしい衛兵を呼んでくれる。君たちもホウルヴィルに戻るのかい?」


「もちろんです。どうやら僕の父が村長と知り合いのようなので…。それに、少し気になることもあって…」


「でも心配だね。他に何か情報はあるかな」


「僕達のパーティーリーダーのミオウさんという方が言うには、相手は精神異常系統の魔法を使うようです。スキルの有無は不明です。そこで、精神異常耐性が必要だと言っていました」


ふむ、と考え込む動作をするモラル。

そこに爽やかさを感じる透き通った声が響いた。



「その仕事、俺に任せてみませんか?」



白い騎士服に身を包み、情熱的な赤い髪色をした青年が入室した。


「俺はグーラ・ボア・ニュートリアス。王都から時の村視察に来たんだけど、なんか楽しそうな話してるのが聞こえて宿から飛び出してきたよ」


情熱的、それでいて品位を感じる佇まい。

一挙手一投足が美しく、揃っている。


「なっ!あなたはもしかして王都直属騎士の末裔、ニュートリアス家の次男、グーラ様!?」


「へぇ、僕のこと知ってるんだね金髪少年くん」


騎士を目指すものなら当然ですと恐縮するレアド。


「竜殺のブレア様に続きグーラ様にも会えるなんて…」


「知らない名前ばっかりなんだけど…」


やれやれと首を振るリトーに本来の目的を言われるとレアドはハッとしたように伝える。


「多種多様な術を使えるグーラ様に折り入ってお願い申し上げます。そのお力を貸していただけないでしょうか」


「もちろん、いいよ。微力だけど力を持つものの義務だからね。それで、敵は?」


「メリーナ。黄金教徒の幹部です。精神異常系統の魔法を使います」


「うん、聞こえてたけどね」


子供っぽい笑みを浮かべた。


宿から聞こえたと言っていたがなんと化け物じみた聴力だろうか。

人智を超えた能力に圧倒させられる。


「わかった、直ぐに準備するよ。やっと身体を動かせる機会が巡ってきたね」


なんと頼もしい助っ人が加わってくれたのだろう。


ーーー


あれから3時間。

短時間でよくここまで集めたものだと感嘆するほど多勢の姿があった。

なんだなんだと家から騒動を覗き見る住民もちらほら。


時の村には沢山の冒険者や衛兵が集められた。

近辺の農村や街町からも集められたらしい。

それに加え、レアド、リトー、グーラの姿もある。

衛兵を指揮しているのはあの黒ひげの男、マルタだ。


「目指すはホウルヴィル!敵は黄金教徒幹部!絶対に逃がすな!そして村人達を奪還せよ!」


おぉ!と地面の揺れるような声が轟く。

こんなに協力者が来てくれたのもスピノス、モラルさんのお陰だ。


「出征!」

こうしてメリーナVS(バーサス)連合会の第二回戦が始まった。

ご愛読ありがとうございます。

遂に明かされつつあるホウルヴィル異変の真実。

様々な幸運に恵まれ第二回戦が始まるわけです。

この戦いを含めてホウルヴィル編になります。

次回も是非よろしくお願いします。

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