サルサVS異色同盟
「とりあえず、金の杯もゲット出来たし。あの二人は病院に送ったし。帰るか」
早速帰ろうとするブレアをミリアが引き留める。
「待って待って!私たちこんなに遠くまで来たのにもう帰っちゃうの!?ブレアが戦っただけじゃない!もうちょっと遊んでこーよー!」
「ま、それは一理あると思うっす。自分も武器屋とか見てみたいので」
ザンテツも賛同する。
「カリゴはどうする?」
「俺も、いい盾がないか探してきます。あの二人に歯が立たなかったのが悔しいので…」
「よし!じゃあ明日の朝。門に集合な!解散っ!」
各々喜びながら散っていく。
どこにいくかなー、と考えていたブレアのリモ電に、通信が届いた。
ーーー
「くそっ!リトー!回復系の魔法か何か使えないか!?」
「ダメよ。魔法は学校に行かなきゃ教えてくれないもの」
「そうだ!フィリア!止血のためにレアドの傷口に硬い物質を生成してくれ」
「わかった!錬金!」
レアドの傷口は岩石のような物質に覆われていく。
するとすぐに出血は止まりほっとした。
しかし、依然状況は変わらない。
先程地面に落下してきた二匹目の猿がむくりと起き上がった。
「バインドバインドバインドバインドバインドバインドバインドバインド…」
高速詠唱にもなれてきた。
しかし、スキル耐性の強い猿になかなか通用するようなものではなかった。
「だめか!フィリア!敵の心臓の位置はわかるか?」
「まだ体構造わからないからムリ!」
どうする。
一応リモ電でブレアに連絡を送ったが、エフォートビレッジに行っているとすると、時間がかかりそうだ。
俺とフィリアでやるしかないのか…。
事態は思っているよりも深刻だった。
突如猿が大きな声で騒ぎ始めた。
すると、上層の洞穴から何体もの猿が顔を覗かせ、しきりに落下してきた。
さすがにこの大群には勝てない。
猿の大群の中の一頭が、他の猿を黙らせた。
何かを猿たちに伝えているようだが、全く聞き取れない。
ひとしきり話し終えると、猿の大軍に道を開けさせた。
つまりこいつは、俺がやる、と言いたいのか。
「上等だよ。かかってこいや!」
「ボウズ…いかん」
「ボルダーさん!まだ体力回復してないだろ」
「私の事はいい。それよりそいつはエンブ・サルサ。三大猿長と呼ばれる特に上位の猿の三匹のうちの一匹だ。さっき私が倒したのはキリ・サルサ。あと一体もどっかにいるはずだ。気をつけろ…」
こんなに強い奴らがまだそんなにいるのかと思うとゾッとする。
早く来てくれ…!ブレア!
「ぐあっ!」
「ミオ!」
ゴーストフォレストの時に受けたダメージが回復しきってない上、こんなザコスキルでは全く歯が立たない。
『錬金』を使わせるにもあの巨体じゃ体力を大きく消費する。
さっき倒したキリ・サルサを除いてあと二体も三大猿長がいる。
こんな所で立ち往生していられなかった。
「畜生…」
理不尽な力への恐怖と仲間を傷つけられた憤怒。
意図せずまたあの力が作動しそうになった。
しかしそのスイッチは押されずに留まった。
「流星!」
鋭い閃光と共に、辺りは爆風に包まれた。
「案外早かったな」
「大丈夫か!『ミオーズ』の皆!」
「いや、そんなダサいチーム名じゃないんだけどな」
束の間の安堵。
「悪いが俺っちは魔法が使えない!戦うだけしか出来ないからよろしく!」
「いや、心強いよ」
今の一撃でエンブ・サルサ以外の猿はあらかた吹き飛んだようだ。
「知ってるかもしれねえけどあいつはエンブ・サルサ。ほかの猿共とは格が違うらしい」
「わかってるぜ。俺っちの『流星』を受けて立ってられるんだからな」
「これがブレアさんのスキル…あたしも負けてられない!」
美扇、フィリア、ブレア。
三人が集結し、事態は優勢に見えた。
しかし、その希望は打ち砕かれる。
「ミオウさん!上を見て!」
リトーに言われた通り上を見上げる。
影…?
激しい衝撃。
地面が揺れ、俺は膝から崩れ落ちた。
「ぐあはっ!」
「ミオウ!」
「ミオ!」
「ミオウさん!」
はっきりと認識した。
そいつはあのエンブ・サルサよりも一回り大きい猿。
「そいつが三匹目の三大猿長。リキ・サルサだ!ボウズ!避けろ!」
俺は『防御』を高速詠唱。
ただし直撃したリキ・サルサの一撃はそれをも貫通し、俺に多大なダメージを与えた。
「かはっ」
「鉄隕石!」
ブレアの体技が命中したものの、煙幕から傷一つないリキ・サルサが再び姿を現した。
「なんだと…。効いてない?」
ブレアは王都直属の冒険者チーム『ブレッシングズ』のリーダー。
竜殺のブレア。
三大猿長なぞに負けるはずがないと確信していた。
「今の体技はエンブ・サルサが受けていたのか!」
エンブ・サルサは演武の達人。
いかなる攻撃も無力化するほど熟達した武闘家であった。
「そもそも何故こんなに猿達が凶暴化してやがんだ!」
「錬金!」
フィリアが体力を振り絞りエンブ・サルサの片足を岩石化した。
しかしその代償は大きく、フィリアまで倒れてしまった。
「おい!フィリア!体力が尽きたのか…」
レアド、ボルダー、フィリアは戦闘不能。
リトーは守りに徹しており、美扇はリキ・サルサの一撃で動けない。
頼みの綱のブレアも先の試合で体力を消耗してしまっていた。
ゴーストフォレストでの悪霊のペザトリアとの戦い。
エフォートビレッジでのブロウ、ウォンとの試合。
エフォートビレッジから白金の山に来るのに大量に消耗していた体力も、三大猿長との戦いでつきようとしていた。
「せめてアイツらを連れてきていれば…」
八方塞がりのこの状況に、一筋の光が刺した。
「はああぁぁぁぁっ!」
突如参戦したそいつは獣人。
「お前は!リビアか!」
美扇達にゴーストフォレストで悪霊の住処を教えてくれた獣人である。
「まさかまさか!この私が来ようとは、全く思っていなかったそこの青年!…名前なんだっけ?」
「俺は美扇だ!ところでどうしてこんな所に」
「実は最近ここいらで獣達が暴れてるからその調査に来てたんだよね〜」
なるほど。
ゴーストフォレストの地理に詳しかったのもそのせいか。
何はともあれ、今の一撃でエンブ・サルサは落ちたようだ。
…ってか、こいつ強くね?
「おい…こいつ」
ブレアが目を丸くした。
まずは猿を倒す。
「なんだい?竜殺しくん!今はこいつらに集中!この私は魔法も使えるから後でそいつらも治してやるってな!」
「ありがとう!残るはリキ・サルサのみだ!」
「それは違うよ!ミオウくん!」
は?
まさか…
「猿の軍団、『マニューバー・サル』には三大猿長の他に、首領がいるんだよだよ!?」
嘘だろ…。
「さすがに首領となるとこの凄い私でも手に負えないかもしれないんだよ」
「ミオウはその時のために高速詠唱しといてよ。ここはこいつと俺っちに任せて」
こういうときは素直に聞いておくのがいいと長年のオタク歴が語っている。
高速詠唱開始だ!
リキ・サルサの無慈悲な一撃がリビアに向かって振り下ろされる。
「ひや〜こんなのまともに食らったらいくらこのすんごい私でもやられちゃうかもかもですよ〜」
「流星!くそっ!もうスキルは使えないか…」
「この私にまっかせて!紅爆撃!」
爆撃が見事リキ・サルサに命中した。
よっし!と喜ぶリビアの腕をすかさずリキ・サルサが掴んだ。
「げっ!」
「まだ動けるのか!」
高速詠唱の途中。
目を薄く開いたフィリア。
「あ…そこ…に…誰かが」
リトーがフィリアの指さした方を見ると人影を見つけた。
「誰!」
追いかけたいがレアド達を放っておけない。
「あたしは…もう平気…あれを追って」
「こういう時は渋らないのが得策よね。わかった!」
リトーは人影を追いかけてついに捕まえた。
「うぅっ!離してぇ…」
「…?人?」
引き摺ってフィリアの元へ連れていく。
「こいつがその人影だよ。よく気づいたねフィリアちゃん」
「あなたは誰?」
捕まえられた男は10代後半くらいで前髪の伸びた。
つまり第一印象は暗そうな男。
「ぼ、ぼぼぼぼ僕は…えっと…急にこの世界に来てぇ…その…なんか生き物操れる?から道行く旅人脅かしてただけで…」
まさか…同じ日本出身か…?
詠唱の途中だが一時中断。
「お前、日本から来たのか?」
「ニホンってミオが住んでたっていうあの…?」
「は…はい」
「一連の事件の首謀者はあなたという訳ですね。なぜ問いただしてもいないのに自白したかはわかりませんが、私たちをこんなにボロボロにした罪は重…」
リトーの言葉を遮って聞く。
聞く必要がある。
「やっぱお前…」
「な、なん…」
「ヒキニートだろ」
聞きなれない言葉に困惑するフィリアとリトーを置いて話を進める。
「そうなるんですかね…。発起して面接行くも全落ちしてヤケになって寝ずにゲームしてたらいつの間にか寝てて…起きたらここに…」
「お前もか…」
久しぶりの同業者に少し安堵するが、こいつはこの猿達を操り凶暴化していた犯人でもある。
「起きたらこの猿達に囲まれていて、必死に逃げましたがそこには沢山の虫と幽霊…途方に暮れていた僕は天からある力を授かりました…」
「それがその。『操作』のスキルか。それも高レベルの」
「は、はい…。ゲームをしていた僕はすぐにわかりました。ここが異世界だって。それで虫にスキルを使用すると姿形が変わり、猿たちを操ると彼らを使って道行く冒険者をボコボコにしたりしました」
「そんな…無茶苦茶な…」
「い、いひひ…いいんですよ…これは天啓…この力を使って僕は!今まで散々世界に嫌われてきた!今度は僕が復讐してやるんだ!」
たまにいるんだよなぁ…。
ゲームになると性格変わるやつ。
でも…
「おい、お前勘違いしてんだろ」
「はあ?今更遅いね!僕はこの猿共を使って!」
俺は怒りを感じていた。
「この世界の人々は生きている。お前はゲームのプレイヤーなんかじゃない。腹いせにしていいことじゃねえんだ…」
俺を優しく、鋭い光が包む。
あの時のように。
「お前がやってんのは…復讐なんかじゃねえ!ただの胸くそ悪い、一方的な暴力なんだよ!」
「う…うるさい!お前に何がわかる!ちょっといい顔してるからって調子にのんなよ!どうせ今まで大した苦労せず育ってきたんだろ!?今から僕の奴隷猿がお前らを潰すから待ってろ…よ?」
「どうやら猿は」
「このすごい私たちがぁ!」
「「倒しちまったぜ!!!」」
そこには倒れたエンブ・サルサ、リキ・サルサの姿。
「ありがとう二人共」
純粋な怒り。
誰かのための怒り。
俺の正義の怒り。
その怒りは溜めていた高速詠唱と共に首謀者に呪縛を与えた。
「絶対神術!永久束縛!!!」
周囲は一瞬にして光に包まれ、首謀者はその中で完全に動けなくなった。
「く、かはっ…」
「多分一生解けない『拘束』だ。そこで一生後悔してろ」
「やったやった!ミオが勝った!」
光に包まれたレアド、ボルダー、傷ついた猿達は復活していた。
「いまのが…ミオウさんの超パワー…」
「私も、初めて見たよ。あれがボウズの力か…」
「怒りの超パワー。彼の正義の怒り」
「ブレアもありがとう。それにリビアも…ってあれ?リビア居ねえぞ」
「とりあえず、勝ててよかったよ。俺っちはパーティーメンバーの元に帰らなきゃ。今回は『ミオーズ』に借しも作れたしね」
「だからそんなダサい名前じゃないんだけどな」
「そういえばあたし達にパーティー名なかったよね」
「やっぱ『ミオーズ』…」
「「「「「それはない」」」」」
五人にまとめて却下され落ち込むブレア。
「じゃあこういうのはどう?」
「『ラディアンス』、輝きのパーティー」
「ミオウさんのあの光はまさにそんな感じでしたね!」
「悔しいけど俺っちもそのセンスには脱帽だぜ」
「そうだ!俺達は『ラディアンス』だ!王都に向けて再出発だ!いくぞ!」
次の行先はホウル・ヴィル。
また新たな事件が幕を開ける…
「ところで僕はどーなるのさあぁぁぁぁ!」
首謀者、一途 神谷を白金の山に残して。