俺氏、二面へと進む。
灼熱の大地。
足を踏み入れた途端に何者をも凍らせるツンドラの大地。
渇き、飢える大地。
吹雪、嵐が交える大地。
sss級クエストとはこのような過酷な大地での仕事となる。
それらをそつなくこなすもの達はこう呼ばれる…
«資格の獲得者»
と…
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「今日の仕事も終わったぁぁ…」
白目を剥きながら自分の体に蓄積された疲労を重々と味わう。
「あたしも疲れたぁぁ…お腹すいたぁぁ…」
こちらも同様。フィリア様もお疲れのご様子。
「でも!体も随分と鍛えられてきましたね!ほら!今では力拳が…」
むむむむ…と己の筋肉と格闘するレアドを放置する。
「ミオウは疲労困憊だな!よぅし!酒場へレッツゴゥだぜ!」
「マルグスのおっちゃぁぁん…勘弁してくれ〜…」
いつもと何も変わらないこのグダグダトークもあと1週間もせず終わりを告げる。
噛み締めたい気持ちでいっぱいだが、疲労には勝てない。
今日はゆっくりしよう…
と思ったのだが。
旅についてきたいというリトーの事を何も知らずについてこさせる訳にも行かない。
ここは不本意ながらマルグスの案に乗るしかない…
ーーー
「がっはっはっはっ!おいじじい!酒持ってこぉい!」
すっかり酔っ払ったマルグスは放っておいて、リトーと話を進める。
「それで…リトーさんは大切な人を甦らせるために旅についてきたいと…」
「その通り…よ。あなた達の足でまといにはならないように注意するわ」
今日の働きぶりを見るにどちらかと言えば俺の方が役立たずの足枷野郎なんだが…
「あぁ。リトーの力を貸して貰えるのはこちらとしても嬉しい。なんせ、このメンバー全員いわく付きのスキル持ちだからな」
「ひぃどいっすよぉみおすわぁん…僕だってぇぇ…」
「おいお前飲み過ぎじゃないかレアド…」
息子が父に止められるというなんとも不思議な場面を目の当たりにしたが気にしないでおこう。
「ねえねえ。リト姉はある人を甦らせたら旅を途中でやめちゃうの?」
フィリアは「リトー」を「リト姉」と呼ぶまで親しげにしていた。
「そうね…そうなるわ」
「それじゃあ連れて行けないな」
「えっ?どうしてミオ。連れて行ってあげれば…」
「これは命がけの旅だ。途中で降りるなんて許されないぞ」
「ごもっともだ」
俺がこんなに口酸っぱく指摘するなんて、自分でも驚きだ。
「だが、リトーさんの気持ちはわからなくもない。自分だけ残された時の疎外感は拭えないもんな…」
自分の境遇と重ねてしまった。
「こうしようリトー。俺達もリトーの願いは叶えられるように最大の努力はする。けれど、大切な人を生き返らせるのは終着点じゃだめかな」
リトーは少しの思案の後。
「そうだね…いいよ。そうしよう。あなた達が連れていってくれるなら」
「出発は六日後の朝だ。入村門で待ってる」
ボルダーはレアドを抱えて自宅へ。
リトーも自宅へ。
俺とフィリアはいつもの宿へ。
マルグスはきっとまだ酒場で寝て店員に迷惑をかけているであろう。
ーーー
俺たちの外壁守備の仕事は数日なんの変わりもなく進んだ。
多少変わったことはリトーが加わったこと。これにより個人の負担が多少軽減された。
それでも大きな疲労に変わりはないのだが。
「フィリア!そっちに行ったぞ!」
「はぁっ!」
昆虫型モンスターの核を的確に他の物質に変換するフィリア。
この『錬金』のレベルも上がり、今ではLv.38だ。
因みに俺の『錬金』は相も変わらずLv.1。
「やばいです!限りなく頭が痛い!」
「昨日酒飲みすぎたんだろ!これからは控えろよレアド!」
「いかん!俺も頭が痛い!」
「ちゃっちゃと壁作ってくれおっちゃん!」
「ッ!」
「大丈夫かリトー!本調子じゃないんだからほどほどにしろよ」
「うん」
こうして数日が経過した。
ーーー
「よし!リトーも来たし!ようやく…次の村へと進む!」
皆一斉におー!と言って返す。
「資金は約百万!無駄遣いせずに行くぞ。今回はキャメルを人数分借りてある。保水、荷物入れも完備してある。忘れ物無いようにな」
さながらピクニックにでも行くかのような朝礼。
しかしこれは地獄とも言える長い道のりのゴングを意味していた。
「それじゃあ行こう!次の村、ホウル・ヴィルに!」
これは序章である。