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杖術を学ぶこと

よろしくおねがいします


 学校で期末テストの答案が返ってきた。結果的には事前の答え合わせと同じ点数を取れており、安心して夏休みに移行できる点数だ。


 他の面子も問題無かったのだろう、晴れやかな表情で期末テストの結果を見ていた。


 秀平の学校では学年順位などを廊下に張り出したりはしていないし、順位がどれぐらいかは分からない。


 ただ教師との面談の時にはどの程度の位置に居るのかは教えてもらえるので、それを指針に自己勉学に励んでいた。


 もうすぐ終業式になろうかというその日に、昼休み中にガジェットが静かに振動する。


 見てみると奈緒からのメッセージで、奈緒の実家の道場に見学に行く日取りの話だった。


 早ければ今日の夕方からでも問題ないとの事で、秀平はすぐに今日伺う旨を返信する。


 土日のダンジョン探索を潰したくないし、平日の夕方からなら空いてる時間だし問題ないという判断だ。


 最近はゲームもとんと触れていない為、自主勉強をするか昼寝するかしかない。


 再びガジェットが震え、奈緒の実家の最寄り駅を連絡してくれる。


 どうやら待ち合わせて連れて行ってくれるようだ。


 ありがたいという旨の返信を行って、放課後になるのを待った。


 テストの返却期間であった事からそこまで密度の高い授業では無かったが、授業も終わり放課後になる。


 秀平は手早く荷物を纏め、最寄り駅へと向かった。そこから電車で二駅が、奈緒の実家の最寄り駅だ。


 意外と家が近いなと思いつつ改札を抜けて周囲を見渡すと、私服姿の奈緒とひとみがいた。


 向こうも秀平の存在に気付き、手を振って近づいてくる。


「や、こんにちは~」


「どうも、こんにちは」


 ひとみののんびりとした挨拶に律儀に返事をして秀平が頷く。


「よし、それじゃあ向かおうか。駅からそう遠くないからすぐに道も覚えると思うよ」


「分かりました、よろしくおねがいします」


 奈緒の先導に付いていきながら、秀平が軽く疑問に思った事を問いかける。


「お二人とも、この時間大丈夫なんですか、学校とか」


「私達同じ授業取ってるけど、この曜日は毎週午後空いてるんだ~」


「まぁ大学自体も近所だし、余計に時間が空いているのよ」


 その言葉に、秀平の頭の中で近所の大学がリストアップされ、その中に自分の志望校が入ってるのを確認する。


「もしかして近所の大学って国立ですか」


「そうそう。もしかして島長君の志望校?」


「えぇ。公募推薦で受けようと思ってます。近所ですし」


 その言葉になるほど~と頷いてからひとみが応じた。


「私達も入ったばかりだし偉そうなこと言えないけど、ちゃんと授業受けてればついていけないって事は無いと思うよ。推薦枠で受けられる学力があるなら十分だと思うよ」


「大学の講義はこれまでの授業とは大分違うから、そこに慣れるまでは大変かもしれないけれどね。三ヶ月もすれば慣れるよ」


「授業受けるのが申告制で先着順だったりするから、早め早めに取るのが良いよ」


 そんな大学生活に関するアドバイスを受けつつ奈緒の実家へと到着する。


 そこは確りとした門構えの古式の家で、門からすぐに道場が設けられている。


 開かれた門には「東雲古武術道場」と達筆に描かれた看板がかけられ、その存在感をアピールしている。


 奈緒はその門をくぐって道場内へと案内してくれる。


 道場は板張りの場所と畳の床に分かれており、壁には数々の賞状や木製の槍や木刀、刺又なんかが飾られている。


 内部には既に門下生が何人もおり、各々が木刀を振って稽古をしていた。


 その門下生に指導をしている袴姿の壮年の男性と、畳の床に正座して各門下生を眺めている老人の男性が奈緒達に気付く。


 壮年の男性は恐らく奈緒の父親であろうと当たりをつけて、その姿を眺めていた。


 しっかりとした姿勢に隙きのない振る舞い。なるほど凡そ武人と呼ばれるような人であるのは間違いが無いだろうと感じた。


 男性はそんな秀平の視線に気付きつつも、にこやかな笑みを浮かべて話しかけた。


「やぁ、君が島長君かな。ウチの奈緒がダンジョンでお世話になったようで、まずはお礼を。ありがとう」


「いえ、こちらこそ厚かましくも道場への見学をお願いいたしまして」


「ウチとしては門下生が増えるのは歓迎だからね。ひとみちゃんもお久しぶり」


「おじさん、お久しぶりです」


 一通り挨拶を済ませた所で早速本題へと移る。


「それで、島長君は杖術を勉強したいとか。確かひとみちゃんもそうだったね」


 その言葉に秀平はえっ、と声をあげつつひとみを見る。その事にひとみは少し恥ずかしがりながら頭をかいた。


「いや~、この間のダンジョンで不覚を取ったから、流石に鍛えないと厳しいかなって。幸い奈緒の実家が道場だしお願いしようかな、ってね」


「なるほど。確かに今後もダンジョンに潜るなら武術を勉強しておいた方がいいですよね」


「そうそう。奈緒にだけモンスターの相手を任せるっていうのは嫌だし、ね。まぁ私ヒーラーだから基本的には補助魔法と回復、数少ない攻撃魔法でモンスターを相手しつつ接近されたら杖術で、っていう構想をしてるんだけどね」


 ひとみの戦闘スタイルになるほどと頷きながら、秀平は奈緒の父へと同意を返した。


「俺は前に出る戦い方なので、今よりもっと杖術を勉強して強くありたいと思っています」


「うん、分かった。それじゃあとりあえず今の二人の腕前を見るから、そこの壁にかけてある杖を持ってもらえるかな」


 奈緒の父が指す壁には秀平の家にある六角棒と同じ程度の長さ、太さの棒がある。


 その棒を手に取り、2本目をひとみに渡す。


 棒を受け取ったひとみは意外と重いその感触に若干驚きながらその棒を受け取った。


「よし、じゃあ二人とも。杖を構えて」


 そう言われ、構える。秀平は普段通りに、ひとみは緊張気味に正面に向け構えていた。


 その姿を見て奈緒の父は頷くと構えを解くように指示する。


「島長君の方は基本は出来ているようだね。ひとみちゃんは、まずは構えから勉強しよう。それから素振りで身体を鍛えるのが良いね」


「は、はい!」


「島長君は……一度奈緒と打ち合って貰おうか。奈緒、いいかい」


「えぇ、大丈夫よ」


 そう言うと奈緒が壁にかかった木刀を手に軽く素振りをする。それが終わると秀平に向かって正眼に構えた。


「さ、いつでもどうぞ」


 その奈緒の言葉に一つ頷くと、秀平も奈緒に向けて構える。


「行きます」


 それと同時に、前へ躍り出た。


 まずは正面に振り下ろし。それを斜めに受けて反らした奈緒に長さを利用した跳ね上げ。避けられた所へ突きを放つ。そのどれも木刀で受けきった奈緒が、反撃に転じる。


 袈裟斬りからのすくい上げ、それを杖の中心を持って左右に開き杖で受けると、反対に右から左へ杖を振るう。バックステップへ避けられた所へ尺を長く持つと振り下ろす。それを正面から止められると、カンと木同士の打ち合う小気味良い音が道場へと響いた。


 その姿勢のままお互い鍔迫り合いをしていると、待ったがかかった。


「良し。実力は分かった。お互い本気で無いとは言え奈緒と打ち合えるなら大したものだ。それに若干実践の匂いがする立ち会いだ。どこかで既に習っていたのかな」


「いえ……杖術はゲームでやっていて。実際に誰かに師事するのは初めてです」


「なるほど、ゲームか……。奈緒、感触はどうだった」


「えぇ、我流でここまで打ち合えるなら、師事を受けたらもっと良くなるんじゃないかしら」


 奈緒の言葉に父がうんうんと頷き今後の指導方針を伝える。


「それじゃあ、週に2回。学校帰りにウチに通うのはどうかな? 月謝はいらないが、その代わりに奈緒とひとみちゃんと一緒に、ダンジョンへ潜ってほしい」


「え、別にダンジョンへ潜るのは構いませんが……月謝はいいんですか?」


「あぁ、構わないよ。ダンジョンへ奈緒が潜るのは腕試しの側面が強くてね。ほんとは止めさせたいんだけれど……」


「私の剣が実戦で通用するか、試してみたいじゃない」


「とまぁこんな訳だ。こちらとしても仲間が増えてくれた方が安心できる、という訳で島長君にお願いしようかな、とね」


「そういう事なら。それじゃあ今後ともよろしくお願いいたします」


 そういう形で、秀平が週に二度放課後に東雲流道場へと通う事になった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「うん、分かった。それじゃあとりあえず今の二人の腕前を見るから、そこの壁にかけてある杖を持ってもらえるかな」 動きやすい服装に着替えなかったのですね。
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