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初ダンジョンアタック

よろしくおねがいします。


 愛用の六角棒を手に持ち、背中にリュックサックを背負い洞窟の中を進む。


 洞窟内はほのかな明かりが灯っており、視界が利かないという事は無い。まるでそれが当たり前であるかのように、天井に柔らかな明かりが発生している。


『ダンジョン案内小冊子』ではヒカリゴケの一種であり、魔力を吸収して生命活動を行っている、ダンジョン産の新しい生物と記載されている。


 そんな中を秀平は六角棒を持ちながら進んでいくと、道の先に地面を這いずる獲物の姿が現れる。


 秀平が初めて東京ダンジョンで倒した、緑色の芋虫だ。


 相変わらず無抵抗、無防備に地面を這いずっている芋虫に秀平は六角棒の先端を向ける。そこからは光と共に魔法陣──マジックサークルが展開され、風の刃を射出する。


 着弾と同時に芋虫は真っ二つに切り裂かれ、光となって消えた。


「……どうにもオーバーキルな気がするな」


 今の風の刃は秀平の思い描く魔法の中で初歩の初歩、低級に属する魔法である。何も考えずとも発動できる簡単な魔法で、この威力。


 念の為を思って冒険者登録研修後初めて一人でダンジョンへ訪れたので第五階層から魔法の試射と共に芋虫狩りを始めたのだが、現状でも十分やっていける。


 秀平はそう結論付けると、さっさと第五階層の石碑へと向かい、第六階層へと進んだ。


 第六階層も第五階層と同じ洞窟のフロアだ。


 だがここからは、モンスターの配置が変わり、人間を襲ってくるモンスターが現れる。なので慎重に進もうかと思っていたが、周囲にはいたる所に人の気配がする。


 その気配の先を見てみるとやはり他の冒険者がおり、剣や槍、盾なんかを振り回していた。


 低階層だから人が多いのだ。


 モンスターの出現もそこまで危険度は高くないが、第六階層からはモンスターは資源を落とす。その資源目当てに人が寄ってくるのだ。


 これじゃモンスターより人の数の方が多いんじゃないかと秀平は思いつつ他の冒険者とバッティングをしないよう歩を進めた。


 しばらく歩いていると正面から空中を飛んで黒い塊がやってくる。洞窟に出現するモンスター、吸血コウモリだ。


 バサバサと羽音を鳴らしながら一直線に秀平目掛けて飛んでくるコウモリ目掛け、六角棒に魔力を纏わせ打ち据える。それだけで、コウモリは光へと消えていった。


 コウモリの落下地点に落ちていたのは、紫色の小さな石とコウモリの片翼。魔石と素材だ。


 コウモリの飛膜は多少水に強い皮といった性質らしいが、片翼一枚程度では大した金にはならない。魔石もこのサイズでは子供の小遣いにもならないサイズだ。


 だがこれが秀平の初めてのドロップアイテムとなる。魔石と片翼をリュックに入れて、再び先へと進む。


 遭遇するのはコウモリばかり。他にもモンスターはいるのだが、全て他の冒険者を相手をしている状況。


 これは面白くない、と秀平は見切りをつけて次の階層へと進む事にした。


 石碑を見つけて第七階層への入場券を獲得すると、さっさと進む。


 だが第七階層でも同じく、人の気配で溢れていた。


 今日は冒険者登録研修の終わった翌日で、日曜日だ。だからこんなに人が溢れているのだろうと考え直した。


 週末冒険者。


 ダンジョンが現れ、冒険者という存在が広く認知されてから現れた週末のみ活動するお手軽な冒険者達の事だ。


 かく言う秀平も進学するまではその週末冒険者の仲間入りをする予定で、こうして休日にダンジョンへとやってきているのだが。


 それにしてもこんなに同業が多く存在しているとは思わなかった。


 だが確かに東京都の人口を考えるとこれだけの数を集めてもまだ一割も居ないのだろうと感じながら、続いて第七階層をスルーする。


 続く第八、第九階層も人が多い事を実感しながら寄ってくるコウモリだけを六角棒でしばき倒し、進んでいく。


 第十階層へと入場すると、お、と雰囲気の違いを感じた。


 先程までは人の熱気がダンジョンに篭っていた気がしたが、第十階層ではそれが無かった。


 ようやく人の気配が途切れてきたかなと思いながら通路を進んでいくと、コウモリと共にそれは姿を現した。


 地面を這いずる大きな塊。節が多く見えるそれは、自然のものから見れば何倍にも大きな、サッカーボール程度の大きさのダンゴムシだった。


 うわぁ、でかいと思いながら近づくと秀平に気付いたダンゴムシは丸まってコロコロと秀平へと寄ってくる。


 どうやらこれはダンゴムシの威嚇・攻撃行動らしい。


 一緒に飛来してきたコウモリを六角棒で叩きのめし、ダンゴムシを風の刃で切り刻む。


 風の刃は思ったよりも簡単にダンゴムシの身体を切り裂き、その生命を途絶えさせた。


 光と共に消え、残されたのはコウモリと同じ程度の大きさの魔石と、丸っこい皮のようなもの。


 持ち上げてみると意外と軽く、それでいて硬い。どうやらダンゴムシの表皮と思われるそれをリュックへと仕舞う。


 この程度の相手なら、まだまだ先に進んだ方が良いかなと考えながら、秀平は通路を進んでいった。


 * * *


 第十一階層。


 ダンゴムシを秀平が見る事が出来た次のフロアには、急激にモンスターの数が増える。


 ここから先は指数関数的にモンスターのレベルが上がり、それと同時に凶暴性も増大する。


 ダンゴムシ、コウモリの他に大きなアリが群れを成していた。 


 大きな、とは言え小型犬よりも小さい程度のサイズだが、やはり自然界からは大きくかけ離れたサイズだ。そのアリの群れに六角棒に竜巻を纏わせて振るう。


 振るえば振るうだけアリのどこかしらが抉れ、千切れていく。次々光と消えるアリの団体には、これまで3つ遭遇していた。


 先程までよりは遥かにモンスターを倒している、という実感の強い状況であったが、それでもまだ足りない、と秀平は思う。


 使っている魔法は未だ初歩の域を出ず、本気すら出していない。なんというか、冒険している感じがしないのだった。


 そんな事を思っていたが、これが一般的な成り立て冒険者であれば、このアリの討伐数は驚異的な数となっている。


 ただこの、特に秀平の会得した魔法に関してはそういった数字を容易く覆せる程度の力を持っていた。


 成り立て冒険者では単騎で挑めば大怪我するような相手ではあるが、今の秀平からすればどこまでも物足りない相手であった。


 向かってきた全てのアリを屠り、その姿が光になるのを見届けてから後に残されたものを拾う。


 コウモリよりも少し大きい程度の魔石と、多くはアリの足と思われる部分だった。他にも僅かながらアリの尻部分や、頭が丸々落ちていたりするが、これはいわゆるレアドロップの類だ。通常のドロップは、アリの足だった。


 結構な数のそれを拾っていると、秀平のポケットの中に入れていたガジェットが音を奏でる。仕掛けていたアラームの音だ。


 ダンジョン内に関しては電磁波が入らないようになっている為、通常のガジェットを利用した通信手段などは使用できない。だからといってガジェットが使えない訳ではなく、こうして単独で使用可能なアラームや時刻表示などはちゃんと機能していた。


 その音を止めて時刻を見ると、既に夕方となっていた。これは秀平の中で決めていた制限となる時間だ。一応受験生である秀平は自分の中で冒険者活動の時間制限を設けて、自制しながら続けていこうと考えていた。


 アラームはその一環でアラームが鳴ったら撤収する、という決まりを設けた。余程の理由が無ければアラームを無視する事はしない、とも。


 さてそれじゃあ帰って勉強するか、と秀平は気持ちを切り替えて撤収した。


 新たに第十二階層へ進むための石碑を見つけ、そのまま外へと出る。時刻は夕方、夕暮れがこれから伸びていく季節の中、多くの冒険者と共にダンジョンから脱出する。


 ダンジョン入り口前に設けられているゲートへ向かい、冒険者証をゲートにタッチして開いた通路を抜ける。自動改札と同じ構造のゲートは人の出入りを管理するのに都合が良かった。


 背負ったリュックサックの重みを感じつつそのまま併設されている大きなプレハブ内へと進むと、中は人が多く溢れ、スーパーのレジのようにカウンターが並んでいた。


 ここは冒険者ギルドが設けているダンジョン素材の換金所だ。


 冒険者はここでダンジョン素材を売却し、現金を得る事ができる。勿論売却しないという選択肢もあるが、秀平が現在進んでいる程度の素材ならば、売却してしまった方が割高だ。


 規則正しく整列している人の列に秀平も並び、順番を待つ。やがて秀平の番となり、背負うリュックサックのジッパーを開いてそのままカウンターへと乗せた。


 それを受け取ったカウンターの人物がリュックに手を突っ込み次々と素材を出して計算していく。計算はやはりレジと同じPOSシステムで管理しており、若干原始的だが手打ちで素材が何か、数はいくつかを計算していた。


 そして同時に魔石を籠に入れて纏めて、重さを測る。測定すればデジタルで金額を算出してくれる惣菜屋などに置かれているのと同じものだ。


 リュックサックから全ての素材を取り出した後は計算して払い出しをするだけ。チーンと音と共に秀平に渡されたのは、現金にして約五万円だった。


 一日の稼ぎとしては割高な、とは言え命がけでダンジョンへ入った割には安値としか言いようがない微妙な金額に、それでも貴重な小遣いだと感じながら買い取りカウンターから出ていく。

 

 帰りに食後のデザートでも買って帰るかな、などと思いつつ、秀平は東京ダンジョンを後にした。

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