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冒険者登録研修のしおり

よろしくおねがいします。


 島長秀平は一時期、ゲームにハマっていた。


 現代では技術の進歩によりモバイル向けでもよりダイナミックなシステムを揃え、オンラインゲームはよりグラフィック精度を上げ、リアルさをどこまでも追い求めた。


 そんな中VR技術は更に発展し、ヘッドマウントディスプレイをぶら下げてコントローラーを握る操作から、五感全てをVR空間にダイブさせ、VR空間にまさしく息づくフルダイブVRゲームが誕生した。


 現在はゲームと言えばフルダイブVRゲームが主流である。


 そんなフルダイブVRゲームの中で、世界人口の3%ものユーザーを獲得しているゲームがある。


 現実は、そのゲームのシステムに近似したものを、ダンジョンとか世界に導入した。


 ダンジョン関連の話題ではこのゲームの話は切っても切り離せない話になっており、現在の世界の仕組みを知りたいものはこのVRゲームのプレイを始め、その情報を現在の冒険社会と照らし合わせたりしている。


 秀平の中では、自分の中のVRゲームブームは既に終了していたので、今更また新しくゲームをするつもりは無かった。


 ダンジョンの情報はダンジョンの情報で取捨選択をしながら得ていくが、それは現実での話だ。


 今はそれよりも、ダンジョン探索に向けた心積もりをしておこうと考えた。


 自宅の庭、そこまで広いとは言い難いが縁側のある庭に、普段から使っている六角棒を持ち出し、素振りをする。


 この習慣は秀平が一時期ハマっていたVRゲームと関連がある。現実での技能が反映されやすいフルダイブ型VRゲームの場合、身体を鍛えておいて損は無かった。現実での動きが、VRゲームではより華麗になって反映される。それに気付いた秀平は、現実でもこうして鍛錬を行う事にしていたのだ。


 その習慣はゲームを休止──事実上引退しているのと同じだが、アカウント等の情報は生きている為休止である──している現在まで続けられている。


 六角棒を構え、上段から振り下ろす。中程を持って振り上げ、両手を添えて突く。棒術、否、杖術を元に自分なりの簡単な鍛錬だ。


 それでも真剣に行っていれば筋肉は応え、汗をかき雫が身体から溢れる。


 そうして一時間程の素振りを終えて、最後に六角棒を水平に持ち、息を整え静かに佇む。


 この時、秀平の中では何かが起こっていた。


 その何かが具体的にならず、どこかもどかしい。手が届きそうで届かない、そんな感覚を、最近は特に強く感じていた。


 この何かを確たるものにしたい。その為にはどうすればいいのか。わからないが、きっと。その答えは、ダンジョンにある。


 冒険者になる為に両親に向けた説明などただの詭弁だ。実際には秀平が興味あるから、きっと、この何かをどうにかしたいからダンジョンへ行くだけにすぎない。


 さぁ、島長秀平。お前に覚悟は出来ているか。島長秀平、先へ進む時だ。


 今日は、冒険者登録研修の当日だった。


 * * *


 冒険者ギルド東京本部。


 そこは既に工事が開始されている巨大な空間があるが、ギルド自体は既に運営されていなければならない。


 ならばどうするか、プレハブで仮本部をでっち上げていた。


 いくつものプレハブが並ぶ中一つのプレハブ内に人が集まっていた。その中に秀平も居る。


 壁にかけられたホワイトボードには「冒険者登録研修会」と記載されており、そこが研修会の会場である事を示唆していた。


 会場に設けられたパイプ椅子は満席で、付属の小さな机の上には冊子がいくつも積まれている。


 『冒険者になるには』『冒険者と法律の関係』『冒険者心得読本』『ダンジョン案内小冊子』


 こうしてやたらと小冊子を作成したがるのはお役所仕事だなと思いながら、パラパラと小冊子をめくる。


 そんな事をしていると扉が開き、外からスーツ姿の女性が姿を現した。


 デキるキャリアウーマン。それが彼女の印象だった。


 女性はプレハブ内を一度眺めてから、にっこりと笑顔を向けて挨拶をする。


「皆さん、はじめまして。私はこの度冒険者登録研修会の講師を行います、小野寺と申します。皆さんは本日、冒険者登録をする為にお集まりいただきました。その前に、研修がございます。一部は既に配布されております冊子を使用した講習。こちらに約二時間を頂戴いたします。昼休憩を挟んで二部には実際に東京ダンジョンへ別の講師と共に潜っていただきます。その後、正式に冒険者登録を行っていただく手はずとなっております。ここまでで何か質問はございますでしょうか」


 彼女の言葉に手が上がらないのを確認してから、彼女は一つ頷く。


「では、早速ではございますが講義を行います。まずは一番上の冊子、『冒険者になるには』から。皆さん、3ページを開いて下さい──」


 こうして講習が始まった。


 内容としては冒険者として想定される物事に関する説明、法律的なもの、税金などの処理などごくごく当たり前の内容であった。


 こうして二時間の一部講習が終わり、昼休憩後に二部講習が始まる。


 二部講習では先程の部屋に五名の冒険者ギルドが配布している、灰色のツナギを着用した男達が現れた。


「はい、皆さんこんにちは。これより二部のダンジョン実地確認を行います。皆さん貴重品をお手持ちの上、そのままで結構ですので私どもについてきて下さい」


 そう言われ男達に引きつられてやってきたのは、東京ダンジョンの入り口。


 トンネル入口程度の大きさの穴がぽっかりと空いた地下空間への入り口なのだが、その前には多くの人が賑わい、高速道路の精算所のように窓口が設けられ、手続きが行われている。


 そんな中研修の参加者は精算所の脇の入り口から入り、地下空間へと入っていく。空間内は電飾がされており明るく灯されている。


 案内する男達を先頭に、研修参加者は突き当りへと到達する。


 そこで、男達の代表が口を開いた。


「こちらが、冊子でも記載のあった『本当のダンジョンの入り口』です。この東京ダンジョンは階層型ダンジョンと呼ばれ、突き当りの石碑より階層へ入場いたします。それでは皆さん、私達五名がそれぞれ10人ずつに1人担当として付きますので、各階層へ移動をお願いします。先頭の方から貴方までは第一階層、あなたからこちらまで第二階層、第五階層までは行ったことの無い方でも自由に出入りが可能ですので、順番に入場をお願いします」


 秀平が割り当てられたのは第五グループだ。


 次々に石碑に近づいては、人が消えていく。中々にファンタジーな移動方法に胸躍るものを感じながら自分の番となり、秀平は石碑の前へ立った。


 すると頭の中へ声が聞こえてくる。


『ダンジョンへの入場階数を入力してください』


「第五階層」


 その言葉と同時に目の前の景色が一瞬光に消え、次の瞬間には洞窟の入り口と呼ぶに相応しい場所へと到達していた。

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