押し掛けメイド
いつも通り授業を受け、帰路に就く。
「ん、今日は予定でもあるのか?やけに荷を纏めるのが早いな」
例の友人が声を掛けてくる。
「あーうん、大した用じゃないんだけどね」
僕は適当に誤魔化す。
大した用じゃないと言うのは嘘だ、レジェホワのボーカルが働いてるメイド喫茶に行くのだから。
「ふーん、じゃ1人で帰るわ」
友人はそう言うと荷物を纏めだす。
僕はそのままチラシに書いてある住所を目指した。
「ここか…」
小綺麗なビルのエレベーターのボタンを押す。
エレベーターが到着すると、僕は急に緊張してきた。
やがて中に入り、3Fのボタンを押す。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
店に入るとメイド達が定番の挨拶で僕を迎えてくれた。
よく見るとメイド達もどこかで見かけた顔…というかレジェホワのメンバーだ。
あまりにも豪華すぎるメイド喫茶で僕の緊張は加速する。
「あ、きみきみ!こっち!」
ボーカルのメイドが少し離れたところから手招きする。
僕は誘導された席へと向かった。
やがて対面式の席の向かい側にボーカルのメイドが座る。
「いいんですか?お仕事中では?」
「いいのいいの、オーナーに許可は取ってるし他の子もなかなかやり手だから」
ボーカルのメイドはそう告げるとメニュー表を手に取って僕の目の前で広げる。
「ソフトドリンク一杯、サービスしちゃいます♪」
メイドは気前よく振舞ってくれるが、生憎僕には手持ちのアクエリエスがあるのであまり必要なかった。
「あ、いえ、いいです」
僕がメイドの誘いを断ると、メイドは「そうなの?残念」とメニュー表を元の位置に戻す。
「あの、ところで話したい事って…」
「うん、君の記憶の件だね」
メイドはそう告げると、真剣な眼差しになる。
最早メイドとしてのキャラは完全に崩壊していた。
「君、両親いないでしょ?」
メイドは的確に僕の生い立ちを言い当てる。
「どうしてそれを…」
メイドは「やっぱり…」と呟く。
「あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、君はこれから昨日の奴みたいなのに狙われ続けるの。詳しい話は君の頭の中での整理が出来次第教えていくけど、とりあえずしばらくの間は私が君の家に住み込みで君を守る」
メイドからの突然の住み込み宣言に僕は動揺する。
「えっ!?レジェホワのボーカルが僕の家に住み込み!?」
「あ、レジェホワ知ってるんだ?まあそんな大それたものじゃないけどね、とりあえずそれだけ伝えたかったの、今日ここでのバイトが終わったらそのまま君の家に向かうからちょっとこの店でゆっくりしていってね、君だけ全メニュータダだから」
メイドはそれだけ告げると、席を立った。
「んじゃ、そういう訳だから、よろしく!」
こうしてメイドと高校生の同居生活は始まった。