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07 吸血衝動

 その朝、目を覚ますとどうにも体が熱っぽく感じた。他は――何か喉が渇いているようなそんな感じだ。少し汗もかいているようだ。

 ひとまずいつも通りカーティスを起こして、着替えを用意して自分も部屋に戻り着替えを始める。

 その際、姿見を見たときに自分の目の赤みが増していたような気がする。あと、全身の肌が赤みを帯びていた。まるでのぼせてしまったような感じだ。

 目はともかく、症状を考えると風邪だろうか。吸血鬼でも風邪を引くんだなとか思いつつ、動けないほど辛いものでもないので着替えを済まして仕事へと出た。


 しかし、その症状は時間を追うごとにひどくなっていった。気温が高い訳でもないのに、汗が滴り落ちる。喉が渇いて頻繁に水を飲むが、渇きが満たされることはなかった。

 夕方前には歩くのもままならなくなってしまったため、他の使用人(メイド)に言い早めに仕事を上がらせてもらうことにした。

 今日はもう早めにベッドで横になった方がよさそうだ。自室へと戻るが給仕服を脱ぐのも億劫で、そのままベッドへ倒れ込んだ。


 ☆


 ――暑さで目が覚める。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。今は何時頃だろうか。少しだけ空けてあったカーテンからは闇が広がっていた。陽はもう完全に沈んで夜のようだ。

 突然ゆらり、と体が俺の意思と無関係に起き上がる。そのまま熱に浮かされたように、ふらふらと歩き部屋を出る。足を止めたいのに体が言うことを聞かない。


 とある部屋の前まで辿り着き、ドアノブが回される。中に入るとカーティスがベッドで本を読んでいるところだった。


「おや、リリスかい? 今日は体調が悪いって聞いてたから、来ないと思っていたんだけど」


 カーティスはそう言うが、俺の足は止まらずカーティスの方へ進んでいく。俺は自分の状況を伝えようと、口を開き声を振り絞った。


「ご主人……様……体が言うこと……聞かなく……」


 俺の様子がおかしいことを察知したカーティスは『止まれ』と叫んだ。

 それを”命令”と認識した隷属の腕輪が反応し、体がピタッとその場で止まった。


「……リリス、体調が悪いってどんな症状だったんだい?」


「体……暑くて……喉……乾いて……」


 カーティスの問いに対して、俺は何とか答える。

 それを聞いたカーティスは「ああ、やっぱりそうなのか」と言い、こう説明した。


「どうやら、吸血鬼の吸血行為に目覚めたようだね……。(あらかじ)め文献で調べておいたんだけど、症状がそれの通りだったよ。もっと早く気付いてあげてればよかったね」


 今日のこれまでの症状は、全て吸血行為の兆候だったようだ。喉の渇きは――血が欲しいということなんだろうか。しかし、これはどうすれば収まるんだろうか。


「体が血を欲しがっているなら、血を吸うしかないだろうね。まあ僕のをあげるつもりだったから……」

「え……ご主、人……様……?」


 奴隷である俺が、主であるカーティスの血を吸うなんてことをしていいのだろうか。とはいえ、他の人の場合でも使用人(メイド)の誰かの血を吸うことになってしまうが。

 しかしもう、喉の渇きが酷すぎて頭がおかしくなりそうだ。


「遠慮しなくてもいいんだよ。ほら早く」

「でも……やり方……分からな……」

「……うーん、文献だと首元から吸血するはずだったけど。体に身を任せればいいんじゃないかな。それじゃ『命令解除』」


 カーティスのその言葉を聞いた瞬間、体がまたふらふらと動き始めた。そして背中を向けたカーティスの元へ辿り着き、カーティスの首元に顔を持っていかれる。

 自分の口が開けられ、鋭く尖った犬歯をカーティスの首元へ突き刺してしまう。カーティスから「ぐっ」と一瞬声が漏れる。さすがに痛いだろうと思ったが、そこを思いやる余裕はなかった。突き刺さった犬歯と肌の隙間から流れ出る血を、舌を使い掬い取る。


 血の味は、現世で食べたどの料理よりも美味に感じられるものだった。朧気(おぼろげ)な記憶では、血はそんな味ではなかったはずだが。いや、味覚での満足度よりも多幸感の方が勝っている気がする。


 暫し血を味わった後、すっかり喉の渇きが収まったのを感じた。俺が犬歯で付けてしまったカーティスの首元の二つの傷は、舌で舐めていると徐々に塞がっていった。何故それで傷が塞がるのかは分からなかったが。まるで体がそうすればいいと覚えているかのようだった。


 しかし、体の熱っぽさは収まってはいなかった。むしろ、もっと増しているような気がする。どくどくと心臓の鼓動が全身を駆け巡っていて、視界が霞んでいるような感じがする。苦しい訳ではないのに、息が上がったかのようにはあはあと(あえ)ぐようだった。


「リリス? 大丈夫かい?」


 その様子を見ていたカーティスが、心配して声を掛けてきた。それと同時に肩に手を当てられた瞬間、全身に電気が走ったかのような感覚に襲われた。


「ッ! ~~~~ッ!」


 体がビクビクと痙攣して、息が止まる。その衝撃の正体は目がチカチカするほどの快感だった。

 何が起こったのか分からない俺。それを見たカーティスは心配そうに話し掛けてきた。


「……リリス? 大丈夫かい?」


 意識が少しぼんやりとしている。だが、それは突然訪れた。

 オトコノ、セイガ、ホシイ。

 突然俺の中でそんな声が響き渡る。

 まるでもう一人の自分がいるかのような感覚だ。その自分の声に抗うことができない。

 俺の目は、カーティスの体の男の象徴である一部分に釘付けになっていた。

 元男なのにこんなことは、と言う叫びはその自分に対しては全く効果がなかった。


 ――俺の意思とは無関係に、体が男を欲している。先ほどからカーティスを見ていると、無茶苦茶にしてしまいたいという欲求が体を渦巻いていた。

 どくん。一際大きい鼓動が体中に駆け巡る。もう我慢できない。


 俺はとあることを考えパチッと指を鳴らす。その瞬間、カーティスが苦しそうに口を手で押さえた。

 何かを喋ろうとしているが、むぐ、むぐと聞こえるだけ。声になっていない。――上手くいったようだ。


 俺が考えついたことは、魔法でカーティスの声を一時的に奪うこと。これで、俺に対して『命令』はできないはずだ。そしてもう一度指を鳴らして、体の自由を奪う。


 コレデ、ユックリ、アジワエル。


 目を見開いてこちらを見ているカーティスに、俺は笑みを浮かべてこう言うのだった。


「ご主人様、いただき……ます……」


 俺はベッドに上がり既に役目を果たせなくなっていたショーツを脱ぎ捨て、カーティスをどんと後ろへ押し倒した――。

お読みいただきありがとうございます。

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2016/08/22 最後の場面の展開・描写を修正。

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