06 朝のお世話
翌朝。カーティスの添い寝のお陰で、俺はゆっくりと眠れることができた。しかし、ゆっくりと寝過ぎたせいで寝坊をしてしまった。
いつまでも持ち場に現れない俺に、しびれを切らした使用人が来たのだが――。
「えっ、ちょ……なんでリリスのベッドにカーティス様がいるのよ!!」
突然の声にビックリして跳ね起きる俺。声の聞こえた方に顔を向けると、金髪の女がいた。シルファだ。何度か話してはいるのだが、少し苦手なタイプの子だ。
どうも俺に対して、あまりよく思っていないような感じがした。
「あ、あの……その……」
なぜカーティスがここにいるのか説明をしなければならないが、寝起きの頭ではなかなか言葉が出てこない。言葉を濁している俺にシルファは口を開いて――。
「あ、アンタ、もしかして……。カーティス様と夜伽を……!」
「……夜伽って、なんですか?」
シルファから聞き慣れない言葉が聞こえたので、聞き返してみる。すると、シルファは顔をみるみる赤らめて――。
「よ、夜伽っていうのは、その……。そ、それよりカーティス様を起こして! 話はカーティス様から聞くから!」
何故か顔を真っ赤にしているシルファが、顔を背けてそう言った。俺は隣で寝ているカーティスの体を揺すってみる。
「ご主人様、起きて下さい」
しかし、どれだけ揺すってもカーティスが起きる気配はない。その様子を見ていたシルファがこう言った。
「そんなぐらいじゃ、カーティス様は起きないわよ……。リリス、ベッドから降りてこっちへ来て」
シルファからそう促され、俺はベッドから降りてシルファの横へと移動する。
シルファが指を鳴らすとベッドがガタガタと揺れ初め、カーティスの体もそれに合わせて跳ねる。
その現象が魔法だと言うのはすぐに分かったが、それにしても些かやりすぎじゃないだろうか。体を揺さぶられ続けたカーティスは、とうに起きているんじゃないかと思うのだが。
「ああ、起こすときは何をやってもいいとカーティス様から言われてるから、問題ないわよ。これぐらいやらないとカーティス様は起きないわよ」
シルファは俺の心配を察したのか、そんなことを言った。そしてようやくベッドの揺れが収まったのだが、揺れでうつ伏せになっていたカーティスはぴくりとも動かない。大丈夫なのかと心配になったが、少々の間のあとゆっくりと体を起こした。
「……やあ、おはよう。シルファ、リリス」
「おはようございます、カーティス様」
「おはようございます、ご主人様」
その後、カーティスはシルファに連行されていった。カーティスの朝の世話をするとのことだが、シルファはカーティスの部屋で色々聞くと息巻いていた。
俺は自分自身の身形を整えて、朝の仕事先の食堂へと向かう。とは言っても寝坊したせいで、食事の準備には間に合わなかったのだが。
じきにカーティスとシルファが食堂へとやってきた。心なしかシルファの顔が曇っていた気がするのだが、気のせいだったか。
食事中、カーティスから朝の世話は俺に任せるという話があった。どういう意味だろうか。
その場ではよく分からなかったが、食事後にカーティスから呼び出しを受けた。一緒にカーティスの部屋へ向かう。
部屋に入り、カーティスは机の席に着く。俺は机の前に立って、カーティスからの言葉を待つ。
「ちょっと朝に聞きそびれたけど、昨夜はよく眠れたのかい?」
「……はい、とてもよく眠れました」
カーティスに尋ねられ、俺はそう答えた。寝坊するぐらいよく眠れたので体調もここ数日で一番良いようだ。
「そうか……。暫くリリスが落ち着いて眠れるようになるまでは、僕が添い寝をしようかと思っているけど、よかっただろうか」
「……はい、お願いします」
よく眠れたのは、間違いなくカーティスの添い寝のお陰だろう。俺はカーティスの提案にすぐ了承をした。断る理由はない。
「それじゃ、寝るときは僕の寝室まで来て欲しい。他の使用人には言ってあるから、朝は僕を起こしてもらえるかな。あ、シルファから聞いていると思うけど、僕を起こすときは何をしてもいいからね。一度寝たらなかなか起きられないんだ」
カーティスからそう言われ、分かりましたと返答する。寝坊しないように先に起きて、カーティスを起こすということが俺の朝の仕事のようだ。起こすときは何をしてもいいとのことだが、シルファがやったような感じにすればいいんだろうか。まあ、翌日に試してみればいいだろう。
☆
翌朝。不安ではあったが無事早く起きることができ、カーティスを起こすということも上手くいった。シルファがやったのと同じで、魔法を使ってベッドを動かすという方法だ。
多少の揺れではカーティスは起きてくれなかったので、激しく揺らして起こすことになったのだった。
その後数日間は毎晩よく眠れ、体調も優れ使用人の仕事も上手くこなせていた。とくにトラブルもなく、平和に過ごせる日々の幸せを噛みしめていた。
しかし、そんな日々が続いたとある朝。俺は突然の体の不調を感じたのだった――。
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