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03 吸血鬼とは

「さて、君にいくつか話しておきたいことがある。奴隷商から君が吸血鬼ということは聞いているけど、君は記憶がないと言ってたね。吸血鬼がどういう存在か知っているかい?」


 カーティスのその言葉に俺は首を左右に振る。全く何も知らないという訳ではないが――異常な再生能力とか。


 カーティスは説明をし始めた。吸血鬼とは、他者に吸血をして生命を維持する存在とのこと。ただし吸血行為に目覚めるのは、ある程度の年齢になってからだそうだ。

 そういった兆候はなかったかと聞かれたが、それがどういったものか分からなかったので首を左右に振った。少なくとも血が欲しいとかそういうことは思ったことがない。


 厄介なのは、血を求めると人を見境なしに襲ってしまうことだそうだ。そのせいで野蛮と扱われる吸血鬼の社会的立場は低く、一部を除いて奴隷しかいないそうだ。


 大きな特徴は、寿命らしい。吸血鬼には一千年を生きる者もいるとか。吸血鬼同士の子どもである先天的な吸血鬼はほとんどいなく、大半が他種族からの後天的な吸血鬼だそうだ。前者はある程度年齢とともに外見が成長するが、後者は成った時点でほとんど外見の変化がなくなるそうだ。


 俺がどちらの吸血鬼なのかは分からない。この体がなぜ吸血鬼なのか――。さっぱり分からない。考えても答えが出なさそうだ。

 もし後天的な吸血鬼だったら、俺の見た目は少女だが実年齢は何歳でもおかしくない訳だ。例えば百歳だということも十分考えられる。年齢不詳もいいところだ。


 他にも特徴があるらしい。人間とは違い夜行性のため、昼間は動きにくいだろうとのこと。体のだるさや眠気が起こるだろうが、我慢してほしいとのことだった。

 まあ、たぶん大丈夫だろう。受けてきた暴力に比べれば、大したことはないはずだ。


 あと、日の光はあまり体によくないらしい。日の光を浴びると、力が抜けて動けなくなってしまう吸血鬼もいるらしい。

 そう言えば施設から連れ出されるときに日の光を浴びたが、そのとき少し体がだるくなったような気がする。それをカーティスに伝えると、その程度で済んでいるのなら君は光に耐性がある方なのかもしれない、とのことだった。


 その他は俺の知っていた再生能力ともう一つ、魔法の扱いに長けているということか。

 朧気(おぼろげ)にある記憶では、前世の世界にはなかった存在の吸血鬼、そして魔法。前者があったのだから、後者があっても何ら不思議ではない。

 使用人(メイド)の中に魔法を行使できる者がいるから近いうちに教えてくれる、とのことだ。


「吸血鬼の説明はこんなところかな。……まだあるけどまあいいか」

「……?」


 カーティスは最後にぼそりと何か言いかけたけど、よく聞き取れなかった。聞き直そうかとも思ったけど、その前にカーティスが口を開く。


「ああ、僕は君を奴隷扱いするつもりはないからね。ただ、世間体的には色々不味いから、形式的に奴隷とさせて欲しい。君はこの屋敷で使用人(メイド)として、僕の世話をしてもらうことになると思う」


 カーティスはそう言って申し訳なさそうな顔をしていた。どういうことだろうか。奴隷として俺を買い上げたはずなのに、何故奴隷として扱わないのだろうか。疑問に思う俺だったが、カーティスは話を続ける。


「世の中には、吸血鬼というだけで邪険にする連中がいる。それは覚えておいてほしい。けどこの屋敷では、そういうことをする人は僕を含めていないから、安心して暮らしてもらえばいい」


 カーティスの話を聞いて思う。何故、奴隷の俺に対してそこまで優しくするのだろうか。

 いや、まだ本当にそうなのかは分からないが――。油断はできない。いつ蹴り飛ばされても、突然犯されたとしても、おかしくはない。

 俺は奴隷なのだから。


「あと、君は名前も分からないと言っていたね。さすがに名無しは不都合があるだろうから、僕が決めてもいいだろうか。もし君が呼んで欲しい名前があるなら、それでもいいけれどね」


 カーティスからそう提案され少し考えてみたが、自分自身の名前など全く思い付かなかった。カーティスに任せる方がいいだろう。名前を決めて欲しいとカーティスに伝える。


「そうだね……。リリス、という名前はどうだろうか」


 リリス、リリスか。明らかに女の子っぽい名前だが――。拒否する権利は俺にはない。


「はい、分かりました。……あとその、カーティス様は……どうお呼びすればいいでしょうか」

「うーん……ああ、ご主人様って呼んでくれると嬉しいかな」

「分かりました。……ご主人様」


 ご主人様、か。朧気(おぼろげ)にある記憶では、何か聞き覚えがある気がする。まあ、それは現世()となってはどうでもいいことだろう。



 こうして俺の使用人(メイド)としての生活が、幕を開けることとなったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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