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22 真実と告白(最終話)

「……リン、だよな……」

「うん。……シュウ君、だよね……」


 俺の声に対して、カーティスもそう返してきた。

 ほぼ確信していたが、やはりそうだったかと息を吐く。


 あの場所から離れ、とある森の中まで来たところで。

 カーティスとふたりで話がしたいと、今はケイリに席を外してもらっている。

 意味ありげな笑みを浮かべていたケイリだったが、気にしないことにした。

 ケイリは周囲を警戒しているからごゆっくり、と行って場を離れていったのだった。


 △


 眷属化のあと、先に目を覚ました俺はぼうっとしたままカーティスを見つめていた。

 ケイリに促され、目を覚まさないカーティスをふたりで引き摺りなんとか馬に乗せた。


 そして急ぎ走っていた途中で目を覚ましたリン(・・)は、明らかに様子がおかしかった。

 こちらをキョロキョロとみて、何かを言いたげな様子だった。

 おそらく何を言いたいのか、俺には分かった。俺も同じ(・・)だったからだ。


 眷属化したあの瞬間、全てとは行かないまでも失われていた前世の記憶の大部分を取り戻した。

 俺の記憶から、極めて重要な部分が欠落していたことに気付いたのだ。

 前世での最後、トラックに轢かれたのは自分だけではない。

 俺の隣には恋人であった、リンという同い年の女の子が居たのだ。


 そしてカーティスはそのリンが転生した姿であると、その記憶から判断できた。

 それはリンも同じで、俺が誰であるかを理解しているようだった。



 そう、俺は吸血鬼の少女であるリリスへと、そしてリンは商店を経営している一家の次男であるカーティスへとそれぞれ転生を果たした。

 転生時に俺はある程度記憶を引き継いでいたが、リンは全く残っていなかったようだ。眷属化するまで、一切俺のことは覚えていなかったらしい。


 それはさておき、なぜ性別がそれぞれひっくり返ってしまったのか。

 せめて同じであれば、俺が色々と苦労することもなかったはずなのだが。

 どこかの神様がそうしたのなら、きっと相当な悪趣味を持っているのだろう。


 △


「また、助けてもらっちゃったね。……あのときみたいに」

「……いや、その前に体を突き飛ばして守ってくれただろ。お礼を言うのはこっちだ。……俺の今の体なら、腹を刺されたところで死ぬことはなかったんだけどな……」


 前世の最期。トラックに轢かれそうになったリンを、俺は咄嗟に体を突き飛ばして守ろうとした。結果的に間に合わず、二人とも轢かれてしまったのだが。

 しかしまあ体格と性別の違うふたり、口調も逆転していて端から見ると異常な光景なんだろうなとふと思う。俺自身、今の体になってから男口調で話すのは初めてだった。


「リリスがシュウ君だったからかな。奴隷商で見かけたとき、絶対に連れて帰らないといけないって思ったの」

「……そうだったのかもしれないな」


 そういえば、カーティスがそんなことを言っていたのを覚えている。

 俺もカーティス相手にだけはなぜか安心して身を任せられたし、添い寝も効果があったのを思い出した。

 今の姿は前世とは全く違うが、そういうことはあってもいい、とは思う。

 そのお陰で、こうしてリンと再会することができたのだから。


「お、おい、大丈夫か」


 ところがそう感傷に浸っていると、リンがポロポロと涙を流し始めたのだ。

 一体どうしたのかと驚き近付くと、涙を手で拭いながら、リンが口を開いた。


「ぐすっ、なんかシュウ君とまた会えたって思ったら……」

「……」


 めそめそするリンに対して、俺は背中に手を回して抱き締めた。

 ――背丈が低いせいで、こちらが一方的に抱き付いているだけにしか見えないだろうが、そこは仕方がない。


「しゅ、シュウ君?」

「……俺もリンとまた会えて嬉しいよ」

「……シュウ君……。ありがとう……」


 本来ならば体を胸に預けて欲しいところだが、この身長差ではそれは叶わない。

 それでもリンは安心したようで、同じく俺の背中に手を回して静かに泣いていた。

 俺はリンが泣き止むまで、背中をさすってやったのだった。


 ☆


 リンが落ち着いたところで、今後について話し合いを始めた。まず、お互いどのようにして接していくかについて。

 これについては、これまで通りを装うのが一番よいという結論に至った。

 こんなことを他人に説明することなんてできないし、このままふたりだけの秘密ということにしておいた方がいい。それがふたりの一致した意見だった


 言葉遣いもこれまで通り、変えずに過ごそうということになった。もう丁寧な口調で話すのも慣れてしまったし、やはりこんな見た目の少女が男言葉を使うのもおかしな話だろう。

 ただ、それよりも解決しなければならない直近の問題がある。

 早速口調を元に戻して(・・・・・)、リン――カーティスに話しかけた。


「あー……こほん。ところでご主人様を吸血鬼の眷属にしてしまいましたけど、どうしましょうか……」

「うーん……まあ、なるようになるしかない……けど。……いい方法になるかは分からないけど、ちょっと心当たりがあるんだ」

「……?」


 俺とカーティスとの関係はひとまず置いておくとしても、今のとりまく環境は非常によくない。

 むしろ、悪化してしまったとも言える。

 助けるためだったとはいえ、カーティスを吸血鬼へと変えてしまったのだ。

 吸血鬼の風当たりの強さを考えると、不味いことだろう。

 心当たりがなんなのかはよく分からないが、この状況をどうにかしてくれるのなら、カーティスに任せるほかないだろう。


「改めてだけど……リリス、助けてくれてありがとう」

「いえ、あれしか方法がないと思ったので……」

「その、あの場では言えなかったけど……僕はリリスのことが好きだ。もう屋敷をひとりで出ていったりとか、二度としないで欲しい」


 突然そんなことを言われ、顔に血が上っていく気がした。

 面と向かって言われると恥ずかしいような、照れるような。

 だが一番の湧き上がった感情は、嬉しいという気持ち。男相手にそんな気持ちを抱くなんてと再び思ったが、もうそんなことは気にしなくてもいいだろう。

 相手の中身がリンとは言え、それを知らずにカーティスに靡いた事実がある。

 色々と吹っ切れたような気がしたが、照れ隠しに俺は一つの質問を投げかけた。


「……それは私に対してだけですか? シュウも含まれてますか?」

「……両方だよ」


 かたやご主人様と奴隷、かたや中身と外見が一致していない。歪な関係であることは否めないが、俺としてももうカーティスと離れるつもりは微塵もない。

 一度はカーティスに靡いた事実がある。もしかしたらリンの転生した姿だったから、なのかもしれない。

 だが、リンに対してもカーティスに対しても、同じ愛情を持っている。

 ――今なら、想いを伝えられるだろう。


「私も……ご主人様のことが好きです。一緒に居ていただけますか?」


 俺はそうカーティスに告白すると精一杯背伸びをして首に手を回し、カーティスの胸に顔を埋めた。

 おそらく、これから多くの困難が待ち構えているだろう。だが絶対に離れるものか、と体を密着させる。カーティスも意を汲んでくれて、ぎゅっと強く抱き締めてくれた。

引き続き、夕方にエピローグを掲載します。もうしばらくお付き合い下さい。


お読みいただきありがとうございます。

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