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17 眠れぬ夜

 そのままベッドに入って眠りに就こうとするが、色々頭に思いが巡って眠れない。

 何度か寝返りをうったあと、体を起こしてベッドサイドに腰掛ける。



 どうしてカーティスの顔が、表情が、頭から離れないのだろうか。



 こうなったのも全部レーナのせいだ。

 あんなこと(・・・・・)を言われたせいだ。

 おかげで、カーティスの顔をろくに見られなくなってしまった。


 カーティスはあくまで主であって、俺は奴隷の身であり、仕えているだけだ。

 ――吸血やそのあとのことは、横に置いておく。

 ただ、それだけだ。

 特別な感情など、抱くはずがない。


 

 なぜならいくら体が少女でも、中身は()なのだ。

 そう、だから男に靡くなど、起こり得るはずがない。



 今日は吸血する日ではないから、カーティスの部屋で寝る必要はない。

 まあ、毎日のように添い寝してもらっているのだが。

 だが、今の気分で添い寝をしてもらう気にはなれなかった。

 だからたまには一人で寝ると、自分の部屋で寝ることにしたのだが。


 眠れないのは、カーティスに添い寝してもらっていないからなのか?

 無理してひとりで寝る、だなんて言わない方がよかったのか?


 ――今からカーティスのところへ行けば、恐らくベッドへ入れてくれるだろう。

 カーティスは優しいから、嫌な顔をせずにそうしてくれるに違いない。



 今考えても相手が男だと言うのに、不思議と嫌な気分にはならない。

 それは俺もカーティスに気が――?



(いやいや、あり得ないだろ!)


 頭をぶんぶんと振りながら、そう心の中で叫ぶ。

 このまま考えていくと、自分の中の何かが崩れてしまうような気がした。

 ダメだ、頭を冷やした方がよさそうだ。


 外の空気を吸おうと思い、ガウンを羽織って部屋から出た。

 館の勝手口からそっと外に出る。ドアを開けた瞬間、ひんやりとした空気が顔を伝った。

 今の時期、夜はそれなりに冷えるようだ。ガウンを羽織って正解だった。


 吸血鬼の特性なのだろうか、空は曇って暗かったがかなり視界が利いている。

 そのまま庭にあるベンチに腰掛けて、ふうと深呼吸をした。



 種族柄、昼間よりも頭が冴えている。そのせいで余計に頭の中で考えが巡り、ろくなことにならない。

 いま、一番大事な人は誰か選べと聞かれたら、間違いなくカーティスと答えるだろう。

 あの奴隷状態から救ってくれたのは、間違いなくカーティスだ。

 他の(あるじ)へ行っていたらどうなっていたか、想像もしたくない。


 自分は見てくれはいいが人ではないなにか、化け物と言っても差し支えない。

 しかも吸血鬼とは何か、ということを理解した上で奴隷の俺を買ってくれたのだ。

 紛うことなき、命の恩人だ。



 でも、だからといって。

 レーナのいう、男女の関係ではない。

 ――そもそも、言われなければこんなに意識はしなかったし、つまりはそういうこと(・・・・・・)じゃないのか。

 だが、今カーティスの顔をまともに見られるか、と言われると無理だ。

 一体どうしたら、いいのだろうか。



 そして何度目か分からない溜息を吐いた直後、枯れ葉を踏む音が物陰から聞こえた。

 

「だ、誰ですか!?」


 その音に驚き、声を上げる。

 こんな時間に来客などはないし、まさか夜盗?

 一瞬動揺するも、すぐに頭を切り替えて魔法の詠唱を始める。

 周囲に魔力が具現化した光の渦が生じる。


「……わわっ! わたしよ!!」

「……シルファさん?」


 物陰から現れたのは、ネグリジェに一枚ガウンを羽織ったシルファだった。

 詠唱を中断してどうしたのかと話を聞くと、俺が魔法を使おうとしていたところを見て慌てて飛び出してきたようだ。


「そういえば魔法の練習してるって言ってたわね……」

「ケイリさんが、覚えておいた方がいいと言ってたので……。シルファさんじゃなきゃそのまま発動させてましたね……」

「わたしは魔法はからっきしだけど、何かすごいのが来そうな気がして怖かったわよ……」

「ご、ごめんなさい……」

「まあ、確かに覚えておくに越したことはないわね……最近物騒だし」

「……そうなんですか?」


 シルファの言葉に疑問が生まれる。

 物騒? どういうことだろうか。


「新聞を読むと良いわよ。……そこ、座りましょう」

「……はい」


 外と交流を絶っているので、よく分からないが。新聞があるのなら読んでみるか。

 文字は読めるしなんとかなるだろう。そう心の中で思いつつ、シルファに促されて元に座っていたベンチへと改めて腰掛ける。


「リリスが外に出るところを見かけたから追って物陰から見てたんだけど、溜息ばっかり吐いてたし。なんか今日様子が変だったし……。何かあったの?」

「……」


 シルファにまでそう思われていたのか。態度に出てしまっていたらしい。

 しかし悩みがカーティスのことだったので、シルファにどう答えようか迷っていた。

 そうしてシルファの方を向いて、視線を泳がせているとシルファが口を開いた。


「んー……まあ言いにくいんだったら別にいいわよ。けどね、カーティス様が心配してたわよ」

「……ご主人様が?」

「そう、なんか俯いてるから考え事してるのか、元気がなさそうだって。わたしが話してもそのことで頭一杯って感じだったし」

「そう、なんですか……」


 カーティスが心配してくれていたのか。いや、心配を掛けさせてしまっていた、のか。

 奴隷の俺をわざわざ気に掛けてくれるなんて、申し訳なさを感じてしまう。

 

 色々考えることはあっても、顔に出してしまっていてはよくない。

 ――明日からはちゃんとしなければならない。

 カーティスの顔が見られるか分からないが、夜の内に覚悟を決めておかなければ。


「ふあぁ……。わたしはもう寝るわね。リリスは? カーティス様のところ?」

「……いえ、自分の部屋で寝ます」

「……そう。まあ風邪引かないうちに引き上げるのよ」


 おやすみ、と声を掛けて俺の元を離れていくシルファ。

 その姿を後ろで眺めていたのだが、何故だろうか。

 急に心細くなった俺は、シルファの後を追いかけていったのだった。


 ☆


「もう……。今晩だけよ」

「ありがとうございます……」


 そうして、シルファのベッドの上。

 シルファを呼び止めて、添い寝して欲しいと頼み込んだのだった。

 あのままひとりで眠るとまた余計なことを考えそうだった、というのもあるが。

 シルファは少し渋る素振りを見せたが、仕方ないと言って部屋へ招き入れてくれた。


「……寝てるときに襲ったりしないわよね?」

「しませんよ、そんなこと……」

「……本当かしらね」


 口ではそう言っているけど、別に体を離したりするようなことはしない。

 ピタッと肩と肩がくっついている。そうしていると、シルファがぺたぺたと腕を触り始めた。


「リリスって体温低いのかしら……。なんかひんやりする」

「そ、そうですか?」

「ええ。……あのときは逆に熱いくらいに感じたんだけど?」

「……」


 あのとき、とは俺がシルファを襲ってしまったときのことか。

 まあ体が火照っていたぐらいだし、きっとそう感じたのだろう。


「夏場だと抱き枕にすると寝心地がよさそうね。今だとちょっと寒いけど」

「……」


 そういえば勢いで添い寝して欲しいと言い、こうして同じベッドに入っているわけだが。

 女の子が隣に居るというのに、何も感じない。

 男の頃だったら、きっとドキドキしたんだろうが。

 ――心も、だいぶ女性側に寄ってしまったんだろうか?


「……なに? なんか顔に付いてる?」

「な、なんでもありません」


 ついシルファの顔をジッと見てしまっていたせいで、そう言われてしまう。

 返事もそこそこに、そのまま顔を天井の方へ向ける。


「そう……じゃ、そろそろ寝るわね」

「はい、おやすみなさいシルファさん」

「おやすみリリス」


 そうして言葉を掛け合い、目を閉じた。

 だが数分ほどそのままじっとしていたが、上手く寝付けずにいた。


 横を向くと規則正しく寝息を立てているシルファ。

 俺はシルファに体を寄せた。

 肌を合わせていると、どこか安心感を覚えた。

 ――いつもカーティスに添い寝してもらっているせいだろうか。


 ああ、明日はカーティスの顔を見て話そう。

 そう心に決めるとそのまま自然と瞼が重くなっていき、俺は眠りに就いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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