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10 使用人達のお茶会

「それで……リリスちゃんは夜カーティス様の部屋で、何をしているのかしら」


 レーナからの突然の質問に対して、俺は飲んでいた紅茶を思わず吹きかけてしまった。周りをちらっと見てみると、目が六つこちらを凝視していた。うち二つは凝視と言うより、睨みつけているような感じだったが。


 ☆


 あれからまた一週間後、普段と変わらない使用人(メイド)の生活を送っていたある日のこと。使用人(メイド)同士でお茶会をしようと、レーナから提案されたのだった。

 ちょうど朝からカーティスが不在で、補助の仕事もなく断る理由もなかったので参加した。俺はてっきり、女子会的なものを想像していたのだが――。


 初めの方は最近の屋敷の状況や作業内容などの事務的な報告で、俺が思っていたお茶会の内容とは程遠いものだった。しかし、突然レーナから俺に対し、先の質問が来たのだ。


「……何って、怖い夢を見るときがあるので、ご主人様に添い寝してもらってるんです」


 俺は努めて冷静にそう答えた。

 少々考えたが『ご主人様から吸血したあとセックスしてます』なんて馬鹿正直に答えられるはずがなかった。

 この答えなら、皆承知しているから問題ないだろう。そう思っていたのだが。


「そうなの。ケイリちゃんがね、たまたま夜にカーティス様の部屋を通りがかったときに、リリスちゃんの声が聞こえたって言ってたのだけど」

「寝る前にご主人様とお話しているので、それを聞いたんじゃないですか?」

「ふうん……。その声が妙に甘ったるいとか、そう言ったものだったみたいだけど」


 ――何か嫌な予感がする。最適な返答ができるように頭をフル回転させ、俺は口を開く。


「……もしかしたら、寝惚けてそういう声が出ていたのかもしれません。……ご主人様から寝言が聞こえるときがあるって言われたことがありますから」

「へえ……。あとね、朝にカーティス様の部屋からシーツとか服を抱えて走っていくリリスちゃんを見たのだけど……。それと、朝食のときカーティス様とリリスちゃんからお風呂の匂いがしたのだけど……。朝にわざわざ一緒にお風呂に入ったのかしら?」


 レーナはニコニコとした顔でそう言いながら、俺を見つめてきた。もしかしなくても、俺が何をしているのかバレているような気がしてならない。何とか焦りを顔に出ないようしていたが、内心穏やかではない。

 どう答えたものか考えていると、テーブルをダンと叩く音が聞こえた。ビックリして音の出た方を見ると、顔を真っ赤にしたシルファが立ち上がっていた。


(とぼ)けるのもいい加減にしなさいよ!」 


 シルファは声を震わせながらそう言った。この反応は、恐らくは分かっている(・・・・・・)ようだ。

 さすがにもう誤魔化すことはできないだろう。腹を(くく)って話そうと思った、そのとき。


「あんなことしているなんて、カーティス様と愛し合っているんでしょう!?」


 シルファから想定外の言葉が飛び出てきた。俺がカーティスのことを?

 ――いや、それはない。


「え、それは違いますけど……」 

「……え?」


 俺の返答に対して顔をポカンとさせるシルファ。しかしすぐに顔を赤くさせ、俺に対して怒鳴るように。


「じゃ、じゃあなんであんなことをしていたのよ!!」

「……それは」


 俺はどうしてそういうことをしていたのか、経緯(・・)を話し始めた。

 吸血衝動のこと、その後の性的欲求のこと。

 話し終えると使用人(メイド)達は呆気にとられたような顔をしていた。


「うーん、リリスちゃんが嘘を吐いているようには見えないし……。困った習性ね……」

「本当に。ちょっと予想していなかった」


 レーナやケイリは困惑しながらもそう言っていた。理解してくれた――のだろうか。しかし、シルファはそうではないようだった。


「そ、それってどうしようもないの……」

「私もできることならしたくないのですが、吸血鬼という種族の習性で吸血しないと生きていけないみたいなんです……」

「吸血のあとの……その、えっちなことは我慢できないの!?」

「……無理でした」

 

 一度は気持ちを何とか抑え、わざわざ自分の部屋まで戻って自分を慰めたぐらいだ。

 それでも体の昂ぶりは静まらなかったのだから、もはや自分だけではどうしようもない。

 そのことを話すと、シルファは顔を更に赤くしながら椅子に座り俯いてしまった。


「えーっと、それでさっきの話の通りだとすると、次に吸血するのはいつなのかしら」

「……昨日したので四日後ですね」

 

 レーナからの質問を受け、俺はそう答えた。

 四日後、また吸血をしなければならない。そしてその後のセックスもだ。

 思うところは色々あるのだが、セックスそのものは思ったよりも抵抗感がないことに自分自身驚いている。

 相手は男なのに。嫌悪感があっても何ら不思議ではないはずなのだが。現世の体が女だから、心も適応しているのだろうか。

 ――いや、それにしてもおかしい気がする。心は俺としての、男としての意識があるのだ。この違和感は一体何なのだろうか。


 考えを巡らせていると、突然シルファが立ち上がってとんでもないことを口走った。


「……分かったわ! 私が代わりに吸血させてあげるから!!」

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