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1-5 兄との対話

「いつもすまない」

「いえ、ヴァロ坊ちゃんの頼みですから」

屋敷の裏口でヴァロはイルゴに代金を手渡す。

イルゴは父の代からお世話になっている使用人の一人だ。

法に触れることはしていないが、兄ケイオスに知られるのは個人的に避けたかった。

現在、ヴァロの兄ケイオスの使用人をしている。

ヴァロは酒樽に目を移し、ラベルを見て思わず目を疑う。

「ちょっとこれはドルコール産だろ?!頼んでたのはミュリーサ産だ」

葡萄酒は産地によって味も価値も違ってくる。

ドルコールというのは上から三番目ぐらいの上等な葡萄酒だ。

ヴァロの言葉にイルゴは困ったような顔をした。

「そいつは俺からの祝いだ」

背後からケイオスがにゅっと顔を出す。

脇には例のごとく漆黒の用心棒が佇んでいる。

「よ、ヴァロ。元気でやってるか?」

にやけ顔でケイオス。ヴァロはあからさまに不快な顔をした。

「なんで兄貴がいる?というかなんで兄貴が知ってるんだ?」

「イルゴを責めるな。私が勝手にしたことだ。商会のものと金の流れは一通り把握している。

普段なら近所の酒屋にでも頼むところだろうが、大方聖都まで行って懐が厳しくなったのだろう?」

ケイオスの推理は大体あっている。

例の聖都事変でヴァロの式典用の服は魔王に吹き飛ばされている。

給料数か月分の服を購入するために、現在ヴァロは節約生活まっただ中である。

「この時期だと忘年会には少し早すぎるな。

お前たちが聖都から連れ帰ってきた男の歓迎会でもするのか?名前までは知らんが…」

「ドーラだ」

「ほう、あの男ドーラというのか」

ケイオスは目を細めた。

「兄貴、よく知ってるな」

「フィアちゃんと図書館に一緒に通っている謎の男がいるって巷で噂になってるからな。

図書館通いの美しい少女が男を連れてやってきたとかな」

「そんなこといわれてるのか?」

「あの子は人目を引く容姿をしているからな。悪い虫除けにもなる。

既に何人かはあの子に言い寄ってきていたと聞く。あの子は全く相手にしてなかったみたいだけどな」

ヴァロにとって初耳である。

「…俺は何も知らなかったんだな」

「気にするな。ギルドの長でもやってなければ聞かなかった情報だ」

どうもヴァロは兄貴を出し抜ける気がしない。

「そういえば、兄貴。フィアにまたドレスあげただろ。なんでもかんでもフィアに買い与えるのはやめてくれ」

苦々しげにヴァロ。

「あのぐらいの年頃はおしゃれが趣味のようなものだ。

それに俺も孫…いや娘がいればあんな感じなのかと思ってなぁ」

しみじみとケイオスは語る。その語るしぐさはどこかの爺さんのようだとヴァロは思った。

「額にもよるだろう。この間聖都に行った時のドレスなんか、ひかえ目に見積もっても俺の給料数か月分はあるだろ」

「細かいことを気にしてたらそのうち禿げるぞ?」

「うるさいな。とにかく兄貴自重してくれ」

ヴァロはそういって酒樽を抱え、背を向けた。

「ところでものは相談なんだが、そのドーラに兄貴のほうで働き口を紹介してやってくれないか?

素性は俺が保証する。文字は書けるし、悪い奴じゃない。できれば住み込みのがいい」

ドーラがフィアたちと一緒に暮らしていることに抵抗を感じる。

ヴィヴィはともかくフィアは年頃の娘である。

保護者的な立場にあるヴァロから見れば、年頃の娘が一つ屋根の下で若い男と一緒に暮らすのに少し抵抗がある。

おそらく問題はおきないだろうが、というか問題をおこせるとは思えないが。

「…いいだろう。明日の午後にでもうちのギルドに連れてこい」

「恩に着るよ」

「恩に着る必要はない。こっちもちょうど人手がほしかったところだ」

ケイオスは薄い笑みを浮かべた。

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