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1-4 事後報告

官舎の夕暮れの食堂でヴァロとキールは向かい合うように座っていた。

外は北風が吹きはじめており、街を行き交う人々の服も徐々に厚くなってきている。

それはもうじき本格的な冬がやってくる事を暗示していた。

ヴァロはヴィヴィの家から官舎のほうに戻ってきていた。

「すまないな。本当は街の酒場でつまみでもひっかけながら話したいところだが、

明日からまた東部の警備に戻らなくてはならなくてな」

「相変わらずお忙しいみたいですね」

「ああ。全く聖都から任務を終えて帰ってきたばかりだというのに…。騎士団は本当に人使いが荒い」

キールは葡萄酒の入った杯をヴァロに渡す。

一カ月ほど聖都の警備を延長するとになったらしい。

そのため通常業務がかなりたまっているのだとかなんとか。

官舎で酒を飲むのは禁じられているが、少しぐらい大目に見てもらっても罰はあたるまい。

「忙しいところ時間を取らせてしまい、すみません」

ヴァロはキールに頭を下げた。

「何を言っている。呼び出したのは自分のほうだよ。それはこっちのセリフだ」

後処理だの事後の報告などでかなり忙しかったとヴァロは人づてに聞いていた。

その後の聖都の状況を知りたかったが、そういう状況ではなかったのだ。

「さて時間もない、さっそくだが本題に入ろうか。

聖都事変は魔器の暴走ということで、うやむやにされて片づけられそうだ。

聖都の聖堂回境師とカティさんには火の粉はかからないで済みそうな感じだった。

もともと魔王の遺産を持ち出してきたのは教会の幹部連中だからな」

「よかった」

心底ほっとした様子でヴァロ。

ヴィヴィと一緒に聖都を離れる際に、それだけが心残りだった。

「あれを展示する許可をだしたのは聖都のお偉いさんだ。

あの責任を明確にすれば、聖都の上層部をほとんどそうとっかえするはめになる。

うやむやにしたほうがよいと判断したようだ。

もっとも事態が大きくなり過ぎたために、火消しに躍起になってるみたいだがな。

教会のほうも『アレ』の復活なんて大それた不祥事をもみ消したいわけだから、

悪くない落としどころだろう。それでも数名は責任を取らされるようだが」

記念館が全壊し、時計台が破壊され、聖都コーレスは一時的に大混乱をきたした。

式典は当然中止になり、他国からの来賓も式典もなく帰ってもらうことになった。

カティらはその混乱を治めるべくあのあと聖都を奔走していたらしい。

あれから一か月、混乱は一通り終息し、キールたちもどうにかフゲンガルデンへ戻ってこれた。

「いいのか?結果的に、お前の『アレ』討伐の功績もなくなったんだが?」

「当り前ですよ」

当然のようにヴァロは返事した。そんなことはヴァロにとってわかりきったものだ。

むしろこれだけの事態で済んでよかったとさえ思っている。

死傷者を出してしまったことは残念だが、判断を誤っていれば聖都コーレスそのものが無くなっていたのかもしれないのだ。

「…一年前に魔女騒動をしでかしたと思えば今回これだ」

キールはそんなヴァロを呆れた視線で眺めていた。

「すみません」

ヴァロは頭を下げた。

「…ところでお前と一緒にいた赤の貴婦人ってのはヴィヴィさんだろ」

「ええ」

赤のドレスを着た謎の貴婦人と歩いた様は、未だ騎士団の内部で語られることもある。

ヴァロの返答にキールは苦笑いを浮かべる。

「…お前じゃなかったらぼこぼこにしてるところだ」

「?」

言ってる意味が分からずヴァロはあいまいな返事を返した。

「フィアちゃんだったけ?あれがお前の助けた魔女か」

キールの言葉にヴァロは頷く。

「肝心な議事録も抹消されてるし、長官連中に声をかけてもその件に関してだんまりだし、こっちは調べるの一苦労だったんだぞ。」

キールの声には苛立ちが含まれていた。

軍事法廷の際の記録はヴィヴィが手を回して、抹消したという。

あの事件は、フゲンガルデンに封印された『彼の者』に関わる事案のため隠ぺい工作は徹底された。

「すみません」

キールがどこまで知っているかはわからないが、とりあえず謝るしかない。

もちろんキールに対して負い目はあるが、当事者のヴァロは『彼の者』に関してはくれぐれも誰にも話さないようにヴィヴィから念を押されている。

『もし話すのであれば、私から許可を取ってからに話すように』とまで言われている。

最悪もしことが悪意のある第三者に知られたならば、また一年前のような事件が発生しないとも限らない。

「次からはもう少し俺を頼れよ」

キールはそのことを追及するのを避けてくれたようだ。

事実、彼はヴァロを問いただす行為していない。彼もそのあたりを察しているのだろう。

「まあこんな頼りない先輩じゃ、頼れないかもしれないけどな」

「そんなことはありません」

ヴァロの張り上げた声が誰もいない食堂にこだました。

「冗談だよ。じゃーな『魔王殺し』」

『魔王殺し』というのはヴァロにつけられた二つ名である。

箝口令はしかれているものの、あの場に居合わせた者は

ヴァロが『アレ』立ち向かった姿を忘れられず、敬意を込めてそう呼んでいるらしい。

『竜殺し』からようやく解放されたと思えば次は『魔王殺し』である。

何かどんどん物騒な方向に向かっているような気がして、もはや失笑するしかない。

さて、これから再び例の魔女の住処を訪ねなくてはならない。

なんでもドーラの歓迎会を開くのだとかなんとか。

フィアが提案したものだ。

ヴァロは立ち上がった。

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