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第七話 商人との出会い

嵐のようなというか爆弾のような兄が帰った後、両親も帰ってきた。

すれ違いなってしまい子供のことを大事にしている両親は残念そうにしていたが、兄が残した「ユルのために最強の騎士になってくるっ!」という伝言を聞いて喜んでいた。

……いいのか。それで。


そして兄の恐怖をくぐり抜けた私の前にはなぜか商人がいる。

柔らかい笑みを浮かべているが芯が鋭く感じる茶髪の30代ほどの男性と兄より少し年上ぐらいの同じく茶髪の少年だ。

顔立ちがよく似ているから親子だろうか?


「伯爵様からお嬢様の愛らしさは聞いておりましたが、これほどまでとは思いませんでしたよ。」

「あぁ。うちの娘は天使のようだろ?」

「えぇ。これはオススメする衣装に悩みますね。」


おい。父よ。外でも親バカぶりを発揮しているのか。凄く恥ずかしいからやめてくれ。


どうやらこの商人達は私の衣装を選ぶために両親が呼んだらしい。だから行きは馬車1台だったのに帰ってきたら2台に増えてたのか。


本当はオーダーメイドも考えてたらしいが、最近服の流行が変わったとかで服屋が大忙しで注文してもパーティに間に合わないことがわかり、既製品を持ってこさせて合わせることにしたようだ。


商人がいくつも見せてくれるものを見ても、私が前世で着ていたものとだいぶ違うのがわかる。

当時は長いワンピースのようなものを着ていて、緩やかな曲線を美とし曲線を殺さないように飾りはあまりなく刺繍で優雅さを表していた。


……私が着ていたのはほぼ布地は黒で刺繍糸は私の目を表した赤色だった。もちろん私は選ばず、部下が選んだものだったが。


今目の前にあるものはそれとは全く違い、レースやフリルがふんだんに使われたフワフワとしたドレスである。子供服ということもあるが、美しいというより可愛らしいドレスばかりだ。


「きゃーっ!もうっ!これもあれもユルには似合っちゃうわっ!」

「奥様の言う通りです。中身がいいとどんな服も引き立ってしまいます。」

「もうっ全部買っちゃおうかしらっ!」

「お母様……着るのは1日だけですから、1着でいいです。」


服を当てたり、見たりする中母が暴走している。愛情もここまで行くと大変である。とりあえず一通り当てたので悩むのは母に任せて私は休みたい。


……別に前世で部下に服とかそういうののセンスがないのを指摘されたことを引きずっているわけではない。だから全部部下に任せたわけでもない。前世は魔王だから忙しかっただけだ。今は3歳児だから疲れただけ。ただそれだけだ。


とりあえず部屋の隅にある椅子に座って休むことにした。


「ふぅ……」

「お疲れですか?」


そう声をかけて近寄ってきたのは商人の少年の方である。緊張してるのか動きは硬いが精一杯お客と接しようという態度が好ましい。


「えぇ。ちょっと……お母様が興奮しててごめんなさい。」

「お嬢様にとって初めてのパーティですから少しぐらい力が入ってもおかしくないですよ。」

「……あなたも初めて?」


私が彼の緊張の理由を考え指摘すると、一瞬驚いたような顔をしてから参ったなぁと頭をかいた。


「よくわかりましたね。そうです。今日は初めて父と一緒に商談の場に来ました。」

「お仕事覚えるためですか?」

「えぇ。それにしてもお嬢様は賢いですね。とてもそのお年とは思えません。」


あっちょっとやりすぎたっぽい。

前世ではまともな幼児期を過ごしていなかったし、子供と触れ合う機会もないから基準がわからん。


家族の反応を見てと思っても、『親バカフィルター』や『シスコンフィルター』でどうにかなってしまうのでなかなか3歳児をするのが難しくなっている。


彼のような一般人や貴族など他の人に会うのは今回の王都訪問が初めてなので仕方がない。パーティには同じ年頃の子がいたら、その子達を真似してみよう。


「ご本をたくさん読んでるからかもしれません。」

「本が好きなのですか?」

「はい。おうちでいっぱい読んでます。」


とりあえず慌てて幼児ぽい言葉使いにしてみる。


「ではうちで入荷した本などはご興味ありますか?」

「!ゆっ勇者の本はありますか!?」


なんと、この商人の店は服だけでなく本まで扱っているのか。

王都でしかも彼の父親を見る限りそれなりにやり手の商人が扱う勇者の本。気になる。服よりもそっちが欲しくて、つい興奮してしまった。


少年は少し驚いたが、すぐに口元に笑みを浮かべた。


「えぇありますよ。勇者がお好きなんですか。」

「あっ……はい。」

「そうですか。でしたら今度勇者の出てくる本のリストをそちらにお送りしましょう。そして欲しい本があったらご注文ください。」

「わかりました。」


勝手に決めてしまったが、本の1冊や2冊ならあの両親は許してくれるだろう。

許してくれなかったら、3歳児の伝家の宝刀『泣き落とし』だ。


こちらの商談がまとまったところで、母の方も決まったらしい。ちゃんと1着だけだ。よかったよかった。


その後、商人たちが帰った後に気がついたことがある。私……少年の名も商店の名も聞いてなかった!


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