第二話 ユーベル・シュテルプリヒ
魔王がなぜこんな可憐な貴族の少女に転生しているかは後に話そうと思う。
まずは私はユーベル・シュテルプリヒとして目標が達成できるぐらいまで育たねばならぬ。そのためによく学び、よく食べ、よく眠らねばならない。
流石にこの幼女の体で家出などできるはずがない。できたとしてもすぐに連れ戻される。特にあの両親なら家の財産投げ打ってでも私を探し出すだろう。
「旦那様、お嬢様をお連れいたしました。」
「ご苦労。」
メイドに連れられてたどり着いたのは全体的に白が目立つ食堂である。派手ではないが美しい石で出来た机の上には、よく磨かれた食器が並んでいる。
このテーブルの石はクオーツサイトで、私の住むシュテルプリヒ領の重要な輸出品の一つである。これを加工して王都や他の貴族に売って私の家は生活をしているらしい。
「お待たせしました。お父様、お母様。」
「お座りなさい。ユル。」
食堂に入る私に紺色の長い髪が美しい女性が私に座るように促す。ちなみにユルは私の愛称だ。この女性はリスペルン・シュテルプリヒ。私の母親である。私の紺色の髪は彼女譲りだ。ただ彼女のように美しい真っ直ぐな髪ではなく、私は毛先がクルンとした癖っ毛。それはこちらの男性のせいだ。
「ユル、また本を読んでいたのかい?」
私に優しく話しかける緑色の癖っ毛の男性はヒンメル・シュテルプリヒ。気づいてる方もいるだろうが、今世の私の父親である。彼からは癖っ毛と紫色の瞳を受け継いだ。
彼等のおかげでこの国では普通の髪や目の色を受け継ぐことができた。前世と同じ色では一発で迫害されるのが決定されてしまうからな。
「はい。お父様。お母様に買ってもらったご本を読んでいました。」
「そうか。もう一人で本が読めるのか。ユルは賢い子だなぁ。」
「そうなんですよ!ユルったらあのランプも使っていつも読んでるんですよ!もう何十冊も読んでるみたい!」
「流石ユル!賢さだけじゃなくて魔力に関しても天才だったか!」
「あなた!可愛さもですわよ!」
「そうだったな!」
興奮している両親に挟まれた私はとりあえず笑顔を保ち続けることにした。
彼等の年齢はどちらも二十八。十代後半には結婚し子を産むことが普通である貴族の中で、彼らも十八で結婚し子供を産んだ。
その時生まれた兄がいるが、わたしが生まれてすぐに王都の学校へ入学したので今では年に1週間ほどしか会えない。
なので私はほとんど一人っ子状態なのである。上の子が手が離れ、遅くできた娘のことが手をかけてもかけ足らないようだ。おかげで溺れるほどの愛をかけてもらっている。
「ユルは勇者の絵本が好きなのか。」
「はい。読んでいるととても楽しいです。」
「ふふっ。毎回おねだりする本は勇者が出ている本ですもんね。」
食事を進める中話題は私が読んでいる絵本の種類の話になった。
今日の夕食は黒麦のパンと野菜のスープにメインの雉のソテーである。今の食事事情がどうなっているかはわからないが、なかなか美味しいし貴族の食事なので豪華な食事なのであろう。
少なくとも魔王時代よりはいい。血の滴る生肉を献上されることがよくあった。今はもちろん当時も生肉より焼いた肉の方が好きだ。
魔王は人を食うと噂になって、人間の方から生娘を1人捧げられたこともあったな。あの時は困った。
人間なんて食したことも食そうと思ったこともなかった。噂を流したやつを見つけ出して八つ当たりしようと考えたりもした。まぁその娘は私の部下のヴァンパイアと恋に落ち、結ばれたからその処分は考えずに済んだが。
話がズレてしまったが、そんな美味しいご飯を食べながら勇者の絵本を話をしているのだった。勇者についてしっかり調べなければ、私の目標は達成されないのだ。
そのために勇者の絵本を読み漁っているのだが、いくら量を読んでも絵本は絵本。欲しい情報は得られない。かといって難しい本は両親がまだ読ませてくれない。今は少々行き詰まっている状態だ。
「___勇者が好きなら会ってみるか?ユル。」
「えっ!?」
そんな中の私にとって父親の提案は急ではあるが、とてもありがたいものだった。
勇者に会える?
「といっても勇者の子孫、うーん……子供のそのまた子供のもっと子供だけどね。」
「どこに行けば会えるんですか!」
「ユルったら興奮しちゃって。ウフフッ。」
「あっ……ごめんなさい。」
つい興奮してしまった。いけない、いけない。でもちょうど勇者について知りたいと思ってた時に会えるだなんて都合のいいことあったら私だって取り乱す。
「そんなに勇者が好きだなんて……お父さん勇者に嫉妬してしまいそのうだよ。」
「お父様のことも好きです。」
「ユルっ!お父さんもユルのこと大好きだぞ!」
「それで勇者に会えるってどういうことですか?」
「あぁ、もうすぐ王太子殿下の5歳の誕生日でな。そのパーティで勇者の子孫も参加するんだ。お父さんも招待されいるからついてくるか?」
「行きたいですっ!」
「うふふっパーティならおめかししていきましょうね。」
「はいっ!」
パーティ行けば勇者に会える。こんな早く会えると思っていなかった。
食事が終わって部屋に戻る途中私はついうっかりスキップをしてしまうほど浮かれていた。今日は有意義な日だった。きっといい夢が見れるだろう。そう思いながら私はベットへと入った。