episode01-21. 後始末その2
結局、玄江はラグアルディアとの交渉を選択した。
南門ではラグアルディアに話が及ぶ暇を与えなかった。
領主としての仕事が押しているアルディアの時間切れを狙った作戦は功を奏し、玄江の目論見どおり、ラグアルディアへの聞き取りは後日に回された。
そして現在、『花に包まれた』の食堂にて、ラグアルディアは満面の笑みでサゴナバーを頬張っていた。
その理由はもちろん、玄江とのパーティー結成である。
玄江の予想通り、聞き取り調査時に内容を誤魔化すことについて、ラグアルディアはパーティーを組むことを交換条件としてきた。それはもう、他の条件は一切受け付けない勢いで。
「ラグアルディアを殺して有耶無耶にする」選択肢で脅してもみたが、『それならフィラートに着く前に殺されていないとおかしい』とあっさり論破された。
「フィラート滞在中の一ヶ月の間のみ、玄江の言語習得にも付き合う」を妥協点として双方納得したのがつい先ほどのことだった。
ニコニコと魚定食に喰らいつくラグアルディアを前に、玄江は大きくため息をつく。
玄江の前にも、うつぼのような見た目のサゴナバーを、ぶつ切りにしてソテーにされたものが置いてあるが、それほど食は進んでいない。見た目は悪いが、中身は噛み応えのある白身魚で、味はいいのだが気分が乗らない。アキベカが出てきていたら多分負けていた。
そしてもうひとつ、玄江にため息をつかせる要因があった。
(煌力か。ずいぶん強くなっているな…)
爆心地で目覚めてから感じていた、体内の煌力の増加である。
それもちょっとどころではない。羽を出す練習していたときに感じていたものを蛇口から出る水とすると、今はバケツをひっくり返したような状態である。10倍といわず、100倍以上はある。
暴走時より今のほうが煌力が多い理由について、帰り道でも考えていたのだが、玄江がしっくり来る理由がひとつあった。
(オリエンナは、羽なしで少しづつ溜まった煌力が、羽を開いたときに放出されるのが暴走だと言っていた。つまり、暴走したのはこっちにきて一週間の間に溜まった煌力だったということか)
羽を出しているのと出していないのでは、煌力の収集効率がまったく違う。
そして玄江が翼を広げていた時間はそれほど長くないため、煌力の充電はまだ途中だろう。今溜まっている分で一割くらいかもしれない。はたして最大まで溜まったときはどのくらいの量になるのか。
羽を出す前とはぜんぜん違って、体内を循環する分には完全に制御できているが、煌術として使うときまで加減を間違わずにいられるかは自信がない。先に待つ苦労を考えると、玄江は知らずため息をついてしまうのだった。
『そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないの。クロエも納得したんでしょ?とりあえず一ヶ月って』
そんな玄江の内心など露知らず、自分との取り決めへの不満だと思っているラグアルディアが、呆れたように声をかける。
と言いつつ、ラグアルディアには玄江を手放すつもりなど毛頭ない。竜と知り合い、ともに行動するなど普通なら一生に一度もない。一ヵ月後に別れたら、次の機会など二度と訪れない。
一ヶ月でフィラートを離れるというのなら、当然それについていく所存である。
「とりあえず、とは言ってませんがね」
『細かいこと気にしてばかりじゃ、美味しいご飯もまずくなるわよ』
仕方なしに玄江もサゴナバーをつつく。
『んじゃ、一緒に仕事をするんだから、組合への登録名を考えないとね』
「登録名、ですか?」
『そうよ。英雄フェルイジの"変化者の微笑み"みたいにね』
「今のところ、シーダーになるつもりはありませんし、期間限定なら不要では?」
『そ、れ、で、も、よ!』
着いていくつもりでも、力ずくで追い払われたらラグアルディアに対抗する術はない。
何とかして玄江の役に立つと思わせるか、新たな弱みを握るか、情に訴えるか、パーティー名のように、小さくともこつこつと絆を作って積み重ねるか。
玄江を逃がさないための彼女の戦いは既に始まっていた。
◆ ◆ ◆
フィラート領主館の執務室でアルディアは唸っていた。
郊外で発生した謎の爆発の後始末の状況が芳しくない。
派遣した領軍からは、原因は判断できずとの報告が届いている。
近辺の調査も行わせたものの、獣は逃げ、紋章獣の姿もなく、平和そのものとのことだった。
南門から戻ってきた領民からの聞き取りも、内容は似たり寄ったりである。
これは!と思っていた、玄江とともに行動していただろう何でも屋の少女からの聞き取りも、近くにいて巻き込まれたとのことだった。
監視をつけていなかったことも痛い。
玄江に関する判断材料はまったく増えなかった。
(やはりあのときに聞いておけば…)
悔やまれるのは、シーダーの少女の聞き取りを後回しにしてしまったことである。時間がなかったとはいえ、あのときに聞いておけば、何か材料が手に入っていた可能性もあった。
すべては後の祭りである。
結局、アルディアには、玄江に監視をつける指示を出すくらいしか、選択肢は残されていなかった。
◆ ◆ ◆
フィラートから離れること400キロメートル。王都エニスティア
中央を貫く大通りから離れた場所に立つ5階建ての建物の最上階にその部屋はあった。
部屋の住人は二人。扉を開け入ってきた犬耳の女性と、重厚な椅子に座り、ペンを弄びながら積まれた書類に目を通す獅子耳の女である。
『何かあったの?』
『緊急の報告が入りました。フィラート領の件ですが、先に待機させていたエヌが消滅しました』
『……消滅?』
『はい、消滅です。待機していた付近の森ごと消えました』
『はぁ!?』
淡々とした報告ながら、あまりの内容に獅子耳の女がペンを取り落とした。
『…原因は?』
『不明です。フィラート領主が領軍を派遣して調査していますが、判明していません』
『そう…』
『200ヤルトの窪地を中心として、半径2ミーレの円状に木がなぎ倒されているそうです』
『…隕石でも落ちたのかしら』
『どうでしょう?』
獅子耳の女は、ハァと大きくため息をつく。分からないものをこねくり回しても何も生まれない。
拾ったペンを回す気にもならず、インク壺に突っ込んだ。
『それで、他は?』
『追加した二体のズィーですが、エヌの消滅直後に制御を振り切って逃げたとのことです』
『…ほんと、嫌なことって重なるわね』
不測の要素があったとしても、切り札のひとつをそう簡単に逃がしていいものではない。
『依頼の遂行は無理そうね』
『はい。警備も厳しくなっていますので、ズィーが逃げなくとも失敗していたかと』
『…ほんと、嫌になっちゃうわ』
『関連して、監視していた令嬢の救出者が、森の消滅時、該当付近にいたとの報告が』
『…それ、明らかに原因よね?』
『監視者が直接観測できていないため、確定ではありませんが、おそらくは』
獅子耳の女が、コンコンとリズム良く机を叩きながら、考える。考え事をするときの癖なのだろうか、頻繁に行う行動のようで、その辺りだけ机の塗装が剥げている。
(令嬢を救出し、エヌを排除した。しかも単独かペアで討伐可能。上級何でも屋並みの実力者が、こちらに知られることなく、こんなにタイミング良く?偶然が重なる可能性より情報が漏れてると考えたほうが良さそうね)
『その救出者は誰かと接触してるの?』
『監視直後より中級の何でも屋と行動をともにしているようです。宿泊先を女性専用の宿に変更したため、監視員の交代が発生していますね』
『ううーん…』
(監視員の情報まで漏れてるの?)
『いかがいたしますか?』
『…依頼は破棄。ズィーは何とかして回収。監視は継続。そのシーダーの周囲も洗いなさい。お客様には私から説明するわ』
『畏まりました』
『それから、情報が漏れている可能性があるわ。組織の洗い直しと特定もやらないとね』
『そちらは既に、フィラート周辺に派遣している人員を優先して開始しております』
『そう。優秀で嬉しいわ。引き続きよろしくね』
報告を終え、指示を受け取った犬耳の女性が一礼して部屋を出て行く。ドアが閉まるまでその背を追いかけていた獅子耳の女は、大きくため息をついた。
『ほんと、厄介だわ…』
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