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episode00-01. 悪魔の証明

はじめまして、よろしくお願いします。

 人が望むことをかなえてくれる存在。


 それは例えば、3つの願いを叶えた後に呪い殺すと語られる、ケルト神話に登場する魔剣ティルフィング。


 それは例えば、格闘を挑み、勝利した者の願いを叶えるとされるアステカの神テスカポリトカ。


 古来より空想の世界で語られ続けたそれらは、時に精霊の姿を借り、時に悪魔の誘惑として世界中で紡がれる。


 たいていの場合、かなえる願いはひとつか、もしくはみっつ。

 みっつの場合は話の承・転・結にそれぞれ用いられ、他人の力に頼ってもろくなことにならないという教訓で締められることが多い。


 さて、かくも世界中で語られる願い事をかなえる存在というものは、そのすべてが空想の産物であろうか?千夜一夜物語に語られるカリフ、ハールーン・アッ=ラシードや、叙事詩イリアスに語られるトロイア戦争のように、実在の人物・出来事をもとに生み出されたものは皆無であろうか。


 願いをかなえる存在がいると断言できる証拠はこれまで存在しなかった。しかし、存在しないという証明もない。


 時は夕暮れ、ところは中東。物語は、悪魔の証明を崩す一枚の紙を手にした、一人の青年から始まる・・・


 ◆ ◆ ◆


 ドバイ


 アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつ、ドバイ首長国の首都としてアラビア半島はペルシア湾の入り口に位置する都市。


 その歴史は浅く、歴史に名が登場するのは1830年代である。

 イギリスの統治を経て、当時の首長が近代都市を夢見た結果、膨大なる原油資本をつぎ込まれた街は中東における貿易・商業の最大の中心地と呼ばれるようになり、摩天楼の連なる幻惑的な都市国家へと変貌を遂げた。


 急激なる発展の弊害として、その住人の9割は外国人とも言われ、一部からは「もはやアラブの都市にあらず」との謗りも受けている。

 経済面では2009年のドバイ・ショックを受け、大打撃を受けたのの、「中東の金融センター」としての地位はゆるぎなく、今もなお発展を続けている。


 そのアラブを代表する近代都市の摩天楼群の足元から北東に離れたところ、ドバイ川をはさんだ対岸の、旧市街の市場(スーク)を一人の青年が歩いていた。


 年のころは30代半ばから後半。黒目黒髪のバリバリの日本人だが、世界の人種の坩堝と化したここではそう目立つものではない。国内だと中年と呼ばれ始める年頃ではあるが、世界的に見たら童顔な日本人顔も相まって、ここドバイでは青年と呼んでも十分通用するであろう。


 呼び込みの声を聞き流し、建物の隙間から見える、800メートルを越す三角錐――ブルジュ・ハリファを横目に、足早に市場を抜けた青年は、一軒の古びたアパートメントに入っていく。勝手知ったる場所とばかりに階段をくだり、半地下の廊下を抜け、突き当たりにあったドアをそっと開けると、その身を室内へと滑り込ませる。


 青年の入った部屋には、およそ家具と呼べるものがなかった。

 部屋の隅に置かれたスツールと燭台、スツールの上に置かれたミネラルウォーターのペットボトルと香炉。

 8畳ほどの広さのその部屋にあるのはそれだけだった。


 否。


 確かに、物体としてあるのはそれだけだったが、異様なものがこの部屋にはあった。

 いわゆる魔法陣である。

 部屋の床を埋め尽くすように描かれたそれは、黒一色であるにもかかわらず、見る人によってはある種の美術と評するかもしれない。


 青年は背負っていた鞄から軍手と、袋に入れた木炭と、新しいペットボトル、クリアファイルにはさまれた一枚の赤みがかったシートを取り出す。

 粗く、木の板を薄く削って作ったようにも見えるそのシートはパピルスである。

 表面には複雑な模様と、下部に走り書きのような、ミミズののたくったような字が見える。


 もしここに第三者がいれば、パピルスに描かれた模様と、床に描かれた魔法陣が同じものであることが分かるだろう。

 軍手をした青年は床に座り込むと、魔法陣を完成させるべく、残りわずかな空白部分に木炭で模様を描き始めた。



 魔法陣というものは、基本的に書物に書かれたそのままを書き写しても発動しない。

 それは、写本時に書き損じたという場合もあるが、大部分の理由は、著者によって暗号化されているからである。その目的は素人が戯れに試してしまうことを防ぐためであり、使用者を選別するためであり、知識持つものからすれば復元が可能な程度のものである。


 そもそも、発動可能な状態で書かれていれば、写本するたびに発動してしまって大変なことになる。いくつかの準備や設備が必要なものが多いとはいえ、写本を書くような人物の手元にはそろっていることが多い。


 だが、本来であれば暗号化された状態で記録される魔法陣であるが、例外もある。

 それは例えば、術士が自分用に残したメモの類、あるいは、実際に発動させ、使い終わったものなどである。


 そして青年が手にしたパピルスに書かれた魔法陣は、その例外に属するものであったらしい。


 途中、ミネラルウォーターでのどを潤しつつも魔法陣の空白部分を書き終えた青年は、燭台に明りを灯し、香炉に火を入れる。鞄から鈍色に光る杯を取り出し、ワインを注ぐ。

 ワインを注がれた杯は魔法陣の一角、三角の図形の頂点へ。同じく取り出した盆にはミネラルウォーターを注ぎ、魔法陣の中心に置く。描いた線を踏まぬように慎重に窓へと近づき、木窓を下ろす。


 登り始めた月の淡い光が遮られ、薄暗くなった室内を、香炉から漏れ出る香りが侵食する。青年が呪文を唱える。唱え終わると燭台の明かりを頼りに魔法陣に沿うように部屋を回りつつ、別の面へ。そこでもまた呪文を唱える。


 青年のいる部屋は、四方の壁が正確に東西南北を向いている。アマイモン、コルソン、ジミマイ、ガープ。各方角を司る四人の王に呼びかけ、霊的に場を満たしてゆく。

 呪文を四回唱え、部屋を一周した青年は魔法陣の外に立ち、香炉を三角の図形の、ワインの杯とは別の頂点に置く。手に持ったシートの下部、走り書きのように書かれた文言を、最後の確認とばかりに眺め、一度深呼吸すると、力ある言葉を放った。

 すべての言葉が紡がれた途端、香炉から垂直に伸びていた煙が向きを変え、魔法陣をなぞるように煙の線を描き出す。


 魔法陣が淡く輝きだした。


 その輝きは映画のCGのように強いものではない。また、全体が光っているわけでもない。光っているのは魔法陣の外円部だけである。

 光が揺らぐように回り始める。

 その様子は炎のようにも見え、勢いがどんどんと強くなる。


 部屋が昼より明るくなり、青年が目をかばおうと腕を上げた瞬間、まばゆいまでの輝きとなった光が魔法陣の中心部へと流れ込む。

 外円にて増幅された膨大な力が、力を秘めた文字へと流れ、陣を起動する。

 瞬間、部屋の中が光で満たされ、天井を貫かんばかりの光柱が魔法陣の中心にそそり立つ。


 数秒後か数十秒後か。腕でかばってもなお目を貫くような輝きが、まるで何もなかったかのようにふっと消える。

 ゆっくりと腕を下ろした青年の視線の先、魔法陣の中心には、一人の美女が浮いていた。


 小麦色の肌と切れ長の目。ベリーダンサーのような扇情的な衣装を着ており、口元は薄布で隠されている。燃えるような赤毛は肩にかかる程度で、豊満な胸がゆったりとした衣装を下から押し上げている。

 足を組んだその姿勢は、空中でありながらまるでソファに寄りかかっているかのようである。


「אתה או התעוררת」


 美女の口から放たれたのは聞きなれぬ言葉。知る者が聞けば、それがヘブライ語に近いものであったと知れよう。

 青年も、それがヘブライ語に似ていることまでは分かったが、何を言っているのかまでは理解できなかった。

 実は青年の持つシートに書かれていた文字もヘブライ語であったのだが、辞書を片手に解読し、知人に読みを習うことで何とかなったというレベルである。


「えーっと…」


 なんと声をかければいいのか分からない。青年の口から漏れたのは日本語だった。

 美女が目を細める。青年を見定めるかのように、ゆっくりと視線を上下させ、ついと腕を上げる。くいっと手首を曲げる動作に、青年が夢遊病者のごとくふらふらと歩き出す。


 床に描かれた線を越えて、美女まで後一歩と迫ったところで、美女の手が青年の頭にかざされる。まっすぐに立つ青年と空中に浮かぶ美女とでは、視線の高さは美女のほうがわずかに高い。

 時間にすれば数秒、青年にとっては一時間とも永遠とも思える時間が過ぎた後


「――ふむ、これがぬしさまの国の言葉かや」


 美女の口から滑り出たのは、流暢な日本語だった。

 呆けていた青年がはっと我に返る。無意識のうちに動いていたらしい。というよりも、動かされたというべきか。

 問いかけるような視線を美女に向けたときには、すでに美女の腕は下ろされていた。


「さて、改めて。わらわを呼び申したのはぬしさまかや?」


 それでもちょっと手を伸ばせば触れられる程度。視線が確かな圧力を持つ距離に臆することなく、青年は返答する。


「あぁ、そうだ」

「名は?」

「玄江」

「クロエか。よき名でありんす」

「逆に問う。貴女の名は?」

「ない。ぬしさまの好きなように呼びなんし」

「ない?」

「うむ。わらわには人の世での名がありんせん。ぬしさまが手にしちょるその紙切れにも、わらわの名は記されておらぬであろ?」

「確かに載ってない。だからこそ聞いた」


 玄江と名乗った青年がぴらぴらとクリアファイル入りのパピルスを振って答える。


「ふむ…ならばアルマで」

「アルマ、でありんすか。響きも悪くない。何か由来でも?」

「聖母の名だな。あとは、アルマデルとか、女神とか」


 ――ヘブライ語版の福音書では聖母マリアをalmahと記している。また、中東の神話にアルマという名の女神がいる。


「アルマデル?」

「レメゲトンの第4部だが…そもそも偽典だから知らないのか」


 レメゲトン。別名を「ソロモン王の小さき鍵」とも言い、悪魔や精霊の姿や性質、また、それらを使役する方法が書かれた魔導書のことである。

 第1部となるゴエティアが最も有名だろう。

 その内容は、さまざまな漫画や小説に登場する、ソロモンの72柱の悪魔について記されたものである。そのレメゲトンの全5部からなるうちの第4部が、天の四つの高度と黄道十二宮を支配する大精霊について書かれたアルス・アルマデル・サロモニスである。

 とはいえ、編纂されたのは17世紀で、2500年以上前に存在したソロモンとの関係性は薄く、14世紀の『ソロモンの鍵』などとまとめて偽ソロモン文書と呼ばれている。


 アルマと名づけられた美女が少しの間虚空に視線をさまよわせる。


「ふむ…あぁ、ソロモンの小童の術をまとめたものなのでありんすな」

「ソロモンは分かるのか。ということは、アルマはソロモンに仕えていた悪魔なのか?」

「仕えていた、というのはちと語弊がありんす。頼まれて力を貸していた、といったほうがまだ近かろ。もっとも、わらわを呼び出しておったのは側近の一人でありんしたが。その後もちょいちょいと呼び出されておりんしたが、最近はちいとも声がかかりやせんかった。わらわを喚ぶ術なぞ、よくぞ残っていたものよ」

「そういうものか」

「あの頃はわらわのような存在はたくさんおりんすよ。人の世での名を持たぬものも山のように呼ばれておりんした。わらわもその一人でありんす」

「なるほど」


 納得したようにうなずく玄江。

 玄江の言葉を最後に沈黙が降りる。二人の距離は変わらず、手を伸ばせば届く距離だ。何かを試すような、どこか楽しげな視線がねっとりと玄江をなぶり、逆に玄江は何かに耐えるように視線をそらす。


 1分か、10分か、それとも数十秒か。

 ついに玄江が降参の手を挙げた。


「あぁっ、もう!やめやめ!重っ苦しい!」

「おや、せっかくの雰囲気は終わりなのかや?」

「こういうのは苦手なんだよ」


 雰囲気が崩れたのを幸いと、くるりと後ろを向く玄江。部屋の隅にあったスツールを取ってくると、どかっと腰を下ろす。といっても先ほどまでのようなアルマのすぐそばでなく、魔法陣のふちにだが。


「ずっとこっちを試していただろう?」


 玄江がアルマを睨むが、アルマはどこ吹く風とばかりに受け流す。


「それはもちろんよ。ぬしさまのことを知らねばわらわはなにもできないからの。ぬしさまとて、得体の知れぬものを相手にしたいとは思わないじゃろ?」

「いやまぁ、うん。思わないな」

「そういうことよ。深く気にするでない。禿げるぞ?」

「禿げるか!」


 思わず突っ込みを入れてしまう玄江。呵呵と笑うアルマ。どうにも主導権を持っていかれた。取り戻すにはまず落ち着かなくては。そう考えた玄江は細く息を吸い、深く息を吐く。


「しかし、ほんとに召喚できるとは、な」

「おや?失敗すると思いんすか?」

「実はこれで3回目だ。でも、前の2回よりかはできるんじゃないかなって感触はあった」


 正直に暴露する。そしてこの台詞は玄江の目論見どおりアルマの興味を引いたらしい。


「ほう。して、根拠は?」

「魔法陣に、隠されている雰囲気がなかった」

「――なるほどの。加護もなく、ぬしさまの年でそれが分かるとは、なかなかのものでありんすな」

「ほめられるほどのことじゃないさ」


 謙遜でなく本心である。インターネット全盛の時代においては書物などいくらでも手に入るし、参考になるものも無数に転がっている。


「さて、そろそろ本題に入りたいんだけど、その前にいくつか聞いてもいいか?」

「よござんす。なんでもお聞きくださいまし」

「なんで廓言葉?」


 アルマのコーカソイド系の見た目と、遊郭で使われるしゃべり方、通称ありんす口調は意外と合っているなぁとかこっそり思っていた玄江である。

 しゃべりだけ聞いていたら、それこそ煙管(キセル)の一本でも出てきそうな雰囲気だ。


「ぬしさまの願望に合わせんす。変でござんしたか?」

「願望て」


 えぇーとばかりに脱力する玄江。いや確かに、オタクであることを自覚しているだけに、そういうのに憧れがないといえば嘘になるが…

 ということは、本格的なものでなく廓言葉風であることも、玄江の願望を反映したということだろうか。


「わらわはぬしさまの願いをかなえるために呼び出されたわけじゃしの。これで願いをかなえたと言うつもりはないから安心しておくんなし。雰囲気作り程度と思うがよい。もっとも、その雰囲気もぬしさまが自ら壊し申したが」

「そこはもう触れないで…」


 気を抜くとあっという間に会話の主導権を持っていかれる。もしスツールに座ってなければ、一度ならず床に崩れ落ちていたかもしれない。疲労を覚えながらも、玄江はあらかじめ考えていた質問を続ける。


「次の質問だけど、かなえてくれる願い事ってひとつだけ?」

「基本ひとつよ。ソロモンなぞは用があるたびに誰ぞ呼び出しては頼んできたものでありんしたが、加護なき者が頼めるのは、せいぜいひとつじゃ。もっとも、それ以前に喚び出す事すらできぬものが大半でありんすが」


 うむうむとうなずくアルマ。過去のことでも思い出しているのだろう。


「こう言うては何じゃが、ぬしさまもそれほど力を持っておらぬようにみえんすが…なるほど、霊樹を墨として陣を書いたか。どこから取ってきたかは知らぬが、なかなか豪快なことをしなんす」


 床に広がる魔法陣を見て、ちょっと驚いたような表情をするアルマ。対して玄江は入手に苦労した霊樹に気付いてもらえたことでちょっと得意げである。

 とはいえ、質問はまだまだ続く。


「願いはきちんと現実に反映されるもの?幻覚を見せてごまかすような方法じゃなくて」

「手を抜いて魂を掠め取るような下種な連中とわらわを一緒にするでない。わらわの力の及ぶ限り、ぬしさまの願いを実現しなんす」

「願いを叶える代償は?」

「願った者の魂。と、本来ならそう言うべきでござんすが」


 アルマが妖艶に笑う。


「わらわが求めるのは娯楽でありんす」


 一転、笑みがかげり、細くため息が吐かれる。


「大体、わらわに願うような輩どもは、魂まで腐っておることが多くて食えたものじゃないのでの」


 過去に食った魂の味でも思い出したのか、アルマが顔を顰める。


「それがいいという同輩もいるにはいるが、わらわは好かぬ」

「悪魔のグルメといったところなのかな」

「うむ。まぁ、そういうわけでの。わらわは魂よりも百年千年と思い返しては笑える話を求めんす。ようは、願いを叶えて欲しければわらわを楽しませてみよ、ということでありんすな」

「なるほどね」

「わらわは、わらわの想像を超えることをしてくる者を好みんす。そういう意味では、霊樹の墨はわらわの好みじゃな」

「お気に召したようで何より。ついでに叶えてくれる願いの数が増えると嬉しいんだけど?」


 玄江の言葉をアルマはハッと鼻で笑う


「それは虫が良すぎるというものでありんす」

「まぁ、期待してなかったけどね。願いの有効期間は?」

「ぬしさまが何を望むかによりけりでありんすな。金銀財宝であればその場限り。不老不死であればぬしさまが死にたいと願うまでかの」

「不老不死で期限なしの場合だと、それこそ魂が擦り減って悪魔には旨みがないんじゃないのか?」

「そういう場合は如何にして、もう死んでもいいと言質を取るかの知恵比べとなる場合が多いの。それはそれで楽しくありんすが」


 だいたい予想通りの回答に、ふむとうなずく玄江。


「それよりもぬしさま。先ほどからの言動を聞く限り、わらわのことを悪魔と思っておらぬか?」

「うん?違うのか?」


 きょとんとした顔で聞き返す玄江。それに対してアルマは渋い顔を返す。


「そもそも、悪魔だの精霊だのも人が分類したものでありんす。善悪の区別も人が勝手に決めたものよの。かつては精霊(ジン)とひとくくりにされておった」

精霊(ジン)、か。アルマもランプの魔神をやったりしてたのかい?」

「ランプなんぞに入ったことはありんせん。質問は以上かや?」

「いやいや、まだあるよ。願いの娯楽の釣り合いは――」


雑談を交えつつも、玄江の質問は続いていく…


 ◆ ◆ ◆


「質問はまだあるかの?」

「うーん、こんなものか。叶う願いはひとつだけ。代償は娯楽の提供」

「うむ」

「叶える内容に制限はない。強いていうなら、見あった娯楽が提供できるかがポイントとなる」

「その通りじゃ。付け加えるならば、願いの割に面白かった者は存外多くはありんせん。ぬしさまには期待しておるよ」


しみじみと語るアルマ。


「はは、期待に沿えるよう頑張るよ」

「よろしく頼みんす。――さて」


アルマの一言で今までの雑談めいた雰囲気が一転し、召喚直後と同等の張りつめた空気が場を支配する。


「わらわを呼び申したものには、願いをかなえんす。ぬしさまは何を望むのかや?」


凛とした声と視線が玄江に投げ掛けられる。対する玄江も臆することなく正面から受け止め、視線を投げ返す。


「僕の願いは――」


 玄江は、力強く願いを宣言する。


「異世界旅行だ」

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