プロローグ
あ、っと思った頃には、もう遅かった。
いつもどおりの交差点、帰り道に惨劇は起きた。
たくさんの悲鳴、大きな音、押しつぶされるような豪雨――
「大丈夫ですかっ、貴方っ……」
倒れているあたしに話しかける、若そうな男の人。
年は25〜6くらいだろうか、眼鏡がそこはかとなくオシャレさを醸し出している。
あたしはあの人を知らない。
そして、あの人もあたしを知らない。
近くに群がる中の誰かが呼んでくれたのだろう、救急車がけたたましいサイレンを木霊させ
てやってきた。
……どうして、あたしはあそこで倒れてるんだろう?
赤々とした血にまみれて、ぴくりとも動いていない。
それじゃあ、どうしてあたしはあたしをこんなにじっくりと見ているんだろう……。
あの女の子は確かにあたし。それは17年間毎日鏡でじぃっと見てきたもの、すぐわかる。
中肉中背で、スタイルに取り立ててよい所はなし、クラスのみんなと変わりない茶色い髪、
少し大きめの目、今は血の気もないけれど、元々白い肌。
苦労もせず入った中堅高校の、安っぽいセーラー服。
間違いない、あれは、あたし。
「貴方、ついてきてくれませんか!?」
ちょこっとカッコいい男の人が、救急隊員のおじさんにそう言われて、おどおどしながらも
こくり、と頷く。
その姿を見届けようとしたその時……あたしの背後で声がして、それから辺りには深くて
濃い霧がかかった。