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嫁は強し。

作者: 瑠璃蝶草

大切な豹牙(夫)の誕生日。妻である春都は張り切ってお祝いをしようとします。しかしその矢先に豹牙の勤め先の地獄で問題が起こって……。

※エリュシオンの二次小説です。

※二人は結婚している設定です。

「じゃあ、行ってくるね」


とある日の朝。

神風豹牙(jb2823)は地獄へ呼び出された為、朝早くから出掛けようとしていた。


「………………んぅ」


それを不機嫌な様子で、見送る神風春都(jb2291)。

眠いのもあるだろうが、それよりも今日という日に仕事に行ってしまうこと、

それが一番の要因のようだ。


今日。


9月1日。


それは豹牙の誕生日だった。

前々からこの日は二人でデートして、夜は春都の手作りの夕飯で誕生日を祝おうと

計画しており、それは豹牙の上司で地獄のトップ、獅子王砕牙(jb2791)にも

話しているはずなのだ。


なのに……。



「……そんな顔しないで、春都。 今地獄が人手?が足りてないのは知っているよね?

 きっと砕牙も仕方なく俺を呼んだんだよ。 じゃなきゃ俺達の計画を知っていて

 あいつが邪魔するように呼ぶはずないでしょ?」



苦笑しながら、少しでも機嫌を直そうと頭を優しく撫でる。

春都はその手の心地良さに目を閉じながら、自分を叱咤した。


分っているのだ。砕牙が仕方なく豹牙を呼んだのは。

そして豹牙が申し訳なく思っているのは。

それでも子供の自分は素直に顔に出てしまって……。


春都は深呼吸を一つすると、微笑を浮かべて顔を上げた。


「…………うん。 ごめんね豹牙。 大丈夫。

 もし、夜までに帰ってこれたらせめてケーキだけでも一緒に食べようね」


「もちろん!! 夜までには終わらせて帰ってくるよ」


春都の笑みを見て安心した豹牙は、春都と指切りを交わして姿を消した。



「よしっ!! 一人は寂しいけど豹牙もがんばってるもん。

 私もがんばらなきゃ!!」


豹牙を見送った春都は家の中に入ると妻らしく、洗濯掃除を始めた。



――――地獄―――――

「壱から参隊はこの付近の捜索。四から伍は囚人共を黙らせろ。

 六から九は……」


「砕牙ぁぁぁ!!」


慌しい様子で鬼共に指示を出す閻魔大王・砕牙の元へ駆け寄る。

豹牙の声に一通り指示を出し終えた砕牙が振り向く。


「ああ、豹牙か。 すまねぇな、こんな日に。」

「なぁに、俺とお前の仲だろ? 気にすんなよ」

「だが……春都、怒っていただろう?」

「あー……拗ねてはいたが。 夜までに帰れば問題ねぇよ」

「そうか……」


自分の今の状況より、春都の事を気にして困ったように笑う、

己の上司を安心させるように背中を軽く叩く。


「で? 今の状況は?」

「ああ。 ……地獄から約5名、脱獄した。

 手引きをしたのは下っ端の見張り。

 どうも脱獄した連中の仲に幻術を使う奴がいたらしい。

 見張りはまんまとその幻術にかかって奴らを脱獄させた。」


ちっ、と舌打ちをする砕牙。


「今、捜索隊に地獄の隅々まで探すよう指示してある。」

「俺はどうすればいい?」

「そう、だな……俺一人じゃ隊を管理しきれねぇ。

 捜索隊の指示と管理。 なにかあったら俺に迷わず連絡。 いいな?」

「ああ。 わかった」

「よし、行け」


砕牙の一言で俺は捜索隊の奴らと合流しに地獄を駆けた。



―――――脱獄囚―――――――

「はぁ、はぁ、はぁ……ほ、ほんとにこっちであってんのかよ!!」

「ああ、間違いねぇ。 俺の術で見張りに聞いたんだ。」

「……にしても、本当にやるのかよ……」

「んだよ、怖じ気ついたのか? お前」

「ばっ、ちげぇよ!!」

「でも、本当……まさかあいつらも想像できないよね~。」


「俺達の狙いが、副官の妻の殺害、なんてさ」


そう、闇の中を駆けていくこいつらの狙いはただ一つ。

いままで自分たちを虐げてきた鬼の統率者の副官・豹牙への復讐。

まさか本人に飛び掛ったところで勝てるわけも、生きていられるわけもなし。


故に五人が目をつけたのは人間だと言うその妻の殺害。


「たかだか人間の女一人……へっ。 無残に残酷に殺してやるっ」


ギラギラと燃える殺意をその瞳に滾らせ、

五人は標的が居る家へと辿り着いた。


ギリギリまで殺気を押えて、一人がノックをする。


「はぁーい」


中から女の声がする。

出てきたのは黒髪の人間の女。


俺達の姿を見ると、暢気そうなその顔が強張る。


「怨むんなら、てめぇの旦那を怨むんだなぁぁぁぁぁぁ!!!!」


鋭い爪を振り上げれば、女の顔に影を作り……。



ザシュッ


赤い、赤い血が飛び散った。



―――――地獄―――――

「っそ!……まだ足取りが掴めないのか!!」

『はっ、申し訳ございませんっ!!』

「手がかり一つ無し、か……」


全く足取りが掴めない事に苛立ちを隠せない砕牙と豹牙。


そんな時だ。


『大将ぉぉぉぉぉぉ!! 大変だぁぁぁぁぁ!!』


部下の一人、斬鬼が必死な形相で飛び込んでくる。


「どうした!!」

『た、大変だ! 地獄の門が無理矢理開けられた痕跡がある!

 んで、足跡がある方角へ真っ直ぐ続いてる!!』

「ある、方角……?」


妙な胸騒ぎがする豹牙。

聞きたくないような、今すぐ聞かなければ取り返しがつかないような。

そんな嫌な予感を抱えて斬鬼の言葉の続きを待つ。


『豹牙の旦那の家だ!!』

「まさか……あいつらの狙いはっ!!」

「っ!?」

『っ、旦那っ?!』


斬鬼の横をすり抜けて、風の速さで地獄を駆ける。


心臓がバクバクと大きな音を立てる。

血の気が引いて、体が冷たい。

風が抵抗して顔に吹きつけ、息苦しい。でも止まれない。


止まるわけにはいかない!!


(春都、春都、春都っ!!!)


思考を占めるのは春都のことばかり。


脳裏をよぎるのは今朝見送ってくれた春都の笑顔。

そこからどんどん過去の思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

……そう、それはまるで走馬灯のように………………


「って! 走馬灯は死ぬ奴が見るんだろ?! つうか!!

 んな不吉なもんを思い浮かべてんじゃねぇ!!! 俺っ!!」


自分に悪態をつきながら、ようやく自宅の屋根が見えるところまで

やってきて………鼻をつく血の匂い。


「ぁ……っ!! はるとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


愛おしい人の名前を叫んで、見えた先は……。




「あ、おかえり豹牙。 早かったね♪」



春都が洗濯物を干しており、その脇に、ぼろぼろ姿の脱獄囚共が縄で縛られて転がされていた。



てっきり血の海が広がっていると思っていた豹牙は拍子抜けし、

目が点になって呆然と立ち尽くしている。


「どうしたの?」

「……えっと、春都さん? これは一体…………」

「これ? ああ、あの人達? なんか急に訪ねて来たと思ったら襲い掛かってきて、

 つい返り討ちにしちゃった。」

「しちゃったって……」


まるでお料理を焦がしちゃった☆ みたいに軽く言う己の妻に、

先程までの緊張が一気に解け、脱力する豹牙。


「あ、そういえば地獄だの、復讐だの言ってたけど……もしかして砕牙関係?」

「もしかしなくても、そうだ」

「……砕牙」


後ろから声が聞こえて振り向けば、苦笑交じりで近付いてくる砕牙。


「迷惑かけてすまんな、春都。 怪我はないか?」

「あー……ちょっと引っ掻かれたぐらいだから大丈夫。」

「引っ掻かれたぁぁぁ?! どこ?!」


青ざめる豹牙に春都は包帯の巻かれた腕を少しだけ見せて笑う。


「大したことないし、傷も残らないから大丈夫だよ」

「でも、でもっ!! ……ちょっと砕牙、春都を頼む。

 あいつら一回塵にしてっ……!!」

「あー、それは俺がやるから。 お前が春都と居てやれ。

 問題は解決した。 もう大丈夫だよ」


殺気が駄々漏れで、囚人共を回収していた鬼達でさえ、その殺気に震えて固まってしまった。

今にも襲い掛からんばかりの豹牙を片腕で押えて、砕牙は解除命令を出す。


「でもっ、あいつらっ!!」

「豹牙、私は大丈夫だよ。 それより……せっかく早く帰って来たんだもん。

 お祝い、したいなぁ」


だめ? なんて寂しげな表情で豹牙に問えば、一瞬で黙り大人しくなる。

しばらくの沈黙の後、わかったと小さい声で答え、春都に抱きつく。

春都は苦笑しながら、宥めるようにその背中をぽんっぽんっと叩く。


「おーおー。 お熱いこって……んじゃな、お二人さん。」


豹牙が落ち着いたのは良かったが、目の前で二人の世界に入られちゃ堪らんと。

砕牙は部下達と足早にその場を去った。



「じゃあ、ちょっと座って待ってて。 すぐに料理作るから!」

「……春都」

「なーに?って、わっ!!」


台所へ行ってしまう春都の腕を引き、己の腕の中に閉じ込める。

そのまま力強く抱きしめる。


「どうしたの?」

「……ごめんね」

「なんで謝るの? 豹牙、なにかしたの?」

「…………守れなかった……怪我までさせちゃった……」


ぎゅっと強くなる力。

少しの息苦しさを感じながら、それでも今にも泣きそうなか細い声で言葉を紡ぐ豹牙が

愛おしくなり、春都は心から微笑む。


「でも、豹牙はすぐに駆けつけてくれたでしょ?

 息を切らして、汗だくで。 顔を真っ青にして……びっくりしたけど、

 私は嬉しかったよ」


「でもっ……痛かったでしょ……俺がもっと早くに気づいていればっ」


「……豹牙。 あのね、私ちょっとだけあの人達に感謝してるの」

「感謝? なんで? 春都って……マゾだったっけ?」

「違うっ!! ……だって、あの人達がここに来たおかげで豹牙はすぐ帰ってくることが出来た。

 予定よりもずっと早く豹牙に会えて、ずっと早く豹牙をお祝い出来るんだもん。

 それだけ、ちょっと感謝してる」


ふふっと笑って豹牙の首に擦り寄る春都。

豹牙は春都の言葉にちょっと納得をして、甘えてくる姿にくすぐったくなって身を捩る。


「豹牙、」

「うん?」

「誕生日おめでとう。 生まれてきてくれてありがとう」


愛おしい人の心からの言葉と笑顔に、胸の奥が熱くなって、苦しくなって。

でも、心地良いその感覚を表すように、そっと唇を重ねた。



(愛おしいあなたが生まれた日。)



(ひょ、豹牙そろそろ離してくれないと料理がっ)

(ん~。もうちょっと……)

神風豹牙さん、大変遅くなってごめんなさい!!

お誕生日おめでとうございます!!砕牙さん、友情出演ありがとうございました!

いやぁ……春都こっわ~い;

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