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FLORIOGRAPHY Ⅱ  作者: ジグマ
Prologue
2/18

[1]

 今年も庭にヒマワリが咲く。3年前に種を植えて以降できるだけ手入れしたおかげか、今年も無事咲いてくれた。


 朝、起きてからまず何よりも先に彼らに水をやる。潤った葉は瑞々しく、陽が反射してはさらに美しさを増す。自然の美ほど美しいものはないと、本当にそう思う。

 すっかり自分の身長を越している彼らの一本をなぞるように撫でる。まるで太陽のように明るく眩しい花。見上げるほど大きくて、他者を圧倒する存在感のある花だ。その姿はまるで、まるで夫だ。


 3年前に結んだわたしと夫の婚姻は、便宜上のものだった。だから本来夫婦の間にあるであろう愛情はない。少なくても夫からはない。それでも妻に向けるものではなかったにしろ、家族としての情ならばもらっていると感じている。


 わたしは異性として夫が好きだが、それを伝えることは出来そうにない。こんな結婚を夫に決意させた原因が、自分だと自覚しているからだ。

 特に夫はわたしのことを妹のように思っているからなおさらだ。好きでもない異性からの告白は、戸惑いしか与えない。


 一昨年卒業した高校の1年分の授業料と今通っている専門の授業料だけでなく、食費もろもろもすべて夫が支払ってくれている。専門は正直行く気はなかったが、夫に「このご時世それくらい卒業しておけ」といわれてしまったためだ。

 本当に多大な迷惑をかけていると自負している。だからこれ以上夫の負担になるようなことはしたくなかった。


 そんな夫に対する吐き出せない愛情を、わたしは密かにヒマワリに託す。

 好きですと、本人に伝えられない言葉を投げる。迷惑ばっかりかけて、なのに好きになってごめんなさいと謝る。


 夫は、わたしがただヒマワリを好きで育てていると思っているらしい。まさか身代わりにされているとはつゆ知らず。もちろん草花を育てるのは本当に好きだから、間違っていることもない。

 だけど本当は、もう一つ意味がある。花にあまり感心がない夫だからこそ出来る、絶対に伝わることがないであろうわたしからの密かなメッセージ。


 ヒマワリの花言葉は『私の目はあなただけを見つめる』。


 夏のこの時期だけの、気づかれることのないささやかな告白。

 来年はもう、夫に伝えることもできないだろう。きっと来年はもう、わたしはここにはいないだろうから。


 便宜上の結婚は期間限定のものだった。あと半年とちょっとで、この結婚は解消される。

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