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FLORIOGRAPHY Ⅱ  作者: ジグマ
スナップドラゴン◆おしゃべり/でしゃばり/大胆不敵
18/18

[3]

 午前中の、しかも朝に近い時間だったにも関わらず、道が想像以上に込んでいた。原因は弥生が行きたいといっていたアウトレットモールだ。出来て間もないというところからかなり人気があるようで、ナビが表示した時間よりずいぶんと遅れて到着した。

 まあ実際ナビ通りに到着してしまった場合、まだ開店前で駐車場に入れるか分からないレベルだったので非常に助かったのだが。


 やってきたアウトレットモールは、駐車スペースを優に4000台以上を確保している地方最大級の大きさだった。案内板を見る限り出店舗数は200を超え、他にもレストランやカフェが数多く軒を連ねているフードコート、大型アミューズメント施設などもあるらしい。

 よくよく見れば交通アクセスだって悪くなかった。乗り換えの充実した駅に直結した作りになっているし、かつ高速道路のインタージェンジからも近い。

 なるほど、これなら人が集まってもおかしくはない。まだ9時を回ってまもなくという時間帯なのに、すでにかなりの人数がこのモール内にいるのも十分に納得できる理由だった。


 しかも天気だって正しくお出かけ日和、という言葉がびったりな雲一つない快晴。10月後半にしては暖かめの少しかさついた風がゆったりと流れている。温かくも寒くもない半端なこの気温は、歩き回って買い物をするにはもってこいだろう。

 弥生と蓮華の2人組は他の来場客同様、花に誘われたミツバチのようにモール内の店舗のあちこちを歩き回っている。護は弘と二人、オープンカフェの一角からそんな二人の姿をのんびりと見守っていた。


「いや〜女性陣二人は元気だねえ」


 アイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れつつ、向かいに座っている弘がのんびりと言葉を紡ぐ。護同様、弘もこういったところには興味はないタイプだ。よってあの二人の買い物が済むまでは、荷物持ち役の彼も待機となる。


「……二人っつーか、お前の(ヤヨイ)さんが元気あり過ぎなんだろ」

「いいじゃんいいじゃ〜ん。元気なのはうちの奥さんの取り柄の一つだもん」

「ま、別に元気なのは悪いことじゃねえな」


 弘とは違い、護はブラックのままアイスコーヒーを飲む。よく冷えたコーヒーは、心地よく喉を流れていく。ストローでグラスをかき回せば、入っていた氷がからりとなった。

 たしかに文句なんかないのだ。単に元気である、ということにはまったく文句はない。あるとするならば。


「俺を巻き込むなよ! なんで俺が運転手させられにゃいけねえんだよ!!」


 護は忌々しげに奥歯を噛み締め、弘を射殺す勢いで睨みつけた。


「だいたいお前が単車ばっか乗ってっから、俺が運転手させられたんだろうが!」

「ハッハッハー、護は運転巧いからねえ〜」


 腹立たしいことにヤツはまったく悪()びれる様子もない。本当にムカつく野郎だ。


「笑い事じゃねえぞ! こちとら仕事が詰まってたっつーのによ!!」

「それでも断れないのが護、なんだよね〜。ほーんとアマちゃんなんだから」

「おーおーケンカ売ってんだよな、上等だ」


 歯ァ食いしばれ。青筋を浮かべ拳を握ってやったのに、「やだなー、冗談だよジョーダン。落ち着いて落ち着いて」と弘はからりと笑う。

 残念ながらこういった状況は弘にとっては慣れたもので、慌てることなど少しもない。護が怒りっぽいといいことは知っているし、怒鳴られることは挨拶代わり。20年来という無駄に長い付き合いをしてきたせいで、凄む護などさして珍しくもないのだ。ついでに彼独特の食えない性格も、余裕をかませる原因の一つなんだろう。


 そのぬらりくらりとした弘に、苛立だっていた護の気持ちがじわじわと萎えはじめる。少し汗をかき始めていたアイスコーヒーを仏頂面で飲み終える頃には、完全に気持ちは落ち着いていた。

 そんな護の様子を察知したらしい弘は、さらりと話題を変えた。


「そういえばさー、護」

「なんだ?」

「あと何ヶ月かで蓮華ちゃん20歳(ハタチ)だったよね? たしか誕生日はひな祭りの3月3日だっけか」

「……そうだけど、いきなりなんだよ」

「やっぱ別れんの?」


 ずずーっと珈琲を啜りながら、弘が問うてきた。弘は護と蓮華が夫婦であることを知っている。それがあくまで戸籍上だということも、蓮華が20歳になるまでの期間限定だということも知っている数少ない人間だ。

 なんで今その話題を出すのか。今だからこそ、なのか。


「てか『やっぱ』ってなんだよ」

「まだ手放そうとか考えているのかなーって」


 手放すも何も、と護は思う。もともと彼女は自由だ。この結婚はあくまでも便宜上のもので、蓮華を自分のものとして縛るものでもなんでもない。なのに弘の言葉が、やけに重たくのしかかってきたような気がするのはどうしてだろうか。

 護は無意識に眉根を寄せ、腕を組む。さっきアイスコーヒーを飲んだばかりだというのに、なぜだか喉が渇いた。言葉に詰まった護を見て、さらに弘が口を開く。


「だってさー、いつまでたっても蓮華ちゃんに結婚指輪を送ることもしないし。どうせまだ手も出してないんでしょ?」

「『どうせ』ってお前なぁ……」

「ほーんと無駄に律儀というか、ただのヘタレというかさー」

「何がいいたい?」


 さすがの弘の物言いに、護はムッとする。けれど当の本人は悪怯れもなく笑って、あっさりと聞いてくるのだ。


「それでいいの?」

「……なにが?」

「やだなー、分かってるくせにー」


 もちろん、分かってる。弘は蓮華と別れていいのかって聞いてる。けど単に別れていいのかって聞いているわけないのも分かっている。

 弘は蓮華の感情は抜きにしての護の気持ちがどうなんだと聞いている。つまりは人のむき出しの感情を聞こうとしているのだ。そうして護の本気を推し量っている。

 どう言葉を返すべきかと口をつぐんでいたら、やがて弘がけたりと笑った。


「ま、護がそれでいいっていうなら、俺は何も言わないけどねー」


 見透かしたようにいわれたのが癪にに障った。眉根を寄せて顔を顰めたつもりだったけれど、上手くそんな表情を作れたかは分からない。

 まったく長い付き合いというのも考えものだ。知られたくない気持ちまで探られる。


「ほんとお前は嫌な野郎だ」

「お、最上級の褒め言葉?」

「いってろ」


 溜め息まじりに弘から視線を外した先に、偶然に入り込んできたのは買い物袋を引っ下げて歩いている蓮華だった。隣を歩く弥生と何やら話しては楽しそうに笑顔を見せている。ぱっと彼女の顔がほころぶたび、周りの男どもの視線を無駄に集めていた。

 クォーターながらその血が濃く、かつ非常に整った彼女の容姿はとても人の目を引く。けれど彼女自身はよくも悪くも目立つそれをコンプレックスにしていたりする。基本的に内向的な性格がさらに拍車をかけているのだろう。

 淡いパステルカラーのワンピースと白いカーディガンを着たそんな彼女は、眩しいほどに綺麗だった。

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