第八話 オッツーはあたしのスカートをめくる
登場人物
●乙姫羽白
本作の主人公。
性格が残念で変わり者な所がある。
本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。
●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)
学校一の超絶美少女にして学年一の才女。
しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。
家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。
●白鳥えみり(シラトリエミリ)
茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。
顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。
学内のリア充カーストで上位に位置する。
●朱鷺やよい(トキヤヨイ)
一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。
三十?歳で未だに独身。
羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。
第八話 オッツーはあたしのスカートをめくる
「ところで、やよい先生。ここまではわかったのですが……。まだ何かあるんですか?」
私の生写真は一枚いくらの価値があるとか、全国に販売すれば何億枚売れるだとか。
ついさっきまでしていた意味不明な演説を終えた麦蒔が、やよい先生にそう聞いた。
「ああ、まだ話は全て終わったわけではない」
そう言うとやよい先生は白鳥の方へ向き直り「白鳥、アレを出してくれ」と言って手を差し出した。
「えええっ!? オッツーもいるのに出すんですか?」
「そうだよ。それにさっきも言っただろ。乙姫なんてミドリムシが大きくなった程度の物なんだから気にすることはない」
いやいや、さすがにぼくも葉緑体は持ってないよ? 横文字にするとクロロプラストだったっけ?
「うぅぅ……。オッツー! ぜっっっっったいに変な気を起こさないでよねっ!!」
そう叫んだ白鳥は、硬く握った左拳をぼくの太ももに叩きつけてきた。普通に痛いからやめてね。
なんなんだよいったい……、とか思ってたのだが。白鳥が渋々と机の上に置いた一枚の写真を見てぼくはびっくりした。
「え? 階段の下からパンチラ撮ってるじゃん?」
「……っ!?」
後姿だけなのでハッキリと誰なのかはわからないが。でも、左手についてる三色の髪留めゴムには見覚えが……。
「この左手のやつって、白鳥が今つけてるやつだよね?」
「そうだよ! あたしだよこれは! なんでオッツーなんかにこの写真を見せなきゃいけないの……」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした白鳥は、両手で顔を被い隠すようにしていた。
この写真をぼくに見られるのが嫌で渋っていたという訳か。なるほど。でも白鳥のリアクションなんてどうでも良いのでスルーの方向で。
それにしてもだ。ぱっと写真を見ただけだったが、これってさ……。などと考え込みながらぼくは呟いた。
「いくつか気になる点があるんですが……」
「ほう……」
やよい先生がキリリと目を細め、ぼくに聞いてきた。
「乙姫、今回に限りお前の発言を許可する。何が気になった?」
発言くらい、いつも許可しろよっ!
「まずこの写真の白鳥なんですが。これって見せパンってやつですね」
見えてもいいパンツ。通称見せパン。
女子高生が駅の階段を登ると必ず下の方に男の人が現われるが、残念なお知らせを一つ。最近の女子高生はパンツの上に見せパンを穿いてるので意味ないんだよ? ぼくは見せパンでも見たいけど。
「なんでオッツーが見せパンってわかるの?」
自信をもって断定した事に疑問だったのか、白鳥が聞いてきた。
「一般教養だよ」
「乙姫くん。そんな教養はないわよ。ふざけないで」
はいはい。麦蒔は数少ない生パン派だって自己主張ですかね。
「まずその写真に写っている派手な柄パンツだけど、それはドンキとかで売ってる安いやつでしょ? 見たことあるよ。それに白鳥みたいに超ミニスカの女の子が生パンとか、ただの痴女じゃん。それはありえないよ。どうせ今だって穿いてるでしょ?」
と言って隣に座っている白鳥のスカートをめくったのだが、
「きゃっ!? なにするの!?」
手を払われて阻止された。
「いやいや、別に見せパン穿いているんなら問題ないじゃん。その黄色ベースにハイビスカスみたいな柄のパンツ、可愛いと思うよ?」
「エッチっ! 変態っ! 信じらんないっ! 問題大ありだよ! 見えてもいいけど見られるのは恥ずかしいんだよ! オッツー最低っ!」
なんだそれ、知らねーよ。
「まあ白鳥のパンツとかどーでもいんだけど」「それもムカつく――」「この写真で一番気になったことがあるんだけどさ……」
ぼくをベチベチと叩きながらブツクサ言っている白鳥の事を無視して、ぼくは話を進める事にした。
「乙姫、なんだ? 何が気になった?」
やよい先生がそう問いただした。
「これって、さっき見せてもらった写真の犯人、つまりD組の和泉とは別人が撮った写真ですね」
「ふむ」
「ええ!?」
やよい先生と白鳥が、ぼくの意見に強く反応した。なのだが、
「やはり乙姫もそう言うのか……」
「なんでオッツーもそう言うのっ!?」
なんだか二人の反応は、ぼくが期待していたのと違うものだった。
「あれれ? なんなのこの話の流れは。どうゆうこと?」
「乙姫、詳しい説明は最後にするから。まず教えて欲しい。なぜそう思ったんだ?」
ニヤリと不気味な笑みを向けたやよい先生は、頭に「?」を浮かべたぼくに言った。
ぼくは一拍の間を置いて、写真をみて考えついた事を、ゆっくりと話した。
「簡単な事なんですが、撮影に使われた機材が違いすぎます。和泉の撮った写真はとても綺麗に撮れています。最低でもコンデジ、でも多分これは一眼レフを使った本格的な撮影っぽいですね。でもパンチラの方は画質が普通ですね。最近は安くて高性能な小型カメラも多いですからね。多分その類のカメラを使った撮影だと思います」
「なるほど、機材の違いか。確かに和泉もそう言ってたな。その写真だけは自分が撮った物じゃないと」
「オッツー凄いね……。なんでわかるの……」
「さすが乙姫くんね。犯罪者予備軍としての知識が役に立ったようね。もういいから早く自首してきなさい」
やよい先生は何かに納得して、白鳥はぼくに感心していた。しかしなぜ麦蒔だけ反応が厳しいんだろうか?
「それともう一つ思うんですが……。これは違うかもな?」
自信は無いが、なんとなく推測したことがあったので、そう呟いてしまった。
「なんだ。推測でもいい。お前の考えが聞きたいんだ」
やよい先生が期待のこもった視線を向けてきた。この委員会でぼくの意見が必要とされたのなんて、初めてなんじゃないか?
「そうですか。じゃあ言わせて貰いますが」
そう前置きをして、今度は勢いをつけて、まくし立てるように話した。
「まず和泉の写真は、女の子が可愛く見えるように工夫して撮られているんですよ。つまり、被写体への愛を感じるんです。でもパンチラの方からは、性欲以外のなにも感じません。和泉が盗撮に埃をもっている残念なくらいの女好きならば、こんなパンチラではなく、もっと最高に可愛いパンチラを撮ると思うんですよ! 被写体に愛を込めて写真を撮れる魂と実力を兼ね備えた男ならば、こんなに愛を感じられない写真は撮らないはずです!」
握りこぶしを高々と突き上げて、熱いソウル(魂)をシャウトして(叫んで)やった!
「…………」
「…………」
「…………」
熱く燃え上がるぼくは、三人分の冷たい視線に晒されていた。
「……ああ、……うん、……あれだ。……乙姫、ありがとう。熱く語ってくれたところ悪いんだが、二人がドン引きしてるからさ……」
やよい先生は、あからさまにぼくから目をそらして、そう言った。『二人が』と言ってはいるが、やよい先生自信もドン引きしているように見えるのだが……。
「オッツー……きもい……」
白鳥がズズズーっと音を立てて、椅子ごとぼくから遠ざかっていった。
「さすが乙姫くんね。犯罪者の心理は犯罪者に聞くのが一番早いわね。もう回りくどい言い方はしないわ。乙姫くん、そこの窓から飛び降りて死んでくれないかしら?」
唯一ぼくの事を直視しつづけていた麦蒔だったが、いつも通り、歯に衣着せずに、ぼくの死を願っていた。
小学生の運動会に混ざって、空気を読まずに本気を出しちゃった時の、お父さんの気分だぜ。ハハッ!
読んでいただきまして、ありがとうございました。