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第七話  ニヤニヤ、はぁはぁ

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第七話  ニヤニヤ、はぁはぁ



 彼女の名前は白鳥えみり。一年A組に所属している。

 肩にかかる長さのふわふわウェーブヘアで、黒くて大きな瞳が特徴的な可愛いらしい容姿の持ち主だ。わざと着崩したブレザーとワイシャツに、極端に短いスカートを穿き、手や首や髪の毛なんかに装飾品が付けられている。清楚で高嶺の花みたいな印象の麦蒔とは対照的で、世間一般の女子高生イメージそのままな女の子だ。

 そんな白鳥がなぜ学生会を訪れたかというと、

「盗撮被害にあった?」

 と言うことらしい。

 簡単に説明すると。最近一年生の女子を狙った盗撮事件が発生してて、その写真が裏で売買されてるんだとかで。いかにも思春期の男がやりそうな事件だよね……。

 それで何で事件が明るみに出ているのかと言うと、

「しかし、とりあえず犯人は捕まっている。一年D組の和泉って男だ」

 と言うこと。やよい先生は「入学当初から目をつけていた」とも補足した。

「その男の子ね、ちょっとチャラいって言うか女の人に対してだらしないって言うか……。そうゆう感じの人なの。女の子大好きってオーラが滲み出てるというか……」

 ちょっと困ったような顔をしながら、白鳥がそう言った。

 ああ、なるほど。いかにも、ってことね。

「その人、入学した次の日に麦蒔さんに告ってて、玉砕一人目なんだよ。しかも、その日のうちにあたしにも告ってきたし……」

 なんじゃそりゃ?

「同じ日に二人にも告白する意味がわからないんだが……」

「あたしだってわからないよ。しかも二人じゃなくて三人だってさ。聞いた話だと、可愛い順に告ったんだってさ。一週間で十人くらいに告ったらしいし……」

 凄いなそいつ。目的と行動は残念だけど、就職活動に敗れ続ける大学生みたいなバイタリティーの持ち主だね。一言で言えば出会い厨ですねわかります。

 ぼくと白鳥が困惑しながら話していると、麦蒔が思い出したように言った。

「ああ、あの男の子ね。覚えているわ。確か、少し前に乙姫くんが『女C』って呼んでいた子の彼氏よ」

 マジでか!?

「ざ………………ざまぁ!!!!!!!!!!」

 ぼくは立ち上がり両拳を高々と突き上げて歓喜した。そんなぼくを見て白鳥が驚いた。

「え? ちょっとどうしたの? 姫っちがぶっ壊れたよ?」

「ぶっ壊れたわけじゃねーし。リア充が盗撮でタイーホとか超メイウマじゃんかよ! ははは、たんのしー! ってか、姫っちとか変なあだ名つけんな」

「じゃあオッツー」

「……姫っちでいいです」

「てゆーか、オッツーって性格悪いよね」「姫っちの方が――」「盗撮するような奴とかどーでもいいけどさ、人の不幸が大好きっておかしいよ? 絶対に……」

 白鳥は頭のおかしな人を見る目でぼくを見てきた。嘘のつけない正直なタイプの人なのだろう。

「白鳥さん。その男を常識的に考えないほうがいいわよ。私はそれを、根本的に我々と同種な生命体だと認識していないし」

「いやいや、同種で認識してよ!」

「二人とも乙姫の事なんて放っておけ。アメーバが大きくなった位に思っておけば丁度いいんだよ」

「こんなデカイ単細胞いたら恐いだろ!」

 こっちの二人は嘘をつく気のないドSなタイプの人なのだろう。知ってたけど。

 ぼくのツッコミを無視して、やよい先生は説明を続けた。

「それでだな。写真に撮られた被害者は十二人だった。どうやら全員が和泉に告白されていたようだ。当然、麦蒔の写真もあった。彼女にならなかった腹いせなんだと言い訳していたよ」

「うっわ。人として最低だな……」

 素直な感想を呟いてしまった。お気に召さなかったのか、白鳥がツッコミをいれてきた。

「いや、オッツーが言っても説得力ないし……」

「酷い! まだ出会って数分なのに酷い!」

「だから同じクラスだっての!」

「だから知らないっての!」

 そんなぼくと白鳥の漫才を見ていた麦蒔とやよい先生は、ニヤニヤした顔でぼくの事を見てきた。まるでドSの様な顔だった。いつもの顔じゃん。

「白鳥さん。あなたがそう思うのも当然だと思うけれど、乙姫くんって意外に優しい人なのよ?」

「そうだな。乙姫は実は優しいんだったよな」

 とか言って、予想外にも褒めてきた。

 やめて! 逆に恐い! そんな顔で見つめるのやめて! お前の事は私達が知ってるよ的なしたり顔するのやめて!

 そんな事を叫びながらグニャングニャンしていたら、白鳥が笑い出した。

「っぷ、ふぁははは! オッツーって面白いんだね! リアクションが一々オーバーだよね。いつもそれくらい気さくならクラスにも馴染めるのにー」

 だから馴染む気ねーっての。余計なお世話だ。

「でも本当に驚いたな。オッツーと麦蒔さんって仲いいんだね。二十二人目って聞いてたのに」

 別に仲良くないぞ? ぼくは善良な一般人だけど、麦蒔は残念なくらい性格が悪いから他人と仲良くなんてなれないはずだし。

「うるさい。あなたのような社会不適合者に言われたくはないわよ」

 ほら見ろ。心の声にまでツッコミを入れるような性格の悪さだぞ?

 ぼくを一蹴した麦蒔は、そのまま白鳥にキツイ目を向けた。

「それから白鳥さん。乙姫くんの言うとおり、私達は仲良くなんてないわよ。誤解しないで。怒るわよ?」

「え? あの、その……。ごめんなさい……」

 麦蒔は白鳥に怒声を浴びせた。既に怒ってるじゃん。

「それと乙姫くん。あなたが何を言ったのか知らないけれど、私に告白した二十二人目ってことにされているようね」

「え? なんで?」

「知らないわよ。一グラムでも脳みそがあるのなら自分で考えなさい」

 当の本人が知らないのならば、ぼくだって知らないよ。って、ぼくも当事者なのか。

 思い当たる節がないなと考え込みそうになったのだが、白鳥があっさりと答えを教えてくれた。

「あたしが聞いた話だと、今までに麦蒔さんにフラれた男の人は延べ二十五人で、オッツーがフラれたのは先週の火曜日って聞いたよ。ほら、オッツーが三時間目になってから登校した日だよ」

「犯人は女C!」

 ってか、延べって……。しかも、二十五人って……。

「それにしても、麦蒔さんってイメージと違って面白い人なんだね。あたしも仲良くなりたいな! まゆまゆって呼んでいい?」

「嫌よ」

 白鳥の申し出に即答する麦蒔。性格が残念な麦蒔に代わり、ぼくがフォローを入れてあげることにした。

「そうだオ! まゆりたんのあだ名はまゆりたんだオ!」

「乙姫くん。ちょっと窓の外に出ててくれないかしら」

 四階にある部屋の窓を出たはずなのに、気がつくと一階にいるんだよねきっと。不思議だね。RPGだったらデバック不足どころの話じゃないよね!

 麦蒔にツッコミを入れようとしているぼくの事を無視して、白鳥は改めて言った。

「じゃあ、まゆりんって呼ぶね!」

「……まあ、それならば別に構わないわ」

「あたしの事は、えみりって名前で呼んでいいよ!」

「わかったわ。それで、白鳥さん。盗撮された写真というのを見せてもらえるかしら?」

 白鳥は「あれ? わかったって言ったのに……」とかブツブツ言っていた。ざまぁ。

 やよい先生が「これだよ」と言って机の上に写真の束を置いた。

 ぼくも数枚を手にとって見てみた。最初の三枚に写っていたのは麦蒔だった。三号館から出てくるところ、駐輪場から自転車を出しているところ、体育館に向かって歩いているところ(体操着)、の三枚だ。

 この写真だけ見ると、とんでもない美少女だ。写真に性格は写らないからな。などと考えて素直に感想を述べてみた。

「へぇー。良く撮れてるじゃん」

「当たり前でしょ。誰が被写体だと思っているの?」

 なんでこんな奴がモテるんだよ……。

 次の二枚に写っていたのは白鳥だった。教室の机に突っ伏して寝ているところ(よだれを垂らして)、廊下で女子数人で踊っている? ところ、の二枚だ。

 この写真だけ見ると、とんでもない美少女だ(ネタ的な意味で)。写真に性格がまる写りだからな(ネタ的な意味で)。などと考えて素直に感想を述べてみた。

「へぇー。良く撮れてるじゃん(ネタ的な意味で)」

「うるさいな! ほっといてよ! なんであたしの写真は変な時に撮られてるの!?」

 知るかよ。でも写真を撮ったやつの考えはなんとなくわからないでもない。

「白鳥の魅力はこれって事なんじゃね。無防備な猫みたいなところが可愛いんだろ」

「うぇへっ!? 何言ってるの!?」

 白鳥は瞬間的に顔を真っ赤にして頭から湯気を出しはじめた。美少女のくせに容姿を褒められ慣れていないのか、こいつは。麦蒔とは大違いだな。

 その後、残りの十人分の写真も見てみた。麦蒔と白鳥の写真を先に見てしまったので、他の子が普通に見えてしまったが。それでも可愛い子たちなんだってのはわかった。

 全ての写真が隠し撮りであることは、視線が向いている写真が無いことからハッキリとわかる。それはさて置いても、どれもこれも魅力的に写されているので『うちの学年の女子ってレベル高いんだなぁ』と、逆に感心してしまうほどだった。

「でもさ、このくらい良いんじゃないの? こいつ結構写真うまいよ。みんな可愛く撮れてるしさ。人気税かなんかと思ってれば」

「ええっ? やだよ!」

 ぼくもこの写真を欲しいくらいだな。とか思って率直な感想をのべたのだが、白鳥に反論された。

「だって知らない男の子があたしの写真を見て……その、ニヤニヤとかしてるなんて、気持ちが悪いじゃん……」

 贅沢な悩みですね。写真すら撮ってもらえないブタ女が聞いてたら嫌味に思うだろうね。でも男は全員が白鳥の味方になるんだろうが。

 それにしても『ニヤニヤ』の前に言いよどんだのだが、何を想像したんだろうね?

 ぼくも白鳥の方を向いてニヤニヤしてやろうかと考えていたら、麦蒔が、

「私は構わないわよ、写真くらい撮られても」

 と同調してきた。

「男の子なんてみんな私の写真を見てはぁはぁ言ってるんでしょ。写真がなくたって想像ではぁはぁ言ってるんでしょ。どっちでも大差ないわよ」

「お前は少しくらい悩めっての!」

「悩んだってしょうがないわよ、私が美少女なのは事実だし」

 あーそうですか。

「それよりも問題なのは、無断で売買されたことよ」

 はて? どういうことだろうか?

「いくら麦蒔でも多くの人の手に写真が渡ること自体は嫌だ……ってことかな?」

「嫌ではないわ。むしろ一人でも多くの人に売ってもらいたいわね」

 なんだそりゃ?

「問題なのは、私にキックバックが入ってこないってことよ!」

 …………はい? 何ですって?

「リベートの話よ。一枚いくらで売ってたのか知らないけれど、販売価格の九割は貰いたいところね」

 あーそうですか……。

 なんかもう……。

 ねぇ……。




読んでいただきまして、ありがとうございました。

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