第五話 幕開けのモーニングコール
登場人物
●乙姫羽白
本作の主人公。
性格が残念で変わり者な所がある。
本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。
●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)
学校一の超絶美少女にして学年一の才女。
しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。
家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。
●白鳥えみり(シラトリエミリ)
茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。
顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。
学内のリア充カーストで上位に位置する。
●朱鷺やよい(トキヤヨイ)
一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。
三十?歳で未だに独身。
羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。
第五話 幕開けのモーニングコール
窓から差し込む日光が眩しくて目を覚ました。モソモソとベットから降りて大きくのびをした。
いい朝だなーと清清しい気分に浸っていたのだが、そこでふと気づいた。机の上で充電器につながれた携帯電話が妙な光を発していた。
「あれ? 携帯電話が鳴ってる?」
ぼくは寝ぼけていたので、ディスプレイを確認せずに電話に出てしまった。
「はいもしもし、山本です」
『乙姫くん。あなた今何時だと思っているの!?』
「……えーと、誰ですか?」
『麦蒔まゆり』
「麦蒔まゆり……って誰ですか?」
『とんでもない美少女よ』
なるほど。見た目が良いのに性格が残念な人か。
「そっか。モーニングコールしてくれるって話になってたんだっけ。おはよう」
『おはようじゃないわよ。あなた、いつまで寝ているつもりなの? もう一時間目が終わってるわよ?』
「……え?」
ぼくは机の上に置いてある時計を見た。もう九時半を過ぎてる……。
「あーごめん。寝過ごした……」
『朝から登校するまで、ずっと電話をかけていたのに……。あなたのせいで、私がやよい先生に怒られたのよ!』
「あ……マジでごめん」
しまったな……。悪い事をしてしまった。
普段から携帯電話の利用価値なんて持ち歩けるネット検索端末って程度の認識だったので、
「ぼくはマナーモードを解除したことがないんだよ……」
『…………』
ってことなんだよね……。しかも、オリジナルモード設定で全てをサイレント設定にしてあるからバイブもしない。
『なんか、ごめんなさい。昨日、私が設定してあげるべきだったわね……』
「…………」
と言うことで、今日は入学してから二十一回目の遅刻を記録した。
今週中ずっと、昼休みにお茶を買ってくるという事でお詫びすることになった。
購買でお茶二つとパン二つとプリン一つを購入して、ぼくは一年H組に向かった。のだが、教室を見渡しても麦蒔の姿は無かった。
しょうがないので、教室の入り口辺りの席に座っていた女の子集団に声をかけてみた。
「あの……あの……」
「きゃはは! マジで? うけるー」「えー? 嘘でしょ?」「本当に本当だって! 彼氏が言ってたもん!」
「あの……あの……」
「あんたの彼氏、あんなにイケメンなのに?」「いや、むしろイケメンだからって事なんじゃないの?」「えー? そーなのかなー?」
「……。あ、あのっ!!」
「…………って、え? 私たちですか?」
「あ、うん。お食事中にごめんなさい」
うるさい女ども(三人だからABCとでも呼んでおく)は、ようやくぼくに気づいてくれたようだ。
「あ、あのさ。ここのクラスに麦蒔まゆりっていますよね? 今、どこにいるか知ってますか?」
「えー麦蒔さんですか? ……知ってる?」「さあ? 麦蒔さんってお昼休みいつもいないよね。食堂組みなんじゃないの?」「あーそうかも。食堂にいますよ!」
え? 予想なのに断言しやがった。こいつ馬鹿なんじゃね? 女C。
「……あ、そうですか。ありがとうございます」
仕方ないから他を探すかと思い教室を後にしようとしたのだが、
「あ、ねえ君。一応、忠告しとこうと思うんだけど……」
「へ? なんです?」
女Cが話しかけてきた。イケメンの彼氏がいるって言うだけあって、確かにちょっと可愛い子だった。小柄だけど胸が少し大きいし。
「えーっと。……その。辞めた方がいいと思うよ? 君程度じゃ無理だって」
「は?」
何の話? でも、可愛い顔で見つめられてちょっと嬉しいんだけど。
「だから、その……。麦蒔さんを探してるのって、告るためでしょ? 君程度の男じゃ絶対に無理だから辞めといた方がいいよって忠告してるの」
…………。は?
この雌豚は何をほざいているんだ? ぼくが麦蒔に告白するだって?
「ああ、いやいや。そーゆうんじゃないんだよ。ちょっと頼まれごとしてて」
「ははは! 隠さなくっても大丈夫だって!」「そうそう。もう二十一人も麦蒔さんに告って玉砕してるんだから」「君で二十二人目になるよって忠告なんだよ!」
雌豚どもは「きゃははー。でも当たって砕けた方がスッキルするのかもー」とか騒ぎ出した。ってか二十一人って一人増えてんじゃん……。
「うん。駄目だと思うけど頑張れ! 私も入学してすぐに別のクラスの子に告られたけど、やっぱり告られると嬉しいし! 君の告白も無駄じゃないって!」
とか女Cが言いってきた。え? なんでこいつ上から目線なの?
「あー! あっしも、お前くらい可愛ければなー。彼氏すぐできんのにー」「あとその胸だよなー」「えー胸は関係ないよー」
結局こんな感じで騒ぎ始めたので、ぼくは「あーそうですか」と言って立ち去った。
てゆーか、その男はお前の胸しか目当てじゃねーよ。確実に。
一年H組の教室を後にしてすぐに麦蒔に電話をかけようとしたら、メールが届いている事に気がづいた。『件名:遅い 本文:学生会室に来なさい』って感じで。
ぼくは別館四階の学生会室へ急行したのだが、麦蒔の最初の一言はこうだった。
「遅いわよ」
あーそうですか。
ちょっとムカついたので、麦蒔の目の前で、学食で買ったプリンを見せつける様に食べてやった。羨ましそうに眺めていたので問うてみたら「食べてみたい」と素直に言った。なので、ズルズル音を立てて食べきってやった。ざまぁ。
ぼくが学生会に入ってからちょうど一週間が経過した月曜日。五月もすでに三週目。
あれからぼくは遅刻をしなかった。麦蒔曰く「モーニングコールまでして遅刻なんてしたら許さないわよ」とのこと。なんかすみません。
この一週間でぼくに与えられた学生会の仕事は、主にやよい先生の荷物運びだ。男手としてこき使われていた。
放課後の空いてる時間は、やよい先生から毎日出される宿題をやる時間に当てられた。国語教師から数学や英語などの宿題が出されるのはなぜだろうか? しかも、ぼくだけに提出が義務づけられているとか……。
今日の放課後は学生会の仕事が無いので、ぼくはやよい先生から出された日本史の宿題をやっていた。麦蒔はいつものように、文庫本を読んでいた。
まだ一週間しか経過していないが、これがぼくらの日常となっていた。
しかし、そんな日常は長く続かなかった。
この直後に舞い込んだ事件のせいで……。
読んでいただきまして、ありがとうございました。