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第二十話  パンチラ顛末

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第二十話  パンチラ顛末



 職員室の奥の方がザワザワと騒がしい。どうやら教頭先生が校長に事実を伝え終わったようだ。

 時折、こちらをチラチラと見ている教師達がいる所を見ると、もう職員室中に噂が広まりだしているのであろう。

 そんな奇異な視線が可愛く感じるほど鋭い、そんな目つきで麦蒔は林道の事をじっと見ていた。表情の変化を値踏みしているのだ。

 やよい先生はソファーの背にヒジを乗せて深い溜息を吐いた。

 そんな風に周りの様子に気をかけれるほど落ち着いている自分が少し恐かった。

 一昨日の放課後、ぼくは自分が気づいた事を全て麦蒔たちに話した。

 昨日は作戦の段取確認など下準備をした。

 そして今日。

 朝から麦蒔と白鳥に演技をさせて、四時間目が終わる前に教室を抜け出して準備をして、麦蒔とやよい先生とタイミングを合わせて作戦を実行して、今に至る。

 たった四時間ほどの出来事が、一週間にも一ヶ月にも感じるほどに濃密であった……。

 ぼくが全てを話し終わると、林道はうつむく様にして溜息をついた。

「ふぅ…………。まさかお前なんかのせいでバレるとはなぁ……。いつも教室に行くと一人ポツンと自習していて、ああ友達いない奴なんだ、くらいにしか思っていなかったのだが……」

 林道は「油断だったなぁ」とボソボソつぶやいた。

「おかしいとは思ったんだよ。先週、白鳥と二人で購買で買物してたし……。月曜は二人で学食ランチとか……。お前と白鳥の接点がわからなかったんだ……」

 薄々は感ずいていたのだが、やはり林道は学生会の存在を知らないのであろう。

 学生会は一年生の生活指導担当であるやよい先生が作った特設委員会だ。三年生の生活指導担当である森野先生も自分の特設委員会を作っている。どちらも会員が二人しかいないし、どちらも担当教師の任意指名で結成されている。同学年のクラス担任でも知っているかどうかとうレベルだ。担任を持っている訳でもないただの数学教師が知らなくてもなんの不思議ではない。

 林道は、今ぼくと麦蒔が一緒にいる事も訳がわからないのであろう。

 だがしかし、そんな事はどうでもいい。

 今回の事件を推理している上で一つ、どうしてもわからなかった事があった。

 ぼくはそれを林道に聞くことにした。

「一つ。聞きたいことがあるのですが?」

 林道はゆっくりと顔をあげて、死んだ魚のような目でぼくを見てきた。

「……まだ、なにかあるのか?」

「はい。今回の事件の犯人が林道先生だという事はわかりました……。でも、なんでなんですか? なんで麦蒔の写真を欲し、白鳥の写真を毎日撮ったのですか? この二人だけを執拗に狙った理由がわからないです……」

「理由がわからない、だと?」

 ぼくの質問をうけた林道は、語気を強めて聞き返してきた。

「は……はい。その理由だけがわからないのですが?」

「ふざけるな! 見りゃわかるだろ? 二人とも可愛いだろが!」

「うぇ?」

 あまりにも唐突な怒声だったので、ぼくは変な声を出してしまった。

「麦蒔の顔を見てみろ? こんな美少女に出会ったこと無いぞ? これで好きになるなってほうが無理だろうが!?」

 ん? 好きになる? こいつは「好きになる」って言ったのか?

 そんな疑問を思い浮かべる間も無く、林道は畳み掛けるように話した。

「白鳥もかなりのものだ。AAAランク(トリプルエー)だろ? 一年女子であのレベルは他にいない! 三年にも白鳥レベルの美少女が二人いるが、もう三年間撮り続けて写真は大量にある。それにやっぱり年齢は低いほうが良いに決まっているしな! 二年は残念ながらそのレベルはいないんだ。だから白鳥を狙った。何しろアイツは可愛いだけじゃなくてスカートも短いしな! あれって男を誘ってるんだろ? だから誘われてやったんだ。むしろありがたく思え! 手を出したわけじゃないんだ。写真くらい減るもんじゃないし別にいいだろが!」

 あーそうですか。……って、いやいやいやいや。

 危うく納得しかけてしまったが、何を言ってるんだこいつは?

 ぼくはポカーンとしてしまった。

 やよい先生は額に手を当てて「なんなんだよこれは……」と、あきれた様子でつぶやいていた。

 麦蒔は林道をじっと見据えて、軽く拳を握っている。これは怒ってるのだろう。

「えっ、と……。つまり話をまとめると……。あなたは麦蒔が好き。でも麦蒔の写真を撮る機会が無い。だからその次に好みの女を狙う事にした。候補のうち三年生二人の写真は持っているので、消去法で白鳥を選んだ……。って事ですか?」

「そうだ」

 アホだこいつ。なんで開き直っているんだよ?

 そんなやりとりをしていると、ずっと睨みを効かせていた麦蒔が、何か思う事があるようで、話に割り込んで質問をしはじめた。

「あの、林道先生。私からも一つお伺いしたいのですが……。毎週月曜日に私の下駄箱に手紙を入れていたのは、あなたですか?」

「おお、読んでいてくれたのか! あの手紙は俺だよ俺!」

 オレオレ詐欺かよと言いたくなるほど元気な自己アピールにうんざりしながらも、あきれたような眼差しを向けているやよい先生がこう言った。

「手紙? 麦蒔、なんだそれは?」

「私の下駄箱に手紙が入っていたのです。どの手紙もちゃんと差出人の名前が書いてあるのに、その手紙だけは差出人が書いていなかったんです。でも毎週月曜日に同様の手紙が入っていたので、同じ差出人と思っていたのです……」

 ああ、なるほど。先週、麦蒔が犯人に心当たりがあるような事を言っていたが、これのことか。

 毎週月曜日というのが、和泉の時と同じ手口なんだな。

 そんなことよりも気になるのは、教師が生徒の下駄箱に手紙を入れているって事だ。

「なあ麦蒔。その手紙ってなんだったの? まさかラブな感じ?」

「ええ。ラブな感じよ。君のような美少女ははじめてだの、大好きだ愛してるだの、いつも君を見ているだの、運命だの……」

 それで差出人の名前が無いとか気持悪いな。

 とは言え、さすがに笑ってすむような事でもない。

「林道先生あなたね、教職者が生徒にラブレターって……。盗撮よりよっぽど性質が悪いですよ……」

 もう死ねよとでも言いたげなやよい先生がウンザリした表情になった。

 そんな見下げ果てた視線をうけた林道は、まるで言い訳でもするようにグチグチと話しだした。

「わ、悪いのかよ……。三十五年も生きてきて、ずっと彼女なんていなかったんだ。そんな俺の目の前に、とんでもない美少女が現われたんだぞ? もうこれは運命としか思えないだろうが! 神様が俺にくれた最後のチャンスなんだよ! 和泉に撮らせた麦蒔の写真を部屋に飾ってさ、毎日毎日それを眺めてるんだ……。それだけでも幸せな気分になれたんだ。……でも、麦蒔とは接点が無い。手紙に名前を入れるのも早計だ。だったらどうする? どうすればいい? そんな事を考えているとイライラしてしまうだろ? そんな時は白鳥の事でも眺めて楽しむしかないだろ? 常識的に考えてさ」

 どんな常識だよ……。

「お、俺が麦蒔の事を、す、好きなのは、愛しているのは本当だ。本当なんだ。今まで生きてきて、こんなに人を好きになったのははじめてなんだよ。なあ、麦蒔。こうゆう形になってしまったが、俺たち付き合おう。絶対幸せにするから!」

 なに世迷言を言い出したんだこいつは? わけがわからないよ……。

 そんなポカーンとしたぼくらを他所に、林道はテーブルを乗り越えて目の前にいる麦蒔の手を取ろうとしだした。

 ぼくは慌ててその手を払いのけた。

「ちょっ、あんたなにしてんだよ? 麦蒔の手を取れる流れじゃねえだろよ!」

「うるさい。俺と麦蒔の……二人の愛の邪魔をするな」

「いやいや、愛もなにも。どう見ても麦蒔は嫌がってるだろが?」

 と言うよりも、軽く怯えている様にすら見える。さすがの麦蒔も畏怖の念を抱かざるを得ないと言うことか……。

 しかし林道は麦蒔の様子になどお構いなしだ。

「嫌がる? 馬鹿を言うな。俺たちは愛し合う運命なんだぞ? さっき麦蒔……まゆりも言っていたじゃないか? 俺から毎週手紙が来て嬉しかったと」

 言ってねえよ!

「さあ、まゆり。俺の手を取るんだ」

 林道はさっと立ち上がり麦蒔に近づこうとした。

 ぼくは壁になる様に麦蒔の前に立ちそれを阻害する。

「どけっ、邪魔だ!」

「ぉぐふっ、ちょっ……」

 なんの躊躇も無く腹パンチ。いきなり暴力とは油断した。

 さすがにそれをみてやよい先生も怒り出した。

「あんた何をしてる? そんな事で生徒に手をあげるなんて馬鹿なのか? 乙姫相手じゃなければ大問題だぞ?」

 ぼくでも問題だよね?

「うるさい黙れ! この独身年増女が!」

「んぅなっ……」

 腕を掴み静止を試みたやよい先生に対して、またしても躊躇の無い腹パンチ。しかもぼくの時より間があった分、体重が載っている。

 悶絶したやよい先生がその場にうずくまる。

 林道はまた麦蒔の方に向き直り、手を伸ばした。

 麦蒔は立ち上がるタイミングを逃して未だに動いていない。

 ちょっと待て。何だこの展開は?

 ぼくは林道の動きを止めるために、肩から当たるような態勢で体当たりを仕掛けた。

 しかし華奢なぼくの体重では、たいした負荷を与える事ができなかった。なので体を割り込ませて、麦蒔に覆いかぶさるような姿勢をとった。

 林道がぼくを突き飛ばすように体重をかけたので、そのまま麦蒔を抱きしめるような状態になった。

「あんたいい加減にしろよ!? 自分が何してるかわかってるのかよ?」

「いい加減にするのはお前だ! なんで俺のまゆりを抱きしめてるんだっ!」

「ふざけるなっ! 麦蒔に手は出させねえっつの!」

 と言って振り向いたとき、林道が両手を持ち上げるような態勢で、パソコンを振りかぶっているのを目にした。

 昔やっていた踊る大捜査線というドラマで、取り調べで使用したパソコンも凶器になるって話があったな。などと悠長に思い出している間もなく、パソコンはぼくの後頭部めがけて打ち下ろされた。

「っあ! つぐっっ!? っだぁっつっっっ!!」

 三度の衝撃を耐えることもできず、ぼくは意識が飛びそうになっていた。

 四度目の衝撃が来るとか来ないとか考える事もできない。そんな朦朧とした状態で麦蒔を守る事だけに集中していると、背後で、

「なにやってるんだ!」「パソコンを下ろせ!」「森野先生、早く加勢してください」

 と男性教師達の声が聞こえてきた。

 暴れだした林道を見て駆けつけてきたようだ。きっと大勢で林道を取り押さえているのだろう。

 そう思ったとき、ぼくは安堵感から力が抜けて、そのまま麦蒔に体重を預けた。

「お、乙姫くん……。だ、大丈夫、なの?」

 麦蒔が震えるような声でそう聞いた。こいつもこうゆう声をだすんだな……。

「麦蒔でも……恐がる事ってあるんだな……」

「あたりまえでしょ。…………ばか」

 そう言うと麦蒔は、震える手で、しっかりと、ぼくを支えてくれた。

 麦蒔の肩に頭を載せるような姿勢になってみて、今朝、教室で麦蒔を迎えたクラスの男共の声を思い出していた。

 こんな時になんだが、

「麦蒔っていい匂いだな」

「ばか。そんな格好で言うと、ただの変態よ?」

 そう言うと麦蒔は、クスクスと笑った。

 少し元気が戻って良かったな、とか思いながらも。

 そんな格好ってなんだっけな?

 と考えてみて、ようやく思い出した――――


 女装したままだという事を……。



読んでいただきまして、ありがとうございました。


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