第二話 別館四階『学生会室』
登場人物
●乙姫羽白
本作の主人公。
性格が残念で変わり者な所がある。
本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。
●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)
学校一の超絶美少女にして学年一の才女。
しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。
家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。
●白鳥えみり(シラトリエミリ)
茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。
顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。
学内のリア充カーストで上位に位置する。
●朱鷺やよい(トキヤヨイ)
一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。
三十?歳で未だに独身。
羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。
第二話 別館四階『学生会室』
ぼくたちの通う学校には、普段あまり利用する機会のない別館がある。
楽器も防音設備もない第三音楽準備室。
古い寄贈本が詰め込まれた旧書庫室。
畳敷きの茶道部部室。
ただ広いだけの多目的教室。
などなど、利用頻度の低い教室が集まった四階建て校舎だ。
やよい先生に「別館四階の一番奥に学生会室があるから行け」と言われたので、嫌々ながらも足を運ぶことにした。
職員室のある一号館から二号館へ移り、その昇降口を出て三号館とは逆の方向に行くと別館がある。
ぼくは別館入ってすぐにある階段を「やっぱり都会の高校ってエレベータとかエスカレータとかあるのかな?」とか考えながら四階を目指して登った。
せっかく高校生なんだから階段じゃないとつまらないよね。ミニスカの女の子が……ゲフンゲフン。
三階の少し上にある踊り場を回り、残り半分の階段を登ると廊下が見えてきた。廊下が見えてきたのだが……。
最後の段差に足を乗せた時、ぼくは違和感を覚えて立ち止まった。
廊下の一番むこうに女の子が倒れている……。
あれはなんだ?
日光浴でもしているのか?
まあ、ここで考えていても仕方が無いので、とりあえずぼくは女の子の方に向かって歩みを進めた。
女の子はこちらに足を向ける形でうつ伏せに倒れていた。紺色のスカートから白くて綺麗な足が伸びている。頭部から背中までを覆い隠す長くて艶やかな黒い髪は、無造作に広がり潰れた海草のように不気味だった。
良く見ると息をしているようだった。
声をかけるかどうか考えたのだが、ただ寝てるだけであろうと結論付けて、無視することにした。
厄介な事に巻き込まれるのはごめんだしね。これがゲームや小説の世界なら無駄にフラグを建築する所なのだろうが、現実世界にはそんな主人公みたいな思考の奴はいないのさ。
ぼくは女の子の横を通り過ぎて、その目の前にあるドアの前に立った。
ドアの上には手書きで「学生会」と書かれたプレートがあるので、ここで間違いないだろう。
コンコン、ガチャリ。
「失礼しまーす。やよい先生に任命されてやってきた者ですが――」
って挨拶しながら部屋に入ったのだが、誰もいなかった。
部屋は十畳くらいの広さであろうか。壁際に何も入っていない大きな本棚が一つ設置されている。部屋の中央には長テーブル二つが横面あわせな状態で置かれている。開いたドアのすぐ右側に大きなソファーがあり、その目の前にホワイトボードが置かれていた。
何の変哲もない部屋であった。生徒会室のショボイ版って所であろうか? 生徒会室を見たことないのに言うのもなんだが。
などと部屋を物色しながらも、どうしたものかと考える。
先生に行けと言われて来たものの、誰もいない部屋に勝手に入るわけにも行かないはずだ。テーブルの上に鞄が一つ置いてあるので、少し待っていれば帰ってくるのかもしれないが――
「やよい先生から話には聞いていたけれど、本当に他人に興味が無いなのね?」
急に足元から声が聞こえて驚いたのだが……。
心当たりが有りまくるぼくは廊下の方を向いた。
足元でリングの貞子みたいなのがモソモソと動いていた。髪の毛が垂れ下がっていて気持ちが悪い事になっていた。
「ふぅ……。『たとえ人が倒れていても無視するような奴だ』と言われて、そんな人いるはず無いと反論したのだけれど……。常識を疑うわね」
女の子は皮肉を呟きながら、ゆっくりと立ち上がって服装を正した。
雪のように白く綺麗な肌に桃のような淡紅色の唇を持ち、流れるような黒い髪が良く似合う、とんでもない美少女だった。
まあ彼女の容姿はどうでもいいのだが、
「なんで廊下で寝てたの?」
「寝て……って。廊下で寝るとかありえないでしょ常識的に考えて。病気や怪我で倒れていたと考えつかないの?」
「え! 病気や怪我で倒れていたのかい? 体は大丈夫なの?」
病気や怪我という発想は無かったな。触らぬ神に祟りなしと思って無視しただけだったのだが……。
ぼくは慌てて彼女の体を確認しようとした。
「今更なにを言ってるの……。あと大丈夫だから、頭とかほっぺとか腕とか触らないでくれる?」
「ああごめんごめん。埃がついていたから払ってたんだよ」
と言って、彼女の髪についていた埃を払った。
「あらありがとう。……って、心配だから確認したとかじゃなかったの?」
「うん。最初はそっちの理由にしようと思ったのだけれど、綺麗な髪の毛が汚れていたから変えた。まあ、触りたかっただけだよ」
我ながら、言い訳が適当すぎるとは思う。
「……変態?」
「そうだね。似たようなものかな?」
「そこは否定した方が良いと思うわよ……」
彼女は少しきついジト目でぼくを見てきた。
綺麗な瞳と長いまつげが印象的だった。
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