第十九話 乙姫羽白の推理
登場人物
●乙姫羽白
本作の主人公。
性格が残念で変わり者な所がある。
本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。
●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)
学校一の超絶美少女にして学年一の才女。
しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。
家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。
●白鳥えみり(シラトリエミリ)
茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。
顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。
学内のリア充カーストで上位に位置する。
●朱鷺やよい(トキヤヨイ)
一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。
三十?歳で未だに独身。
羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。
第十九話 乙姫羽白の推理
「
事の始めは、一昨日、月曜日の朝の話になります。
先週の金曜日の放課後、ぼくらは和泉の下駄箱にダミーの手紙を入れたんです。さらに、その下駄箱を見張るための監視カメラを設置しました。
月曜日の朝、ぼくはロングホームルームの授業には出ずに、和泉の下駄箱の中身と、監視カメラの映像をチェックしたんです。
しかし、和泉の下駄箱の中には、金曜日にぼくが入れたダミーの手紙が残っていて、犯人からの手紙が入っていなかったんです。
監視カメラの映像にも、和泉の下駄箱に近づく人は、映っていませんでした。
そこでぼくは『犯人は和泉が捕まった事実を知っている』という事に気づいたのです。
しかし、今回の事件で和泉が捕まった事実を知っている人は、とても小数なんです。
では、犯人はどうやってその事実を知ったのでしょうか?
どこかから情報が漏れたのか?
犯人は和泉の行動を常に監視できる位置にいるのか?
それともあるいは――――
犯人は教師の中にいるのではないか?
全ての教師に事実だけは伝えられていました。当然、誰が捕まったなんて詳細までは伝わらない。
だが、しかし……。
もしも、犯人が教師の中にいるのであれば、その事実だけで十分ではないですか。
犯人はすでに、和泉が盗撮行為を行っていた事を知っている。
ならば『盗撮事件で生徒が一人捕まり注意を受けた』という情報だけで、和泉の事だと気づけるんです。
なんだったら、ダメ押しで和泉の出席状況だって確認できるはずです。
例え表向きは風邪で欠席となっていても、犯人には自宅謹慎だとバレバレです。
とは言え、ぼくは最初から教師を疑っていたわけではないんです。
ある三つの事柄に気づいた時、教師が犯人なのではないかと仮定したのです。
まず一つ目は。
白鳥を狙って撮影された、盗撮写真についてです。
月曜日の放課後、ぼくはその写真を二つのカテゴリーに分けたのです。
ほぼ毎日撮影されたと思われる大量の写真ですが、ある事柄に注目すると、大きく二つの種類に分類できるんです。
それは……。
白鳥が手に物を持っているかどうか。
ぼくは、この事柄に注目して、仕分けをしてみました。
すると、手に物を持っている写真は小数で、何も持っていない写真は多数だ、という事実に気づくことができました。
そしてさらに。
手に物を持っている写真は、二号館の階段で撮影されている。
何も持っていない写真は、一号館で撮影されている。
という事実にも気づく事ができました。
前者の場合は、移動教室からの帰りに撮影をされたものだと言う事がわかります。
後者の場合は、食堂と購買からの帰りに撮影をされたものだと言う事がわかります。
この事実から一つ……いえ、二つの疑問に辿り着きます。
犯人はなぜ、移動教室の行きでの撮影はしないのか?
犯人はなぜ、食堂からの帰りに、二号館までついて行って撮影をしないのか?
結局の所、理由はわかりませんでした。
しかし、仮説をたてることはできました。
犯人が教師なのであれば、移動教室の行きでの撮影は難しいのではないか? そう考えると、前者の場合に辻褄があう気がしました。
と言うのも。
盗撮をしていた和泉は、移動教室の行き道、麦蒔が体育の授業に向かう所の写真を撮っていた。犯人が生徒であれば、そのような写真も撮る事は可能なんだという証明にはなります。
しかし、犯人が教師であれば、話は変わります。
大概の生徒は、移動教室であれば、授業が終わってすぐに自分の教室に帰ります。次の授業の開始直前まで、ダラダラと移動先で過すと言う事は、殆どありえないでしょう。
しかし、移動教室の行き道となると話は別です。次の授業の開始直前まで、教室でダラダラと過して、慌てて移動先に向かう事の方が多いくらいです。
そうなると、犯人が教師の場合は、盗撮なんてしていたら、次の授業開始に間に合いません。
生徒が犯人であれば、ちょっと遅れたくらいなら怒られるだけで済みますが、教師が毎度毎度授業の開始に遅れるなんて、ありえません。そんな事をしたら、当然のように苦情の対象になりますしね。
もちろん、これはただの仮説ですけどね。
そして、食堂からの帰りに、二号館までついて行って撮影をしていない方ですが。
単純に地理の問題な気がしたんです。
食堂と購買は、一号館の一階にあります。この学校は山状になった場所に建設されているため、一号館の二階が、二号館や三号館の一階部分と同じ高さになります。
そんな一号館の二階には、今ぼく達がいる職員室があります。
食堂から二号館の四階にあるA組までついて行ってしまうと、職員室まで帰ってくるのが遠いですよね?
それでなくても、食後なので、次の授業の準備なんてしていないはずです。
そんな状態で、昼休みが終わる直前に、職員室以外の場所へ行っている暇は無いんじゃないのかなと思いました。
職員室では、教師同士で、横の連絡とかもあるでしょうし。
そうなると、一号館で食堂からのぼる階段、職員室がある階までで、我慢していたんじゃないのかと。
もちろん、これもただの仮説ですよ。
でも……。
仮説とは言え、まったく無い話、と言うことも無いだろうな。と思ったわけです。
これが、一つ目に気づいた事柄です。
次に二つ目は。
犯人が麦蒔の写真を撮らなかった事についてです。
犯人は白鳥の写真は大量に撮っているのに、麦蒔の写真は撮らなかったんです。
しかし、和泉には麦蒔の写真を要求している。
つまり、犯人は麦蒔の写真は欲しいのだが、何かしらの理由で、麦蒔の撮影を行わない。または、麦蒔の写真を撮る事ができない。
そこで、ぼくはある仮説に辿り着きます。
犯人は白鳥の写真を撮っていた。それも昼休みはほぼ毎日撮影されていた。では何故、麦蒔の撮影を行わなかったのか?
犯人は麦蒔が昼休にどこにいるのかを知らなかったのでは無いか?
これはぼくも昨日知った事なのですが、麦蒔は入学してから今日までずっと、昼休みを、教室でも食堂でも無い場所ですごしていたんだそうです。
以前、ぼくが昼休みにH組に行き麦蒔を探した時に聞いたのですが、クラスメイトですら何処にいるのか知らなかったようです。
そのせいで、昼休みは、もう一人の標的である白鳥に絞ったものと考えられます。
しかし。
白鳥の盗撮写真は、ほぼ毎日撮られたと思われる昼休みの写真と、少数ではあるが移動教室の帰りに撮られた写真、の二通りです。
そうすると、麦蒔も移動教室の帰りなどで撮影できたのではないか?
そう考えたのですが、ここでちょっと気になる事がありました。
なぜ、移動教室の帰りの写真は小数なのか?
その疑問から、一つの仮説に辿り着きました。
ただ、タイミングが合わなかったのでは無いか?
この移動教室の帰りに撮られたと思われる写真を良く見ると、手に持っている教科書が同じ物のように見えます。
そして、この数の少なさ。
入学してから今日まで、週に一回ずつ、同じ時間に撮影したら、このくらいの数なんじゃないですかね?
これは、週に一回ずつ撮影チャンスがあったから……と言うよりも、週に一回ずつしか、撮影チャンスが無かったのではないか?
例えばですが。
ある週の何時間目かで。自分の担当する教科の授業が二号館で行われる。そして、その授業の前は空き時間。チャイムが鳴ってすぐに職員室をでると、移動教室の帰りの生徒達に囲まれる。そんなタイミングがたまたま存在していた。
とかですかね。
そして、この仮説が正しいのであれば、麦蒔の撮影がされてなかった理由として、タイミングが合わなかっただけ、と、言えなくもない気がしました。
これが、二つ目に気づいた事柄です。
最後に三つ目は。
犯人が撮影した、進路希望別の説明会の写真についてです。
かなり単純なんですが。
犯人はその時、白鳥より前の方面から写真が撮れる位置にいた。って事なんです。
それで、その位置にいたと思われるD組の生徒、駿河秋沙って奴について調べようとしたんですが……。ぼくらは、あいつは違うんじゃないかって事にしました。それはただの直感でしかないので、信憑性なんて無いのですが……。
でもですね。
良く考えれば、その位置から写真が撮れる人、いるんですよね。
説明会の間、教室の中を自由に動き回れる人が……。
そして、白鳥より前の方面から、堂々と白鳥に狙いを定める事が出来る人が……。
その日、その教室で説明を担当した、教師です。
進路希望別の説明会では、教師が入れ替わるようにして説明をしていましたよね。各科目の説明を担当する教師が、各教室で合計五人です。
であるならば、この五人の中に犯人がいるのではないか……?
これが、三つ目に気づいた事柄です。
これら三つの事柄に気づく事で、犯人が教師ではないかと、仮定しました。
そう仮定すると、もう話は早いです。
進路希望別の説明会で、白鳥の教室で説明を担当した教師五人が誰なのか。
それだけで、もう候補を五人に絞れますね。
そして……。
ぼくは、その候補の中の一人に、心当たりがありました。
先週の水曜日の昼、購買から帰る時。
ぼくは階段をのぼる時に、白鳥の手を取り立ち止まってみたんです。
その時。
林道先生、ぼくたちを追い越してのぼって行きましたよね?
今週の月曜日、食堂で昼食を食べている時。
ぼくは視線を感じたんです。
その時。
林道先生、ぼくたちの隣の席に座っていましたよね?
その帰り道、食堂を出て階段をのぼる時。
ぼくは階段をのぼる時に、振り返ってみたんです。
その時。
林道先生、また、ぼくたちを追い越してのぼって行きましたよね?
最初はただの考えすぎだと思っていました。
しかし、偶然は三回以上は続かないと思ったんです。
確かに、これだけでは絶対とは言い切れません。
まだ八割って所だと思います。
これだけでは林道先生が犯人だと断定しきれないです。
でも……。
多分、林道先生は気づいていなかったと思いますが。
ぼくは、この一週間。
白鳥の事を、良く見ていたんです。
それはもう、授業中だろうがなんだろうが、ずっとです。
当然、数学の授業中もです。
だからこそ、気づいた……気づけたのだと思います。
林道先生。
先生は、A組での授業中、白鳥の席の周りをウロチョロしすぎなんですよ。
そして、その時に。
あのボールペン型カメラの挟まった教科書を持っていたんじゃないですか?
でも、今朝、一時間目。
いや、それどころか、月曜午後以降の授業では、白鳥の周りに行く回数が少なかった。
と言うよりも……。
一度も無かった。
急にどうしちゃったんですか?
まあ、理由は一つですよね。
月曜日の食堂で、ぼくが何かに気づいた可能性を考えて、警戒したのではないですか?
林道先生は、はじめからぼくを警戒したのではなく、月曜日の昼から警戒し始めた。
その変化。
それは、八割程度だった疑いが、十割になるのには十分な理由でした。
だからぼくは。
林道先生が犯人だと、断定して、今朝の麦蒔による罠を仕掛けたのです。
いつも昼休みにどこにいるかわからない麦蒔が。
今日に限って、昼休み開始してすぐに、A組に来ると知った。
それならば……。
是が非でも、麦蒔の撮影をしますよね。
あなたが、麦蒔の写真を欲している、犯人ならば……。
」
読んでいただきまして、ありがとうございました。




