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第十八話  事件解決

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第十八話  事件解決



 水曜日の朝。一年A組の教室は騒然としていた。

「あー、あれだ。お前ら。とりあえず落ち着け」

 朝のホームルームが始ってすぐ、やよい先生がクラスの皆にそう言った。

 しかし、教室の中は静まる気配を見せなかった。と言うのも……。

「ふふふ。皆さん、そんなに注目されてしまうと、とても恥ずかしいですよ」

 なんだか上品な喋り方をする美少女が、教室の後ろにいるからだったりする。

 正直、ぼくからすると「誰だよあいつ?」って笑い転げたい所なのだが……。

 クラスの連中の反応はと言うと「やっべ、マジで綺麗じゃね?」「もうアイドルとかどうでも良くなるよな」「足首超細いなぁ」「え? あれってスッピンなの?」「うっわーまつ毛長い……同じ女として自信無くすよ……」「膝が超綺麗だなぁ」「なんで麦蒔さんがうちのクラスにいるんだよ?」「なんか、やよい先生の用事があったらしいよ」「俺さっき挨拶しちゃったよ」「マジで? 俺も話しかければよかった」「お尻が超いい形だなぁ」「麦蒔さんって綺麗で頭良いのに、性格も良いんだね」「私もさっき話しちゃった。すっごい良い人なんだけど」「腰が超細いなぁ」「すれ違った時に凄い良い匂いしたぞ」「うちのクラスの女が全員麦蒔さんだったら良いよな」「うっわ……。お前今、クラスの女子全員を敵に回したな」「貧乳超最高だなぁ」「せめて友達になれないかな」「男子うるさい。私たちが友達になるっての」って感じだった。

 レッサーパンダが立ち上がった時みたいな人気だな……。

 そんな訳で今、教室の後ろには麦蒔が立っている。それだけで教室中から歓声があがるのだから、あいつがとんでもない美少女なんだと再認識させられる。

 因みに。超絶美少女だが性格が残念な麦蒔が、なぜあんなにモテるのか? ぼくが以前から疑問に思っていた事なのだが、その人気の秘密がこれなのだ。

「皆さん、今はホームルームのお時間ですよ? 私はまだここにいますから、お喋りはまた後でいたしましょう」

 だから、誰だよこいつ? ぼくは笑いそうになるのを必死にこらえている。

 どうやら麦蒔は、普段はこんな感じでお上品な喋り方をするらしい。成績優秀、眉目秀麗、雲中白鶴。まさに高嶺の花。どんだけ完璧超人なんだよあいつ……。

 でも「貧乳」って言われた時に、こめかみがピクピクしたのは見逃さなかった。気にしていたんだね。ざまぁ。

「お前らいい加減にしろよ。って言っても無理か……。じゃあ、出席省略するぞー。いないやつ手を挙げろー全員いるなー。はい、解散」

 おいおい、そんなホームルームで大丈夫なのかよ……。

 あきれたような視線を送っていると、やよい先生はチラっとぼくの方を見て教室を出て行った。まあ確かに、ぼくのせいなんですけどね。

 やよい先生が教室から出て行ってすぐに、麦蒔は白鳥の席に向かって歩き出した。麦蒔が歩いただけで、教室のざわざわは最高潮に達する。

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は麦蒔まゆり、とでも言いたくなるほど清楚で凛とした雰囲気をかもし出していた。

「えみりさん。今日はお昼をご一緒しましょうね」

「う、うん。ま、まゆ……麦蒔さん? お昼は一緒に食べようましょうね」

 おい、こら、白鳥。キョドりすぎだっての。猫をかぶりまくってはいるが、それが麦蒔の表の顔なんだ。なれろよ。

「ふふふ。えみりさん、どうされたんですか? 今日は元気がありませんよ?」

「そ、そんな事ないよ? あたしは今日も元気だよー。まゆりんも元気だよー」

 白鳥はなんだか吹っ切れたのかヤケクソなのか、変なテンションで場を切り抜けようとしはじめた。生きろ。

 そんな感じで麦蒔が白鳥と会話をしている所に、白鳥と仲が良いのであろう女子数人が集まってきた。さらに、そいつらと仲が良いのであろう男子数人も集まってきていた。その周りを、話に加わりたいが加われない野次馬どもが、円状に囲っている。まるで大道芸人と客の様だ。

「麦蒔さんって、えみりと友達だったんだねー」「つーか麦蒔さん、綺麗すぎてマジ羨ましいわー。あーしとか比べもんになんねーし」「えみりいいなー。私達も麦蒔さんと仲良くしたいよー」

「ふふふ。皆さん、ありがとうございます。えみりさんには以前から仲良くして頂いてます。私のとても大切なお友達なんですよ」

「う、うん。そうなんだー。まゆりんとはもう何ていうか……大親友? みたいな感じなんだよねー」

 と言って白鳥は麦蒔の腕に抱きついたりしているのであろう。ここからでは人垣で見えないのでわからないが。まあ麦蒔と白鳥を囲むリア充の輪なんて、ぼくには関係がないのでどうでもいい。

 ぼくはいつものように、一時間目の数学の教科書を見て予習復習をして授業が開始するのを待ち続けていた。

 そして一時間目が始る二分前ごろ。数学教師が教室の中へ入ってきた。

「おい何を騒いでいるんだ? もうすぐ授業始まるぞ。チャイム鳴ったらすぐに宿題を集めるからなー」

 教室の中央に出来た人垣を見て顔をしかめた数学教師が、そう言って散会を促がした。

 白鳥と麦蒔の周りに集まっていた野次馬どもは、渋々といった態度で散りはじめた。

 そうやって人垣が崩れたころに、数学教師はようやく麦蒔の存在に気づいたようだ。

「林道先生。申し訳ございません。少し、騒いでしまいました」

「ん? なんだ、麦蒔。お前の教室は向こうの校舎だろ? なぜここにいる?」

「すみませんでした。すぐに失礼させていただきます」

 そう言うと麦蒔は、教室の隅で予習に明け暮れているぼくの耳にもはっきりと聞こえるような、そんな凛とした声で白鳥に言った。

「でわ、えみりさん。お昼休みになりましたら、すぐにこの教室へ来ますので。ちゃんと待っていてくださいよ?」

「うん。待ってるよ!」

 麦蒔は白鳥に軽く手を振ると、教室の前側の扉へと向かって歩いた。そして、扉の前でくるりと教卓の方へ向きを変えて、

「林道先生。失礼いたします」

 と言って教室から出て行った。

 まあ、なんと言うのか、絵に描いたような優等生っぷりである。

 さすが麦蒔だ。



 四時間目。昼休みが始る十五分前ごろ。

 ぼくらのクラスでは、やよい先生の国語の授業中である。

「ああ、しまったな。この教室のチョークは、もう残りは短いのばかりだな……。おい乙姫。ちょっと職員室まで行って備品からチョーク貰って来い。私の名前で持ち出し帳に記入すれば良いから……って、いつもやらせてるんだから問題ないよな」

 そう言っていつもの様に、やよい先生はぼくに仕事を与えた。

 常日頃からぼくにばかり仕事を押し付けるやよい先生。そんな光景はすでに日常となっているため、誰も気にはしない。

 ぼくは渋々といった態度で席を立ちながら、やよい先生の目をチラっと見た。

 やよい先生はそれにあわせるように、ぼくの目を見返してきた。

 頼みましたよ、やよい先生。



 四時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り、昼休みが始った。

 急いで食堂に向かう男子生徒などを避けつつ、ぼくは三号館の階段の一番下で、麦蒔が降りてくるのを待っていた。

 麦蒔の姿を見つけて、ぼくは「よっ」とか言って手を挙げた。

「もう良いのね?」

「ああ、もう問題ないはずだ」

 質問にぼくがそう答えると、麦蒔は携帯電話を取り出してメールを送っていた。

 さて、こんな時に言うのもなんなのだが、ぼくは身長が低い。

 ぼくの身長は百六十センチ台の後半といった所で、男子の中では低い方なのだ。百七十センチの壁を越えることを日々夢見てました。

 そんなぼくの隣にいる麦蒔はと言うと、百六十センチちょうどくらいで、女子にしては高い方である。

 さらに言うと、ぼくは体を鍛えていて全体的に線が細い。麦蒔の隣にいても、見劣りしないくらいに華奢だったりする。何の自慢にもならないのだが……。

 そんなぼくと麦蒔は並んで歩き始めた。

 一年A組の教室は二号館の四階にある。

 ぼくらは二号館に入ってすぐにある階段をのぼり始めた。

 麦蒔はぼくの右側、ぼくは麦蒔の左側、つまり、ぼくが手すり側である。

 ぼくらは速すぎず遅すぎずと言った速度で階段をのぼっていた。

 そんなぼくらの横を、食堂に向かう生徒や授業終わりの教師が、避けるように階段を降りていく。

 そうして、三階を回ったあたりで、授業が終わって階段を下りてきたやよい先生と鉢合わせた。

 ぼくは、やよい先生の目をチラっと見た。

 やよい先生は、ぼくの目を見ずに、麦蒔の右側に避けるようにして階段を降りた。

 そして、

「林道先生。こんな所で何をなさってるのですか?」

 ぼくらの真後ろにいた林道の肩に手を置いて、話しかけていた。

 その瞬間。

 ぼくは麦蒔の真後ろに回りこむような態勢で振り向き、その勢いを殺さないまま、林道の手の中にある教科書を奪い去った。

 急に話しかけてきたやよい先生の方を向いた林道は、ぼくが振り向いた事に気づけなかった。そして、目を離したがために、手の中にある教科書を奪われたのだ。

 刹那、林道は驚愕した。

 そして教科書を奪ったぼくに詰め寄ろうとしてきた。

「な、なにをするんだ君は! それを返したま……。んっ!? やよい先生、何をするのですか? 離して下さい! あの女子生徒が私の教科書を奪っ……。んんんっ!? なぜだ? なぜお前がそんな格好をしているんだ?」

 やよい先生によって羽交い絞めにされた林道は、ぼくの顔を見てさらに驚愕したようだ。

 そう。

 今、ぼくは、女子の制服を着て、長い髪のカツラをつけている。

 つまり、女装だ。

 麦蒔の隣を歩いていた女子生徒が、ぼくだった。だから林道は驚愕したのだ。

「やよい先生、ふざけるのは止めてください。私はアイツを――」

「おい、乙姫。それで問題なんだろうな?」

「ええ。ばっちりです。やよい先生は、絶対にそいつを離さないで下さいね」

「ええい! 離せっ! 教師に向かってそいつとは何だ! お前は――」

「乙姫くん。それが例の物なの? ただの教科書に見えるのだけれど」

「ああ、それは違うよ。問題なのは……こっち」

 と言って、ぼくは教科書に挟まっていたボールペンを抜き取った。

「こらっ! きさまっ! そのボールペンを返さないかっ! それは――」

「それは? 何ですか? これはただのボールペン、ではないですよね?」

「そ、それは……」

 ぼくは林道の目を見てニヤリと笑った。

 林道は「それは……その……」という感じで、徐々に覇気が失せていく。



 あの後、あらかじめ助っ人をお願いしていた体育教師の森野先生が駆けつけてきて、林道の腕を取って職員室へ引きずっていった。

 ぼくはやよい先生の机から持って来たパソコンと、先ほど回収したボールペンを、テーブルの上に置いた。

 やよい先生、教頭先生、そして麦蒔が、囲むようにして覗き込んできた。

 テーブルの向こう側では、ソファーに座った林道と、その腕をがっちりと抱いた森野先生がいる。

「まず、このボールペンなんですが、ここをこうやって外しますと……ほら」

 と言って、ぼくはボールペンからメモリーカードを取り出した。

「最近の技術は凄いのね……。本当にこのボールペンが……」

 テーブルに置かれたボールペンを手に取り、麦蒔がつぶやいた。

「ああ、そうなんだよ。一見ボールペンに見えるこれが、高画質映像を記録できる小型カメラなんだ」

 最近の小型カメラは小さくて高画質で安い。

 と言うのも。最近では、縦十五ミリ横十一ミリ高さ一ミリと言う小型化が進んだ記録メディアが、数ギガバイト単位の記録容量を持っている。そのために、カメラ本体だけのコストで製造が可能なのだ。

 しかも、携帯電話にカメラが搭載される事が常識となった昨今、小型カメラが低価格で生産できるような進化を遂げた事も、その要因である。

 このボールペン型カメラが、通販で数万円くらいで販売しているのが現状である。

「じゃあ再生してみますね?」

 ぼくはパソコンにメモリーカードをセットして、その中に記録されていた動画を再生した。

 先ほど、二号館の階段で撮られたとしか思えない、麦蒔の後姿が映っていたのである。その隣には、チラチラと女装したぼくが映っている。これで間違いない。

「林道先生。やはり、あなたが犯人だったんですね」

 ぼくは林道に向き直り、そう言った。

「ち、違う。違うぞ。それは……そう、そうだ。それは、授業を記録するために用意していた物なのだが……。ははは、すまない。どうやら誤作動で起動してしまったようだ。そのデータはすぐに処分させてもらうよ」

 林道は明らかに挙動不審な態度をとりつつも、そんな言い訳をし始めた。

 しかし、それを見たやよい先生が、

「林道先生。そんなすぐにバレる嘘をついてどうするんですか? 先生の家のパソコンを調べれば、証拠が出ますよね?」

 と言って窘めた。

 林道は顔面を蒼白にしながら、両手で頭を抱え込むようにしてうつむいた。

 森野先生は、そんな林道の肩をバシバシと叩いて立ち上がり、ぼくの後ろでアワアワしている教頭先生に声をかけていた。

 教頭先生は「林道先生、君ね、何て事をしてくれたんだ……。これは大問題なんだぞ……。ああ、私の責任問題だ……」とブツブツ言いながら右往左往している。

 森野先生が「教頭、まずは校長へ報告に行きましょう」と言って教頭先生を連れて行った。

 ぼくの後ろに立っていたやよい先生は、今まで森野先生が座っていた席に座った。そして、同じように立っていた麦蒔は、ぼくの隣の席に座った。

 ぼくらは、うつむいて黙り込んでいる林道を見て、言葉を発する事が出来なかった。

 しかし、そんな一時の静寂を破るように、林道はゆっくりとぼくの方を睨み、話しはじめた。

「…………今朝、麦蒔がA組にいたのは、私を誘き出すための作戦だったのか?」

「ええ。ああすれば、あなたは確実に動くと思っていました」

「その女装も、事前に準備していたのか……」

「はい。昨日、急いで準備しましたよ。だって、林道先生は、既にぼくの事を警戒してますよね? なので変装の必要があったんですよ」

 と言って、ぼくはニヤリと笑っていた。女装さえしていなければ、悪役っぽくて絵になったであろう。

「…………なぜだ? なぜ、わた……俺が、犯人だとわかったんだ?」

「一言で言えば、林道先生がはじめからぼくの事を警戒していなかったから、ですね」

 ぼくの答えに、林道はあまり納得とは言えない表情を浮かべた。

 そんなぼくらを見て、やよい先生が、

「乙姫。最初から順を追って話してやれ」

 と言ったので、ぼくは事の顛末を最初から順に話す事になった。



読んでいただきまして、ありがとうございました。


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