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第十二話  ω←ギリシャ字オメガの小文字

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第十二話  ω←ギリシャ字オメガの小文字



 あれから一晩、悶々と考えてしまった。

 犯人を見つける以前に、白鳥のことが気になってしまうのだ。

 自分の言葉で女の子を泣かせてしまった。他人なんてどうでもいい、と考えているぼくでも、さすがに罪悪感を感じない訳がなかった……。

 麦蒔はぼくの事を『優しい』と言っていた。

 この感覚が優しさなのかどうか、ぼくにはわからない。

 何とかの半分は優しさでできていると言うが、実際問題、優しさって何なんだよ?

 そんなことを考えながら、ぼくは電車を降りて駅のホームに立つ。

 電車から何百という数の人がホームに溢れ出てくる。全てが改札口を目指して歩き出す。なので、その場に立ち止まるぼくは、邪魔に思われているのであろう。

 まあ、ここでボーっとして、遅刻をしてもしょうがない。

 朝から小うるさい女に電話で起こして貰っておいて、遅刻なんてしようものならば、それはそれは厄介な事になるであろうし……。

 などと考えてなが、のらりくらりと歩き出した途端。背中に激痛が走り、そのまま立ち止まってしまった。

 もしかして叩かれたのか?

「オッツーおはよう! 今日から忙しくなるよ!」

 振り返るとそこには、右手を挙げて笑顔ではしゃぐ白鳥がいた。

「え? お、おう……。おはよう」

「もう、元気ないぞ? 朝なんだから元気だそうよ!」

 そう言って白鳥は、ぼくの右腕に自分の腕を絡めてずんずんと歩き出した。

「ちょっ……白鳥?」

 急に出現しただけでも驚いたのだが、体を寄せて腕を絡めてきたのでさらに驚いた。

「いいからいいから、学校行こうよ!」

「いや、あの、だから」

「あれあれ? オッツー顔が赤いよ? もしかして、照れてるの?」

「もしかしなくても照れてるよ!」

 なんなんだ白鳥は? 急にどうしたというのか?

 いつもならば「なんで急に腕組んでくるの? ぼくのこと好きなの?」とか言い返すところなのだが、そんな思考に至らないほどに、ぼくはテンパっていた。

 そんなぼくをよそに、白鳥はぼくの目を見て話しはじめた。

「昨日はさ、ごめんね。なんか、泣いちゃったりしてさ……」

「いや、それは……。白鳥はなにも悪くないよ。ってか、ぼくの方こそ悪かったなって思ってるし……」

「うん、オッツーが全部悪いよ。責任とって貰うからね?」

「うぉええ? マジっすか……。いやあのえーっと、お金とかないんで、勘弁してもらえないでしょうか……」

 そう言うと白鳥は「あははー冗談だよー」と笑っていた。

「あたしね、あれから色々と考えたんだ。それでね、考えれば考えるほど、ムカついてきちゃってさ……」

 ムカつく……か。その着地点は妥当なのかもしれないな。

「それでね。まゆりんに電話したんだ。なんだかムカついてきたー、ってさ」

 麦蒔に? それは無茶というか無謀というか……。

「それ、麦蒔なんて答えたんだよ?」

「『うるさい。今何時だと思ってるの。くだらない事で電話してこないで』だってさ」

「はは、あいつらしいな」

「でしょ?」

 そしてぼくらは一緒になって笑った。

 周囲の人々からウザったそうな視線を感じつつも、気にせず笑っていた。

「それでもね、色々と励まして貰ったんだよ。泣いたら負けだとか、オッツーをコキ使ってさっさと犯人見つけるだとか、慰謝料いくらふんだくるかとか」

 なんだかんだ言って、麦蒔も白鳥のこと心配してたんだなと思った。でも最後の一つだけは本心だろうな……。

「だからね。オッツー、今日から頑張ろう!」

 そう言って白鳥は満面の笑顔を向けてきた。

 あまりにも眩しい笑顔を向けられて、ぼくの頬にほんのりと熱が灯った。そして反射的に視線を反らしてしまった。

 ぼくの反応に目敏く気づいた白鳥は、悪戯を思いついた小悪魔の様な微笑みを浮かべる。

「ってゆーかさ。オッツーは嬉しくないの?」

「え?」

 そしてぐっと力を入れて、ぼくの事をさらに引き寄せた。

「嬉しいって……なにがですか?」

「腕にあたしが抱きついてて」

 ぐっふぁ……。な、なにを言い出すんだこの子は。べ、別に嬉しくともなんともないんだからね! ぼくの腕を包み込むような柔らかさを持った双丘の感触なんかに、感動していた訳じゃないんだからね!

「なんか……、いやらしい顔になってるよ?」

 ジト目を向けられた。

「べ、別に白鳥のことなんて何とも思わねーし!」

 なんて素直じゃない返しをしたら、口元をωにした白鳥が「ふっふっふー」とか笑いはじめた。因みに『ω』はギリシャ字オメガの小文字な。

「あれあれぇ? オッツー、顔が赤いよぉ? もしやもしや、あたしの事を好きになっちゃったのかなぁ?」

「ち、ちげーし! 誰がお前みたいな、顔も可愛くて、胸も大きくて、声も可愛くて、胸も大きくて、話しやすい奴の事なんか好きなるかよ、付き合ってください!」

「ええっ? 最後に思いっきり告白してたよ! ってか胸の事ばっかりだし!」

「ああ、しまった! つい本心がポロりと」

「しかも本心なんだ? オッツーってエッチだよね? もうエッチーて呼ぶよ?」

「いや、まじで勘弁してください。土下座でもなんでもしますから……」

「じゃあ今ここで土下座してもらおうかな?」

「あんたは鬼ですか?」



 その日の昼休み。

 ぼくはパンをかじりながら昨日の写真を見ていた。

 進路希望別の説明会で撮られたと思われる写真を手に、深い溜息をついた。やっぱり、この写真が一番の手がかりだよな……。

「乙姫くん、どうかしたの? さっきからずっと、白鳥さんの写ってる写真を眺めているじゃない。深い溜息までして、恋わずらいかしら?」

 ぼくの溜息に気づいた麦蒔が、からかう様な笑みを浮かべて言う。まるで回し車で走るハムスターを見ているような笑みを……。ごめん、上手い比喩が思いつかなかった。

 そんな感じで上の空だったぼくは「ああ……。今朝、白鳥に告白したよ……」とか適当に相槌をうっておいた。

 ぼくと麦蒔は、学生会室で昼食をとっていた。白鳥もやよい先生も来ていないので久しぶりに二人きりだ。

 麦蒔はいつも通りに、ぼくがお茶を買ってくるのを待っていた。

 てゆーか、お茶を買ってくるのって、先週だけって約束だった気がするのだが……。

「あら? そうだったかしら? そんな細かいこと気にしなくても良いわよ」

 むしろお前が気にしろよ!

「まあ、どうせ購買行くからお茶くらいは良いんだけどね……」

「あらそうなの。それならこれからも気にしないわ」

 これまでも気にしてなかったって事ですね……。

 などと相も変わらずなやり取りをしていたら、

「それで、何かわかったのかしら?」

 特に期待もしていなさそうな声で麦蒔がそう聞いてきた。

「うーん……。なんとなく気になる事は、あるような……ないような……、ってゆう感じなんだけどね」

「はっきりしないわね。私は大まかに犯人の検討がつき始めているというのに」

 …………は?

「え? 何それ? 初耳なんだけど……」

「ええ。初めて言ったもの。もし知っていたら気持ちが悪いわよ。いえ、あなたは既にキモ……。ごめんなさい、気にしないで、なんでもないわ」

 途中で言い止めてもなんか伝わったよ!

「いやいや、そんな冗談とかは別いいんだよ。なにか知ってるなら教えてよ」

「まだだめよ。推論の域を出ていないわ。確証も何もないもの。もう少し考えがまとまってから話すつもりだから待っていなさい」

 あーそうですか。

 偉そうに言ってたくせに、お前もはっきりしてないんじゃねーかよ。



 そんなこんなで昼休みも終わりに近づき、麦蒔もプリンを食べ終えていた。

 そろそろ戻りますかと、ぼくらが立ちあがった時に、廊下の方からダダダダダダと大きな足音が響いてきた。

 バン!

 と大きな音をたててドアを開け、白鳥が部屋に入ってきた。

「まゆりんオッツー! わかったよ、わかったよ、わかっちゃったんだよ!」




読んでいただきまして、ありがとうございました。


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