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第十話  とある事実

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第十話  とある事実



 放課後、ぼくらは学生会室に集まり、昨日の家宅捜査の話をすることにした。

 廊下でくつろいでいたやよい先生が部屋の中に入ってきて、ドアを閉めた。

 そしてホワイトボードを動かし机の前に設置して、静に話し始めた。

「今朝、昨日の乙姫の調査結果をまとめて関係職員で会議を行ったのだが、やはり階段での盗撮写真は別の犯人がいるものとして扱う事が決定した」

 やよい先生は話しながらホワイトボードに『別の犯人がいる』と明記した。

「D組の彼の処遇はどうなるのですか?」

 あれだけ惨たらしく搾取した相手の処遇とは思えないほど素直に、麦蒔はそう聞いた。

「厳重注意と特別指導と言うことで決定した。つまり説教と罰掃除と反省文だな」

「なるほど安心しました。退学なんて事になったらかわいそうだなと思っていたので」

 安心しました。かわいそう。……とか、麦蒔が言っても説得力ないよなぁ……。

 そんな事を考えていると、昨日の家宅捜査に参加していなかった白鳥が、率直な疑問を投げかけてきた。

「あの、あたしは昨日いなかったから知らないんですが、何がわかったのですか?」

「その辺りは調査結果をまとめた乙姫から説明してくれ」

 はいはい。了解ですよっと。

「まず、D組の和泉から聞いた話によると。彼は入学してすぐに女の子の写真撮影を始めたらしい。四月の中ごろに商売を始めて、一週間もすると口コミで評判が広まり多くの客ができたんだそうだ。そんなある日、彼の下駄箱に一通の手紙と一枚の写真が入っていた。その手紙には『私はこういった写真を撮っている者だ。君とは利害が一致するはずだ。協力関係になろう』と書かれていた。それ以来、和泉は手紙男から写真を貰い、手紙男の要求する写真を撮影して渡していた。つまり、盗撮写真のトレード仲間になった、ってことみたいだね」

「乙姫くん。質問いいかしら?」

 話の区切りで一拍の呼吸をした時に、凛とした麦蒔の声が割り込んできた。

「まずD組の彼と手紙男の連絡手段は何なのかしら? それと、手紙男の要求というのは具体的に何なのかしら?」

「連絡手段はかなりローテクな物だった。最初の手紙で『私からの連絡は毎週月曜日の早朝、君の下駄箱に入れておく。君からの連絡は、毎週金曜の放課後、君の下駄箱に入れておいてくれ』と書いていたそうだ。そして要求なんだが、和泉が撮った女の子の写真は全員分一通り一枚ずつ欲しいってことと、主に『麦蒔まゆり』『白鳥えみり』の写真を撮って欲しいとのことだ。つまり――」

「つまり、私と白鳥さんの熱烈なファンかなにか、って所かしら?」

 麦蒔きは「ふふふっ」と笑みを浮かべたかと思ったら「なるほどね」とか呟いていた。何がなるほどなのだろうか?

 白鳥はと言うと、少し顔を青くして「ええっ? ちょっと恐いんだけど……」とか呟いて脅えていた。無理も無いか。

「ただ、その要求はたった一週間で変更になったんだ。『麦蒔まゆりの写真をよろしく頼む。白鳥えみりの写真はもう結構だ』という手紙と、白鳥の写真が三枚入っていたそうだ。その写真がここにある」

 そう言ってぼくは、やよい先生にアイコンタクトをした。

 やよい先生は手に持っていた封筒の中から写真を机の上に置いた。

「まずは一昨日ここで見せてもらったパンチラ写真、そして食堂でラーメンを食べている所の写真、最後は教室で勉強か何かをしているところの写真、この三枚だ」

「教室の中の写真があったの?」

 三枚目の説明に麦蒔が反応した。

「それは手紙男もうかつね。あなたたちA組の中の誰か、ってことじゃないの」

 そんな麦蒔の呟きを気にもせず、白鳥は三枚目の写真を手に取っていた。

「あれ……。でも、この写真。私の席じゃない……」

 写真の中の白鳥は、一番窓際列の真ん中辺りの席に座っている。でも、うちのクラスでは最初の一ヶ月間の座席は名前の順だったので、白鳥は廊下側から三列目の真ん中くらいだったはずなのだ。

「しかし、白鳥がこの席に座った日が一度だけあったはずなんだ。入学二日目の――」

「あ! 思い出した! 進路希望別の説明会の時だ!!」

 飛び跳ねるんじゃないかと思うほど勢いをつけて、白鳥がぼくのセリフに割り込んだ。

「そう。その時は進路希望別に集められた複数のクラスの生徒の混成状態だった。席順も自由だ。なので白鳥はその時に、その写真の席に座っていたはずなんだ」

「うん、そう。そうだよ。あたしこの席に座ってた。じゃあ、あたしより前の席に座っていた人の中に犯人がいるってこと?」

「その説が今のところ一番有力なんだよ。なんせ和泉は理系希望で、文系希望の白鳥とは別の教室で説明を受けていたからね。つまり彼にはアリバイが成立してるんだよ」

 ぼくの説明を聞いて「なるほど……」と麦蒔が呟いた。

「証拠品と供述だけでそこまでたどり着けるとは……。乙姫くん。あなたやっぱり、犯罪のスペシャリストを目指しなさい」

 目指さねーよ!

「あら、残念ね。昨日だってあなたの的確な指示があったからこそ、金銭のある位置をピンポイントに特定することができたのに……」

 人を泥棒みたいに言わないでくれ……。ただ、ぼくならそこに仕舞うかなーって思った場所を探したら、都合良く、ここほれワンワン状態だったというだけの話で……。

「まあ乙姫くんの将来なんてどーでもいいのだけれど。結局、昨日の調査でわかったこととは『D組の彼の無実は証明できた』『犯人は別にいる』の二つなのかしら?」

 どーでもいいとはなんだよ、と反論したいところだが。とりあえずツッコミは入れずに話を進めることにした。

「いや、もう一つあるんだが……。それは最後に言うよ。ぼくのほうからもいくつか質問があるんだけどさ……。やよい先生、いいですか?」

「ああ、構わないよ。私の方でもわかる事は多くないが」

 今までの話の要点をホワイトボードに書き終えたやよい先生は、ペンを置き、こちらに向き直りながらそう答えた。

「聞いておきたいことは二つです。まず、今朝この事件の会議に参加した関係職員って誰ですか? それと、今回の事件を知っている生徒は、ぼくら以外にいますか?」

 やよい先生は「ふむ」と言いながらあごに手を当てて、すこし考え込んでから問いに答えた。

「まず関係職員の方だが、私、D組の担任、学年主任、教頭、の四人だ。それ以外の職員にも事件の報告はされているが、確定した事実のみが連絡程度に伝えられているだけだ。それと生徒の方だが、それはお前ら三人と当事者である和泉のみだ。和泉もクラス内では、風邪で休んでいると言うことにしているので、本人が言いふらさない限りは誰も知ることは無いであろう。当然、本人には緘口令をしいてある」

 なるほど。つまり事件の詳細を知っているのはごく小数と……。

「それで、乙姫くん。話を戻すけれど、他にわかったことは何なのかしら?」

 ぼくもやよい先生の真似をして考えるポーズをしようとした所で、麦蒔がさっきと同じ質問をしてきた。

「ああ、うん。じゃあそれを話すよ。やよい先生、あっちの写真をお願いします」

 ぼくがそう言うと、やよい先生は机の下に置いていた紙袋の中から写真の束を取り出して、机の上に置いた。

 その写真を見た麦蒔は、顔をしかめた。

「全て階段で撮られたパンチラ写真じゃないの……。しかも、これって……。もしかして、全部が同じ人……白鳥さんなのかしら?」

「ええっ!? これ全部あたしなのっ!?」

「ああ、そっちは全部白鳥の写真だ。で、もう一つが……」

 と言って、やよい先生がもう一つの写真の束を机に置くのを待った。

「もう一つのこっちが、白鳥以外の子が撮られた写真だ。さすがに数があるから、被写体が誰なのかの特定はぼぼ無理だと思う」

 麦蒔は「こんなに沢山……信じられないわ」と言ってさらに顔をしかめた。そして、少し考え込んでいるようだった。

 白鳥は「これもあたし、これも、これも……」と言って、また顔を青らめていた。

「なるほど……。乙姫くんがこの写真で気づいたこと、私もわかった気がするわね」

 少し考えこんだ麦蒔が、こちらに向き直り喋り始めた。

「この写真からわかる事は二つね。まず一つめは、私の写真が一切無いということね。どれもスカート丈が違うから確実ね。手紙男はD組の彼に『麦蒔まゆりの写真をよろしく頼む』と伝えているわね。つまり、本当は私の写真が欲しいのだけれど、なんらかの理由で私の写真を撮らない、って事ね」

「もしくは、麦蒔の写真を撮る事ができない理由があるのかもしれない」

「ええ、その可能性もあるわね。そしてもう一つは……。これは言わないほうが良いのかもしれないわね……」

 麦蒔はぼくがこの件を最後に回した理由に気づいたようだ。ぼくもこの事実を本人に伝えるべきなのかどうか、非常に迷っている。

「あ、この辺の写真はA組の子のだ。何枚もある……。って、ちょっと待って。……あれ? 私の友達が……A組の子の写真が一番多い気がするんだけど?」

 白鳥は机の上の写真を見ながらそう言った。白鳥がそう言うのであれば、A組の子の写真が一番多いのかもしれない。ただ、問題はそこではないのだ。

 麦蒔はぼくの方に目線を送っている。やっぱり、伝えるべきってことだよな……。

「なあ白鳥。写真に写ってる子にA組の子が多いってのは、新たな発見だよ。ありがとう。白鳥のおてがらだよ」

「え、そうなの? うーん喜んでいいのかどうか微妙なところだよねー」

 白鳥は「たははー」と苦笑しながらも少し笑みが戻っていた。

「うん、そうなんだけどさ……。最初に白鳥が写っている写真の束を出したよね。そして次に他の子が……A組の子が多く写っている、白鳥以外、の写真の束を出したよね?」

「え? うん。やよい先生がその順で出したよね。それがどうしたの?」

「いや、つまり……」

 白鳥の『本当に何のことかわからない』という顔を見ていると、決心が鈍る。でも、ちゃんと伝えないと駄目だと思い、ハッキリと言うことにした。

「つまり、一番多く写っているのは、白鳥なんだ。と言うよりも、何十枚も写っている被写体は、白鳥だけ、なんだよ……」

「…………え?」

 白鳥は数秒の間、静止していた。

 無理もない、さすがにこれは理解が追いつかないと思う。

 この件を簡単に言うと、白鳥だけを狙って撮影している可能性が高い、という事なのだ。しかも、入学して一ヶ月でこの量だ。ほぼ毎日盗撮をされていたと考えるのが妥当だ。

 そしてこれは推測だが。白鳥以外の子は、白鳥を撮影する、ついで、に撮影されたと考えられる。さらに先ほど白鳥が発見した新事実のA組の子が多いという事だが、多分それは白鳥と一緒にいたから盗撮された量が多いのだと考えられる。

 つまり、この手紙男は、白鳥だけを標的にしているという事が明らかなのだ。

「…………」

 ぼくの瞳を直視している白鳥だったが、スーっという音が聞こえそうな如く、急速に顔色が悪くなっていった。

「ごめんな。こんなこと伝えるべきかどうか悩んだんだけど……」

「…………」

 ぼくがそう声をかけると、白鳥は俯いてしまった。

 そして――

「……っう……っう……」

 と小さな泣き声が聞こえてきた。

 白鳥の足元には、数滴のしずくが落ちていた。




読んでいただきまして、ありがとうございました。

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