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第一話  ぼっちじゃない、興味がないだけだ!

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   第一話  ぼっちじゃない、興味がないだけだ!



 ウンコがしたい。

 ぼく(乙姫羽白)は朝の通学電車の中で、人生最大のピンチに陥っていた。

 やや前傾な姿勢をとりつつ右手でお腹の下をギュッと握り、額から冷や汗を垂らしながらも歯を食いしばり、残り一分少々の電車の旅……という名の聖戦に全身全霊をそそいでいた。

 ぼくは駅に到着してからの行動計画について再確認をする。

 現在地から一番近い出口である七両目三番目のドアを降りれば、五メートル先に上りエスカレータがある。そのエスカレータを上りきったら左折して、十五メートル進めばトイレと言う名の聖地に到着だ。

 大丈夫だ、問題ない。

 ぼくならば、このミッションを成功させる事ができるはずだ。

 そんな事を考えているうちに、電車は駅構内に侵入して減速をはじめていた。

 もう少。もう少しだ。あと少しで……、停車したっ!

 電車が完全に停車してから一秒経過した瞬間、扉が開く音……という名の開戦の狼煙があがった。

 いざ尋常に、勝負だっ!


「……………………。まっ、参りました――――」


 ぼくは崩れ落ちる様な形でホームのベンチにしがみついていた。

 電車を降りた瞬間の安堵感からなのか、大腸の馬鹿野郎がゴロゴロゴロと雷鳴の如き音を立てて暴れ始めたのだ。

 背後を通り過ぎる人々が奇異の視線を向けているのは気づいていたのだが、それがどうでもよいほどにお腹が痛かった……。

 あぁ、まずい……。もう漏れ――

「あの。大丈夫?」

 ウンコが漏れる事を覚悟した瞬間、誰かがぼくに呼びかけていた。

 チラっと右を向くと、真横にしゃがみこんでぼくの顔色を伺うようにしている女の子がいた。

 ぼくと同じ制服を着ているので、同じ学校の人であろう。

 とか冷静になっている自分の状況を確認してみると、不思議と腹痛の波が引いていたのである。

 気がそれたからなのか? なんにせよ、

「チャンスだっ!」

「え? いきなり立ち上がって大丈夫な――」

 ぼくは勢い良く立ち上がると、脱兎の如き跳躍で駆けだした。

 女の子は何か言い途中のようだったが、こちらも緊急なので無視させてもらった。

 エスカレータを上り左折して十五メートル先のトイレに駆け込み、個室に入ると同時にズボンとパンツを下ろした。ぼくのお尻の穴からは、ミッション成功のファンファーレが奏でられた。

「あっ……ぶなかったぁ……」

 一難去ってホッとしたぼくは、とりあえず個室の扉を閉めて落ち着くことにした。(開けたままだったよ、テヘ♪)

 たまたま女の子が呼びかけてくれたおかげで、気がそれたのは不幸中の幸いだった。

 今日はどうやらとても運が良いようだ。

「ウンコ、だけにね!」

 …………。

 なぜ、トイレの個室でテンションを上げているのでしょうか?

 ぼくは少し冷静になろうと頭を冷やすことにした。紙が無いペーパーホルダーを五分以上もカラカラと回し続けながら……。



 朝のホームルームに間に合う最後のバスを乗り過ごしてしまい、遅刻が確定となってしまった。今日の一時間目は全校朝礼だったような気がするので、いっそのこと二時間目から登校した方が自然であろう。ということで、コーヒーショップで時間を潰して二時間目に間に合うバスに乗り、重役出勤をすることにした。

 快晴の青空のもと遅刻なんてなかったかのように校門をくぐり、朝礼から帰る生徒達の流れにまざり昇降口に入ろうとしたのだが、

「よう、乙姫。朝礼が終わってからの登校とは、良いご身分じゃないか」

 背後から右肩を掴まれ声をかけられた。

 まずい……。

 一番見つかってはいけない人に見つかってしまった。

「あ、いや、あのですね。これには深い事情がありまして……」

「ほう。朝礼をサボるほどの事情とやらを、聞かせてもらおうか?」

 ぼくの所属する一年A組の担任であり生活指導担当である朱鷺やよい先生が、怒りのこもった声で問いつめてきた。

 これは非常にまずいぞ。人生最大のピンチ更新だ。

 しかし、今朝のピンチを華麗に回避したぼくならば、このピンチも切り抜けることができるはずだ。

 ぼくの七色の引き出しから飛び出る華麗な言い訳を見よ!

「えーと、ですね……。あ、そうそう、そうです。今日は電車のトラブル――」

「因みに、今日は電車遅延を申請した者は誰もいないぞ?」

「――とかは無くて順調に駅にたどり着いたのですが、えーと、ですね……。あ、そうそう、そうです。駅について改札を出ると、券売機の前でお婆さんが切符の――」

「因みに、ICカードで乗車する昨今に、切符の買い方が解らないお婆さんなんてそうそういないぞ?」

「――買い方はバリバリ解っているようだったのですが、えーと、ですね……。あ、そうそう、そうです。駅を出てバス乗り場に向かおうとしたのですが、あの駅のバスセンターって広すぎ――」

「因みに、入学して一ヶ月以上経つのに、駅を出て目の前にあるバス乗り場に迷ってたどり着けない奴なんているはずがないぞ?」

「――るので、交通の拠点として立派な駅ですよねーまったく。えーと、ですね……。あ、そうそう、二時間目の数学は宿題が出てたので、この辺りで失礼させて――」

「因みに、二時間目は国語だぞ、私の」

「――……。はい。申し訳ございませんでした。特に事情とかありませんでした……」

 完敗だ……。

 くそー。言い訳に先回りとか性格悪すぎるよこの人。だから顔もスタイルも良いのに三十歳超えて未だに独身なんだよ。ぼくが貰ってあげようか?

「なんか今ムカついたんだが……まあいい。で、お前さ。なんで『駅で体調が悪くなった』って正直に言えないんだよ?」

「あれ? なんでやよい先生がその事を知ってるんですか?」

「駅で乙姫が体調悪そうだったから声をかけてみたのだが朝会になっても学校に来てないって、白鳥が心配して相談してきたんだよ」

 白鳥……くん、さん? 誰だそれ? あ、あの女の子だ。

「はいはい、思い出しました。電車降りてウンコ漏れそうでしゃがみこんじゃったんですが、そう言えば同じ学校の女子生徒と思われる人に呼びかけられましたね。あの人、白鳥さんって言うんですか。『おかげで助かりました。ありがとうございます』って伝えておいてください」

「……お前さ、白鳥はクラスメイトだぞ?」

「え? そうだったんですか?」

 へー。あの人、クラスメイトだったのか。あんな人いたっけな? ああ、そう言えば似たようなクラスメイトがいたかもな。十五人くらい。

「十五人ってクラスの女子全員かよっ! ……乙姫。お前さ、クラスメイトの名前、何人覚えてるんだ?」

「え? 質問の意味がわからないのですが」

「わかれよ! って、まさか一人も……。もう一ヶ月以上も一緒に過してるのに、何で誰も覚えてないんだよ……」

「え? 疑問の意味がわからないのですが」

「もうあれだよ。私にはお前の思考が意味わからないよ」

 まあそんな事言われても、一年間同じ教室で勉強するだけの人達の名前を覚える意味がわからないよ。ぼくは何も間違ってないと思うが……。

 しかしやよい先生は、額に手をやり天を仰ぐ姿勢で溜息をついていた。

 前に突き出すように強調された大きな胸にぼくの目は釘付けになった。揉んでもいいってことなのかな?

 などと考えていると、やよい先生は真面目な顔でぼくに向き直った。

「お前さ、今日で何回目の遅刻かわかるか?」

「二十回目です。それが何か?」

「…………」

 やよい先生は「はぁ……やっぱり意味がわから……」とか呟きながら頭を抱えていた。急に頭痛かなにかにでもなったのだろうか? 心配だ。

「あの。頭、大丈夫ですか?」

「それはこっちのセリフだよ! ……でさ、入学して一ヶ月で二十回も遅刻してる奴なんて、お前以外にいないんだよ」

「へぇー。皆、運がいいんですね」

「遅刻に運とか関係ねーよ! ……しかもそいつが生活指導担当の私のクラスの生徒だってことは由々しき事態なんだよ。わかるか?」

「わかりませんが何か?」

 やよい先生のボーナスが減るとかかな? そうなるとエステに通うお金が足りなくなり婚期がまた遠のくとかかな? なるほど、そーゆうことか。ぼくが貰ってあげようか?

「はぁ……。とりあえず教えておくがな、年間で遅刻を六十回以上すると進級に問題がでてくるんだよ。つまり――」

「つまり、あと四十回は遅刻してもセーフって事です?」

「ちげーよ! ってか、アウトだよ! つまり、お前は既にブラックリストに名前が載ってるということだよ。このまま遅刻し続けて、すんなり進級できると思うなよな」

「えーウンコしただけで進級できないとかありえないですよー」

「ウンコは関係ねーよクソ野郎が!」

「いやースカトロはちょっと無理ですよー」

「誰も言ってねーよ! セクハラで訴えていいか?」

 セクハラで訴えるだと? つまりはこーゆーことだ。

 セクハラ → 傷物にされた → お嫁にいけない → 責任とってよ!

「ぼくが貰ってあげようか?」

「お前もう死ねよ!」

 生徒に死ねとか言う教師も駄目だろうが! でもやよい先生の罵声は気持ちがいいな。新しい性癖が目覚めそうだよ、はぁ、はぁ……。



 二時間目の授業中、やよい先生はぼくのことを指名しまくりやがった。おかげでクラスの奴らの注目の的になってしまった。「あいつ誰だっけ」とか小声で話しているのがまる聞こえである。お前こそ誰だよ。

 しかも、授業が終わるとやよい先生がぼくの席に近づいてきて、

「お~とひ~めく~ん! 今日の放課後は、帰さない~ぞっ!」

 甘ったるい声でラブコールをしてきた。モテる男は辛いな、ははは。

 だがしかし、ぼくは三十ゲフンゲフン歳の女の子を彼女にする気は無いのさ! やよい先生の体にしか興味は無いのでね。

 と言う訳で、放課後。

 ぼくは職員室に行って、やよい先生を傷つけないようにソフトに交際を断ったと見せかけて、体だけの関係になろうと試みてみた。

「あ、あ、ああの、ぼくぼ……、ぼくは、おっぱいが――」

「お前もう死ねよ」

「あるぃーーがとーーぐぉざぁーーいまーーす!」

 やよい先生の汚物を見るような視線が突き刺さった。はぁ、はぁ……。

 新しい性癖が目覚めはじめたので、「もっともっと」と身振り手振りでアピールしながらやよい先生に覆いかぶさるような姿勢をとろうとして――

「あのさ、ヨダレを垂らして絶賛気持ち悪い所を申し訳ないんだが、もういっそのことお前を退学にしてもいいかな?」

「申し訳ございませんでした! 猛省しております!」

 ぼくは速効で背筋を伸ばして姿勢を正した。

 この声があまりにも大きくて、職員室中が一瞬で静まり返ってしまった。多くの視線がぼくらに注がれていた。湯飲みコーナーにタムロしていた年輩な先生達が「やよい先生はあいかわらず厳しい指導を――」「いやいや。私が若かった頃は口より先に手が――」とか話してる声がクリアに聞こえるほどに静だった……。

「……まあ、いいや。でさ、お前に罰を与えようと思うんだ」

「罰ですか? 女子トイレ掃除一年間とか勘弁して欲しいんですが……」

「まだ何も言ってないし、女子トイレ入りたいだけだろお前……。まあいいから、ちょっと私の話を聞け」

 そう言うとやよい先生は真面目な顔つきとなり、淡々とした口調で話を始めた。

「私が今年から一年生の生活指導担当になったって事は知ってるよな?」

「ええ、重々に承知してますが。入学式の日に自己紹介で言ってましたよね?」

「ああそうだったな。でだ、うちの学校はそれなりに厄介な生徒がいるせいで、私の仕事はけっこう忙しいんだよ」

「へぇー。厄介な奴とかウザいっすね、ははは」

「…………」

 あれ? なんか先生が黙っちゃったよ?

「え? ジト目とかされると、可愛いんで惚れちゃいますよ?」

「来年も一年生だな」

「いつも自分が迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした!」

「まあ、まだお前以上に迷惑な奴が出てきていないのは、不幸中の幸いだよ。それでも、生徒達の生活面での指導は結構大変なんだよ。特に、まだ入学したての一学期は中学生気分が抜けてない馬鹿どもの指導がメンドクサイのなんの……」

 そのままブツクサと「これだからゆとりは……」とかなんとか愚痴をこぼし始めてしまった。まったくメンドクサイ女だな……。

「メンドクサイ女だな」

「うるさい、黙れ、知ってるよそんなこと」

 あーそうですか。

「それでだな。つい最近の事なんだが、ちょいと良い人材に巡りあってだな。私の仕事を手伝うための委員会? みたいなのを作って、そいつを入れたんだよ。でもまだ委員が一人しかいないから、お前が二人目な」

「あーそうですか」

 話を聞くのメンドクサイんで、適当に相槌をうってたんだが……あれ? 今、二人目とか言ったのかな?

「え? 委員会ですか?」

「ああ、正式に発足したんだよ。だから、お前も今日からな」

「はぁ? 意味わかんねーよ。頭おかしいんじゃね? あ、なるほど。脳に行くはずの栄養がおっぱいに行ってるんですね、わかります」

「再来年も一年生かぁ……」

「こんな自分で宜しければ、喜んで協力させて頂きます!」

「よろー」

 くっ……軽い返事だな。尻もそれくらい軽ければ結婚できたんじゃねーの?

「いや、てゆーか。委員会? は別にいいんですが、何の委員会なんです?」

「ははは。よくぞ聞いてくれた! 私が一晩寝ずに考えたナイスな名前を聞け!」

 はぁ、メンドクサイ……。そんなんだから結婚できないんじゃ以下略。

「『学生生活を一生懸命に生きる』会。略して生中会だ!」

「あんたは涼宮ハルヒかよっ!?」

 ってか、生中ってビールじゃねーか……。何考えてるんだよこの人。そもそも『中』って文字ないじゃんかよ。略になってないしさ。

「いやいや、十三文字の真ん中の文字は『生』だろ? だから、『生』が真ん『中』にある会で、生中会なんだよ!」

 と、ドヤ顔のやよい先生。栄養がおっぱい確定でした。

「普通に学生会とかでいいだろ……」

「ん? もちろん学校には『学生生活委員会』通称『学生会』で申請してるぞ?」

「じゃあ、学生会じゃねーかよ!」




読んでいただきまして、ありがとうございました。

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