(年下王族少年×トリップ女子)
年下王族とトリップ女子の結末
異世界より召喚された者を伴侶にする。ソレが私を召喚した国の王族のしきたりだった。
ただ、さ。
私は例外なんだと。今までは、男しか召喚されなかったらしいのだ!
この国の姫が継承権第一位を得るのはその為だとか。女王の国ですか!うわ、ファンタジー設定では珍しいな。
さらに!女性向けトリップファンタジーだと、大概王子はイケメン枠、身分差恋愛枠なのに、ここの王子は妻帯子持ちでした。うん、攻略対象にあらず。王子の息子は十五歳だとか、王子は三十二歳とか…!ああ、幾つの時の子供ですか仕事はえーな!
さて、いきなり召喚されて事情を飲み込めたはいいけど…私、どうなるんすか。
魔方陣の中に呆然と佇み、囲んでいる人々を見ることしか出来ない。
だが、目の前に救いの光が舞い降りる。
「異世界の大事な客人を無下には出来ません。申し訳ありませんが、――僕の妻になってくれませんか」
と、私に最初に手を差し伸べたのは――件の王子の子供、十五歳のクリストフくんだった。
誰もが困った顔で私を見る中で唯一、強い意思を示してくれた彼に――私は救われたのであった。
***
それからは大変だった。
なんせ、クリストフくんは王族だ。いくら男で継承権が無くても王族なのだ。
女系王族に異世界人が相手となる以上、この国の貴族サマは男系王族に必死になってすりよる訳です。つまり、クリストフくんは貴族サマのご機嫌とりの駒…有力貴族との政略結婚という道が待っていたのです。
だが!私が現れてしまい、状況が変わった。
彼は私と共になる為に、王族の立場を捨ててしまったのだ。政治の薄暗い部分に巻き込まれぬよう、国からも都からも自由には出れない、不自由で静かな民衆の暮らしを始めたのである。
…どうして彼はそこまでして私を妻にしたのであろうかが解らない。まあ、国の為なんだろうけどさ。
「…どうしましたか」
キラキラした彼に似合わない小さな家の、小さなリビングで、私達は向かい合っていた。その為に表情の変化がよく見えたのであろう。彼の顔は心配の色を見せていた。
流れ落ちるようなサラサラとした長い金髪を、三つ編みにして肩にかけていたあの頃の彼はもういない。今は一人で縛れるよう、肩にかかる程の長さしか無い。
服もフリルや豪華な生地が使われたものから質素なものになったし、衣食住全てのランクが下がっているのに、どうして何も言わないのであろうか。
「ねえ、クリストフくん」
「はい」
向かい合っていたので私の黒い瞳に、彼の空色がぶつかる。嗚呼、綺麗な瞳だ。
何度「帰りたい」と泣き喚いて、この空色を曇らせたか。その都度「申し訳ありません」と謝られ、慰めるように抱き締めて貰った。…数えきれない位、沢山の優しさをくれたのだ。
五つも年下なのに、私が話すと「はい」と必ず相槌して、目を合わせて聞いてくれる。口数が余り多くない彼の、言葉無きコンタクト。
――ごめんね、と言いたかった。しかし、以前言ったら悲しい顔をされた。
ならば、何を言ったらいいのだろう。
「…あのね、」
「はい」
急かさず、優しく微笑む彼が――いとおしい。
そう思った瞬間、言葉が溢れていた。
「有難う、私を奥さんにしてくれて。優しくしてくれて、嬉しかった」
「…!」
綺麗で大きな瞳が、見開かれた。彼にとっては予想外の言葉だったのかもしれない。
まあ、待って。まだまだ伝えたい事はあるんだ。
「貴方にとっては何処の誰かも解らない異世界の不穏分子なのに…手を差し伸べて、救ってくれて…」
白くて細い彼の手を握りしめ、今の自分に出来る精一杯の笑顔を浮かべる。
「有難う。愛しています、クリストフ」
…。
あれ?反応が無い?
「はい」とたっぷり優しさを含んだ返事をくれると思ったんだけど…。やっぱり五つ上のおばさんの告白はウザかったか?
恐る恐る、彼を伺おうとすると。
「見ないで下さい」
強く手を握り返されたと思ったら、今まで言われた事も無い願い。反射的に「何処を?」と思って彼を見れば――。
「?」
「赤面をまじまじと見つめないで頂けますか」
「いや、赤面してないよクリストフくん。耳は確かに赤いけど」
割りと君の表情筋はクールなお仕事してるからね?!
あー私のロリコン!違った、ショタコン決定。いや、ショタって年齢じゃないか。年下趣味決定。くっそぉぉ!…やばいです。
「…僕は貴女を利用する気だったんです」
「あー、そうだったんだ…」
やっぱり、物事は善の面ばかりでは無いよねえ。
苦笑する私に、更に彼は続けた。
「僕はただの政治の駒であり、貴族への貢物に過ぎませんでした。父も同様です。だからこそ、何のしがらみもない"クリストフ"になりたかった。定められた運命を覆したかったのです」
うーん、成程。立場が自由を許してはくれないからね。ただ、立場という平民より優れた物があるからこそ、不自由を我慢せねばならない事もある。…難しいなあ。
「そっか。…私なんぞでも役立てて光栄だ」
…愛の告白して恥ずかしいけど、それでも一緒にいられるならいいや。この世界で、一人で生きていくのは辛すぎるから。
「違います!」
ガバッ、と何時になく粗雑な抱擁をされる。穏やかで優しい彼らしくない、慌てたものに目を瞬いた。
「確かに貴女を利用した事は事実です!しかし、…僕は貴女を…」
一度抱擁をとかれ、肩を抱かれたまま互いの視線が交錯する。空色には、熱い情愛の色が見えて。
「貴女をいとおしく思う」
絡まった視線は次第に近付き、零距離になった。彼の手が頬に触れ、吐息を感じる間も無く触れた唇。
嗚呼、何て悲しくて、何て幸せなのであろう。戻れない世界の親類に謝罪をし、ずっとこのまま彼と在りたいと思った。
(嗚呼、幸せとは何かの犠牲の下でしか成り立たぬものなのか。無情なり)
世界観や詳しい背景はノープランです。
クリストフと主人公がどういう生活をしているかも、描写不足とは思います。