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召還の代償

作者: 七支

よくあるテンプレでは、召還した王は召還された少女を溺愛しちゃうので、その理由を考えていたらこんなことに。

「議論は出尽くしたと思われます。王、ご決断を」

議長である老公爵の声に、俺は思わずうめき声を漏らした。

なんとか回避したいが、味方はいない。それに、回避が許される状況ではない。

「王」

もう一度呼ばれて老公爵を睨むが、さらに強い眼力で睨み返されてしまった。

「嫌だ」

「否やは許されません。もはや一刻の猶予もないのです」

今日一日、いや、以前から何度も会議を開き議論を尽くしてきた結果を突きつけられる。

王とはいえ、ほぼ全ての家臣が求め、議会が承認したことを却下することは出来ない。

しかし、ここで気軽に応とは言えなかった。

「余の人生がかかっているのだぞ」

「国民の命がかかっております」

苦し紛れの言い訳に即座に言い返される。俺の教育係を長く努めた老公爵に口で勝てた試しはない。

だが。

「それでも、嫌だ!」

抵抗をあきらめる事はできなかった。



この世界では、人を害する魔物が爆発的に増えることがある。

周期は不定だし、発生条件も分からない。

分かっていることは二つ。大陸の北にそびえる龍の骨山脈から突如わいて出て、南に侵攻してくるということ。そして、その期間中の魔物は普段より三割増しは強力で、普段魔物の討伐をしている騎士団や冒険者でも手に負えなくなるということ。


龍の骨山脈を北に背負う、まさに侵攻ルート上に領土を持つ我が国では、古来より魔物の侵攻が始まると、対抗できる力のある勇者を召還して戦わせ、国を保っている。

呼ばれた方の勇者はたまった物ではない、というのは理解しているから、誠意を持って頭を下げ、お願いする。もちろん送還も出来るし、送還時には時空魔法で成長(または老化)した肉体を元へ戻すとか、召還した時の直後の時間軸に送り返すとか、できる限りのアフターケアは用意してある。今は。

そう、今は、だ。



今から三百年ほど前、今ほどアフターケアの整備されていない時代に勇者として召還されたのは醜い老婆だったという。

老婆とはいえ、召還されたのだから魔物を滅する勇者の力を持っている。彼女は剣の力ではなく、類い希な魔術の力を持っていた。

当時の王は老婆を前線に立たせようと、様々な条件を提示した。地位、名誉、財宝、宝石、山海の珍味、香しい花、珍しい動物、果ては魔法による若さや美しさ。その全てを退けて老婆が望んだのは、彼の王の愛だった。

王は若く美しく、未だ独身で恋人もいなかったので、老婆を妃に迎えても問題はなかった。王の腹心であった宰相は、老婆を名目上の妃に据え、子どもは妾妃との間に設ければよいと進言した。

しかし、当の王がそれを拒んだ。若く美しく誰より尊い血統を持つ彼は、傲慢であった。

名目だけであれ、醜い老婆を自らの配偶者として遇するなど我慢ならないと言い放った。

王の意を汲んだ宰相は一計を案じ、老婆には魔物退治の旅に出るよう告げた。その間に王を説得しておく、勇者としての実績が有れば、王も老婆に心を開くだろうと言いくるめた。

そして、筆舌に尽くしがたい長く辛い旅の末、老婆が全ての魔物を倒して戻ると、王は隣国の姫を妻に迎えていた。



老婆は怒り、王を呪った。強力な呪いは彼の王ひとりではおさまらず、王の血を引く者にふりかかり、さまざまな悲劇と喜劇を生んでいる。

そして今まさに、その呪いがこの俺にも降りかかろうとしているのだ。

なんとか回避しなければならない。懸命に頭を働かせるが、解決策は出てこない。

「王がご決断できないようですので、議会での可決を持って裁可とすることを提案します」

「ちょっと待て!」

制止する声は「異議無し」の大合唱にかき消された。

「往生際が悪いですぞ」

ちらりと冷たい視線をくれる老公爵を睨み返し、頭を抱えた。

彼は俺の父方の叔父でもある。つまりは元王弟だ。王位継承権は放棄しているとはいえ、血の濃さで考えれば十分呪いの及ぶ範囲だ。

「叔父上とて、血の濃さで言えばまだ可能性があるでしょう」

「私は婿養子に出ておりますから、王家の者ではありません」

「名目上はそうでも、血縁は切れません。いいのですか? あなたが狂っても。叔母上は悲しまれるでしょう。いとこたちも笑われることになるのでは?」

必死の説得に老公爵は余裕綽々で笑った。

「そうですな。では、私は召還には立ち会わぬように致しましょう。王がそこまでご配慮下さるとは、叔父として、臣下として、感激の至りです」

自分だけ安全宣言を出した叔父によって無情にも議決は取られ、勇者の召還は決定してしまった。



老婆の怒りは正当だと思うが、この呪いは不当だと思う。

不本意な決議をされた議会が閉会した後、俺はできる限りの速度で魔術研究所へ向かった。

召還と送還の研究以外に、解呪の研究もここで行っているのだ。

呪いで力を使い果たし、失意のまま老婆が亡くなってから三百年経つが、未だ解呪の切っ掛けさえつかめていない。

一度呪いが発動すれば、それに逆らうことは出来ない。

老婆の怒りと願いを込めた呪いの内容は、王が勇者を愛すること。ただそれだけ。

ただそれだけ、だが。

召還で呼び出される勇者の七割は剣士だ。二割が魔術師で、残り一割はまあ色々、特殊能力者だ。

そして、七割を占める剣士は大概、大柄で鍛えられた男なのだ。

「今すぐ呪いを解除しろ!」

「あはは、相変わらず無理なこと言う」

研究主任の襟首を掴んで揺さぶったが、手応えもなく笑われてしまった。これは俺が物心ついてから――いや、王が呪いにかかってから、歴代ずっと繰り返されている問答だからだ。

「勇者の召還が決まったんだぞ! 俺が! 国の代表たる王が! ムキムキ剣士にメロメロになっていいのか!」

「口調口調! 中身が出てるよ!」

「うるさい、お前だって国民として、王がホモなんて嫌だろう! 大体、勇者が男なら振られるじゃないか! ホモで振られる王なんて……!」

振られなくて成就するのも絶対嫌だが。

がくりと膝をつく俺の肩を、研究主任はぽんぽんと宥めるように叩いた。

「大丈夫だよ、呪いのことは国民どころか近隣の国までみんな知ってるんだから!」

「慰めになるか!」

「それに、王に迫られた勇者ってキモがって頑張って魔物退治してさっさと元の世界に戻るじゃない? 長引かなくていいよ。呪われる前は長居して豪遊して国庫傾けた勇者もいたんだからさ」

「俺はまだ婚約もしてないんだぞ。ホモになったら、嫁の来手がない」

今までの呪われた王は、召喚前に妃を迎えていた。孫がいるような年齢の王に求愛された勇者にはお気の毒だが、おかげで次代の血統は残された。しかし、俺はまだ独身で子供もいない。

「責任を取れ」

低い声で凄んでみせると、研究主任は驚いたように眼鏡の奥の瞳をぱちりと瞬かせた。

「伯爵令嬢だろう、一応」

言い募るとふい、と視線をそらされた。

「まあ、そうだけど。……叔父君の孫でも養子に貰えばいいんじゃないか?」

「うるさい。お前が言ったんだろう、解呪してくれると」

「言ったっけ」

「初めて顔を合わせた時に」

鮮やかな記憶がよみがえる。そうだ、あの美しい日に、彼女は約束してくれたのだ。このくびきから解放してくれると。だから俺も、彼女の望みを叶えると誓った。

「記憶力いいね」

「信じていたのに裏切りやがって。おまけに、ホモになれとか養子をとれとか」

「ごめんごめん。まあ、いいよ。子ども産んであげるよ」

あっさりと言う彼女に俺は声を荒げた。

「そうじゃないだろう!」

「え?」

なんで分からないんだ!俺は乱暴に華奢な肩を掴んで抱き寄せた。

「お前が好きだと言ってるんだ! 妻になって欲しいと!」

約束しただろう、解呪されたらずっと一緒にいてやると。

黙り込んだ彼女の、襟元から額にまで朱が上るのを見て、やっと溜飲が降りた。



色々あって、召還の儀式の直前に、三百年ぶりに王家の呪いは解かれた。

ちなみに、勇者として召還されたのは愛らしい幼女だった。

こうなってしまえばどうでもいいことだ。

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