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裕福な転生者

『あなた達を転生させますので、一つだけ希望を言って下さい』


この声を聞いて、私は少し落ち着く事ができた。


この真っ黒な部屋には、私以外は誰もいないようで、

さっきから、色々と呼びかけていたが、何の反応もなかったのだ。


それが、やっと声が聞こえてきたのだから、その事に安心したとしても、仕方無いと思う。


・・・あのーここはどこですか・・・


今までとは、違い声のした方へ問いかけてみる。


・・・私は死んでしまったのでしょうか・・・


・・・一緒にいたはずの紗代ちゃんは、どうしたんでしょう・・・


・・・あのー・・・


まったく反応がない。

あまりの寂しさに、幻聴を聞いてしまったのだろうか。


実際、私が死んでるって事は判っているんだ。


だって、紗代ちゃんに連れられていった電気街で、爆発に巻き込まれた記憶がはっきりあるのだから。

熱くて、息苦しくて、一秒でも早く楽になりたかった強烈な記憶。


あの状態では、助かるわけがない。

現に、今の私には体が無いじゃない。



死を自覚したとたん、急に悲しさがこみ上げてきた。


・・・死んじゃったのかぁ・・・

・・・お父さんとお母さん泣いてるかなぁ・・・

・・・マー君に電気鼠を描いてあげる約束してたのになぁ・・・


もう会えないであろう家族の顔を思い出し、泣きそうになるが涙がでる事はなかった。


・・・体、無いもんね・・・


いつか見たテレビで、泣く事は最大のストレス解消法と言っていたが、その通りだ。

泣けない事が、こんなにつらいと思わなかった。


悲しくて悲しくて、今まで楽しかった事や辛かった事が走馬灯のように頭に浮かんでくる。


お父さんは優しかったけど、不器用だったから出世できずにヘトヘトになるまで働いてくれてた。

お母さんは、いつも笑顔で美味しいご飯を作ってくれたけど、金銭感覚が無かったなぁ。

よく、アパートなのに高枝切りバサミを買ったり、純金の印鑑買ったりしてたなぁ。


冷静に考えると家は、かなり貧乏だったと思う。

私も新聞配達などで、生活費を入れていたほどに。


だって、お母さんが使うんだもん。


20万の高級羽毛布団って何よ。しかも家族4人分。

「だって、今年の冬は寒いっていうからぁ。」

って毎年、寒いよ。


お父さんは、いつも苦笑いで許しちゃうし、マー君も幼稚園児だから止めやしない。

一時期、家に帰るたびに物が増えているので、抗議の家出をした事もあったなぁ。


マー君もマー君だ、誕生日プレゼントの電気鼠の絵だって

「お姉ちゃんの絵が良いな。既製品は味気なくて駄目だからね。」

凄い気の使いようだよ。

君は幼稚園児なんだよ。もっと我侭いっていいんだよ。


・・・その絵すら渡せなくなったけどさぁ・・・


なんか、お母さんの愚痴を言ってたら落ち着いちゃったな。

まあ、貧しくも楽しい我が家だった。



「ただ今度は、お金に困らない生活がしたいかな。」




===========================================


自分が願いを言った自覚もないまま、転生して5年がたった。



今日は私、シルビア=エクス=ボードローグの誕生日だ。



「確かに、お金には困らないわよねぇ。」

私は、オーダーメイドの可愛らしいドレスをメイドのお姉ちゃん達に着せられ、執事のチャバス爺ちゃんに手を引かれて会場に向かっている。


お父様と、お母様は厳しくもやさしいし、屋敷に勤めている人たちは、私を実の娘や孫のように育ててくれる。


「文句を言ったら罰があたるよね。」


「どうかされましたか?」


私の独り言が聞こえたのか、チャバス爺ちゃんが態々立ち止まって、しゃがんでくれた。


「パーティって初めてだから、緊張して・・・」


まるで微笑ましいものを見るように、チャバス爺ちゃんは私の手を包み込むと

「大丈夫です。今日は、皆さんお会いした事のある方ばかりですよ。」

「それに、お嬢様は聡明でいらっしゃる。どんなパーティに出ても恥ずかしくありませんよ。」

そう言ってにっこり笑うと、ゆっくりと私を促してくれた。


(本当に満たされてるなぁ・・・)


そうこうしてる内に、目の前に大きな扉が見えてくる。

係りの人が私達を見て、笑顔で扉を開けてくれた。


(だけど・・・)


穏やかな談笑に包まれる広い会場に、一際大きな声が響いた。


「シルビア姫。御到着されました。」



(王族は、やりすぎだよぉ)

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