残念な転生者たち
俺が神に
「無限の板製(UNLIMITED PLATE WORKS)を使えるようにして下さい」
と願ってから5年がたった。
俺は早々に言葉を覚え、知識を集めまくった。
まあ、5歳児が出来る事など高が知れているが、それでも大体の事は理解できた。
まず、この世界は一般的な転生物のように、剣と魔法の世界のようだ。
大体10~20世帯で集落を作り、農業や狩りをして生活する中世ヨーロッパのような文明レベルだ。
集落の外には、危険な動物も多くいるようだが、街道から外れないかぎりは、そう襲われる事もなく平和な世界らしい。
国も相互補助の関係が強く、危険な動物から身を守るための組織といった役割に過ぎず、そういう理由から集落同士の小競り合いはあっても、国家間の戦争といったものは、あまり無いようだ。
食文化も進んでいて、マヨネーズやケチャップといった物まであった。
最初は、危険な世界でないかと心配していたが、それは杞憂だった。
世界は平和で、とても過ごしやすかった。
だからこそ理解した。
俺が考えていたより、神は残酷だったと・・・
この世界に義務教育といったものは無く、俺くらいの年で家の手伝いを始めるのが普通だ。
家は鍛冶屋をしており、俺はそこの跡取り息子として仕事を手伝っている。
そのため、鍛冶屋にある道具はいつでも使える。
そう、『UNLIMITED PLATE WORKS』という名の鍛冶屋を使えるのだ。
この現実を理解した時、俺は愕然とした。
最初、あまりに色々と考えてたから神に嫌われたのかと思ったが、それは違っていた。
なぜなら、町には「殿の財宝」や「バンジージャム」といった漫画の必殺技や能力の名前をした店が多くあったからだ。
『UNLIMITED PLATE WORKS』という名前の店にいたっては、武器屋だったり酒場だったりと5件以上ある始末。
また、「シロウ」や「クロロ」と言った漫画のキャラと同じ名前の奴が、ゴロゴロしている。
たぶん、「○○になりたい」といった願いをしたのだろう。
極めつけは、今俺が住んでいる集落は200世帯程の大きな街なのだが、名を『ネジマ』という。
『ネジマ』とは、前世で流行っていた漫画の題名だ。
5年前まではポルラという名前の街だったらしいので、誰かが
「ネジマの世界に転生したい」
と頼んだのだろう。
どうやら、神は俺達にまったく興味が無いようだ。なんといっても願いの叶え方が雑すぎる。
もし、神の娯楽のために転生させたのなら、この世界に影響を与える能力でなければ意味が無いはずだ。
俺のように、普通の鍛冶屋の息子として生まれても、世界は何も変わらないだろう。
もちろん、能力が使えないというだけで諦めたわけではない。
子供の頃から、剣や魔法の練習をすれば、かなり強くなれるのではと考え、剣の練習をした事もある。
まあ、普通に努力できるなら、前世でも苦労はしてないという事だ。
子供の頃からやろうと、大人になってからやろうと、要は心の問題だ。
強くなりたいというような明確な意志が無いと、途中でどうしても甘えがはいる。
なまじ、この世界が平和なため、何事にもやる気がでないのだ。
だって、斬られたら痛いんだよ。ちょっと練習用の剣で、指を切ったが脂汗がでるくらい痛かった。
こんな痛いおもいをしなくても、俺は鍛冶屋を継げば食べていける。
剣の練習は1ヶ月くらいで止めてしまった。
魔法は、使えないわけでは無いが、才能が無いため日常的に使うだけで精一杯だ。
他にも俺が転生者である事は、街中に宣伝しているような状態のため、転生者同士で協力しようという提案を受けたこともある。
だが、名前がアニメキャラなだけの一般人が何人集まった所で、なにもできない事がわかった。
小説では定番の、元の世界の知識を活用しようにも、パソコンの使い方や車の運転の仕方くらいしか身についている知識はなく、農業などに至っては機械に頼った考えしかないため、むしろマイナススタートだ。
料理改革をしようにも、普通に食事はうまいし、作り方を知っている唯一の調味料『マヨネーズ』は既にある。
さすがに醤油は無かったが、それも作る事はできなかった。
酷い話だが、作り方が判らなかったのではない。
一人変わった転生者が醤油の作り方を知りたいと願っていたため、醤油の作り方は判っていたのだ。
ただ、醤油を作るために必要な麹菌の作り方までは、知識を与えられていなかった。
神はどこまでも、俺達を馬鹿にしているらしい。
今では、当初の目的であった輝かしい人生計画は根底からポッキリと折られ、そのあまりの気恥ずかしさから、転生者同士であっても最低限の付き合いしかしていない。
・・・それでも俺達は、まだマシだった・・・
俺が生まれてしばらくして、世界ではある奇病が問題になった。
生まれた子供が、まったく成長しないのだ。
中には、どんな事をされても死なない子供までいた。
神に「不老不死」を願ったのだろう。
かなりの転生者が、この願いを言ったらしく患者の数は、五百人とも千人とも言われている。
俺達の街でも、3人いたらしい。
俺が言葉を覚えて、この事を知った頃には、既に王都の収容施設につれて行かれた後だった。
原因不明の奇病のため赤ん坊を、その家族ごと隔離しているという噂だ。
何をされてもけして死ねない彼らは、検査と称した実験を永遠に受ける事だろう。
神は何のために俺達を転生させたのだろうか・・・
今ならそれを願うというのに・・・