世の理(ことわり)を知る転生者
『あなた達を転生させますので、一つだけ希望を言って下さい』
この言葉を聞いた時、僕は今まで以上の混乱におちいった。
僕は、そこそこ頭の良いほうだと思う。
なぜなら、僕が世界にとって無価値で無意味な存在だと判っているからだ。
人間は人生に意味を持たせたがる。
自分の存在は特別だと盲信して、価値を求めて生きている。
この世界から見たら、どんな生物にも価値なんてないのに。
自分を無価値だと認めながら、心を殺して生きていくしかないんだから。
だからこそ、この提案には驚いた。
転生させてもらえるのは良い。
輪廻とか、そういうシステムで世界はできているのだろうし。
でも、なぜ希望を聞くんだろう。
何も言わずルーチンワークのように転生させれば良いじゃないか。
「君は特別です」とでも言うんだろうか。
そもそも、この声の主は何者だ。神様なのか。
わからない。わかるはずがない。
僕は凡才なんだ。僕程度の頭で理解できるはずがない。
だけど、知りたい。なぜか好奇心が抑えられない。
気付けば僕は願っていたんだ。
「あなたと同じ知識をください」
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ともすれば音が聞こえてくるような知識の濁流に
僕の自我は吹き飛ばされた。
粉々に散っていく意識の中で、答えを得た充足感だけが残っていた。
・・・は転生した。全ての自我、欲求を知識で押し流されて。
赤ん坊ながらにして世界の理を知り、個を無くした物として。