最強の転生者
『あなた達を転生させますので、一つだけ希望を言って下さい』
この言葉を聞いた時、今まで穏やかだった俺の心が一瞬で最高潮にまで湧き上がった。
よく、人生は誰もが主人公だと言うが、あれは嘘だ。
もし、そうだとしても俺の人生は酷くつまらない物語だ。
一般家庭に生まれ、普通の幼少時代を過ごし、悩むことなく近場の三流大学へ、そこを卒業したら地元で就職し、定時に帰ってゲームをする日々。
三十路を過ぎたあたりから、結婚をあきらめ現実逃避に没頭する毎日。
休日は、トイレと食事以外はパソコンの前から動かない。
いつ死んでも良いが、死にたくはなく、誰かが日常を変えてくれる事を妄想して気を紛らわせる。
こんな物語、誰が喜ぶというんだ。
しかし、今は違うやっと選ばれたのだ。
俺が主人公だ。
よくある小説のように、最強の力を手に入れ世界で名を馳せてやる。
気分が高揚して、いてもたってもいられなくなった俺は気付くと勢いにまかせて叫んでいた。
「俺を世界最強にしてくれ」
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何かに引き寄せられる感覚を味わった後、しばらくすると冷たい岩穴の中で目が覚めた。
結論から言うと、俺は間違いなく世界最強だろう。
巨木でさえもへし折る腕力
刃物も通さない硬質化した皮膚
街を一瞬で灰燼に帰す事ができる魔力
睨むだけで人を殺せる眼力
山と見紛うばかりの体躯
軽く動かすだけで竜巻を起こせる翼
一振りで森を更地に変える尾
そう、俺は最強のドラゴンに憑依したようだ。
転生させるのでは無かったのだろうか。
人間でない事に愕然としたが、まあそこは良い。
ただ、このドラゴンの断片的な知識からわかった事だが、俺は絶賛封印中だった。
がんばってみたが指一本動かせない。
どうも生来の破壊衝動から暴れていたドラゴンを、国を挙げて討伐しようとしたようだ。
しかし、どうしても倒すことができずに封印する事で精一杯だったらしい。
はぁ、あと何年封印されてなきゃいかんのだろう
これこそ、つまらない物語だ・・・