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昭和レトロ自販機シリーズ

昭和レトロ自販機旅日記〜主婦の休日と箱入りチーズバーガー〜

作者: 地野千塩
掲載日:2026/09/21

「休みといっても何したら良いかわからん……」


 運転中、つぶやいてしまった。そういえば独り言も久しぶり。風浜ミチルはアラフォーの主婦だ。常に夫や子供がいる生活。子供のはしゃぎ声が全くしない車内は、静かというより戸惑う。


 なぜか今日、夫が子供の面倒を見てくれることになった。休日だし、遊んで来いと言われても。


 とりあえず車に乗った。ミチルは千葉県船橋市に住んでいたし、成田山でも行こうかなと思ったが、なぜか車を運転していたら、その気もうせ、県道79号線をあてもなく運転中。丘陵のアップダウンのある県道だった。


「どうしよう。てか、もう昼じゃん。腹減った……」


 休日の昼ごはんといえば、夫や子供の好みを優先して焼きそば、チャーハンが多い。回転寿司を食べに行くこともある。ファミレスでパスタを食べに行くこともあるが、今日はそういうのは食べたくない。本当は思いっきりジャンキーな料理も好き。でも、そういうのって子持ちの主婦には縁遠いし、優先すべきことじゃない。


「あぁ、でもお腹減った……」


 その時だった。ドライブインを発見。さほど大きくないが、レモンイエローも建物が目に鮮やか。


「何ここ? 昭和レトロ風のドライブイン……?」


 今は令和のはずだが、レモンイエローの外観が昭和レトロの佇まい。もしかして車に乗っていたら、タイムスリップしちゃった?


「青空とレモンイエローが合うなぁ……」


 車を止め、なんとなく入店してみたが、驚いた。中はもっと昭和レトロ風。壁の色合い、床のタイルも年季が入り、ギリギリ昭和生まれのミチルでも戸惑うほどだ。


「時が止まってる……?」


 他に客もいない。タバコの匂いもするが、今の時代だとかえって新鮮に感じるから不思議なもの。


 しかも変な自販機が置いてある。うどんやそば、ハンバーガーが出てくる自販機らしい。これも年季が入っている。デザインも派手だ。どう見ても令和のスマートさはないのに、丁寧に扱われているらしい。自販機の塗装、何度か塗り直しされているみたいで、思ったより錆や傷が目立っていない。


 普通のペットボトルの自販機も並んでるのにも気づく。そうか、時はちゃんと動いてる。腕時計もちゃんと針が動いてる。ホッと気が抜けると、さらにお腹が空いてきた。


「せっかくだし、昭和レトロな自販機で何か食べる? っていうか、五百円玉使えないの? え、両替機も故障中って……」


 そのゆるさも昭和風だが、悪くない。大きな窓からは日差しが入り、明るい。それに風の音や車の音以外、何も聞こえない。ちょっと寂しくなるぐらい静か。


「うどんやそばもいいけど、チーズバーガー行ってみる?」


 小銭をいれて1分。あっという間に完成したが、驚いた。チーズバーガー、箱に入っている。


「は、箱入り……? しかも温かい……」


 サイズも大きくなく、市販のハンバーガーよりもチープな雰囲気だ。でも、それはそれで悪くない。隠れ家でこっそり食べる食事みたい。背徳感スイッチ、オン。


 やっぱりパンズはぺしゃっとしていたが、それが良い。肉は案外厚めでチーズもトロトロ。食べているだけで何か悪いことしているみたいで、おいしい。味自体は普通なのに。不思議なものだ。


 行儀も悪いと思いつつも、手についたチーズを舐める。あぁ、こんな姿は子供には見せられない。


「でも、おいしかった……」


 肩の力は完全に抜けていた。この静けさはやっぱり少し寂しいけれど。


 家に帰ったら、夫や子供に今日の話をしてみるか。いや、秘密にしても良いかもしれない。その方が箱入りチーズバーガー、余計においしく感じられそう。

ご覧いただきありがとうございます。

昭和レトロな自販機の作品、他にも書いてます。そちらもよろしくお願いします。

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おいしそうでした。
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