砂出し袋
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
う~む、こうも暑い日が続くとお肌を心配したくなってくるよ。
子供のころは全然興味なかったんだけどねえ。自分の身体のケアとか。こうして歳をとってくると体の衰えを如実に感じてくる。自分だけのパワーで回復する量も減ってきて、外部からの手助けを求めないと「ガタ」が来ていることを認めざるを得なかったりね。
不足を補うために他者の力をいただく。食事などをはじめ、我々が日常で行っていることだ。あまりに回数を重ねるから当たり前すぎて、そうそう身構えて考えることもないかもしれない。
だが、我々がやっていることは他者もとっくに思いつき、実行していると考えていいだろう。たとえそれが、生き物に思えない手合いだったとしてもね。
不足を補うことについての昔話なんだが、聞いてみないか?
かつて焼却炉が学校ごとにあり、バリバリ現役時代であったころ。
父の学校ではしばしば「砂出し」を行っていたそうだ。
生徒たちは、あくまで校舎内の清掃を行い、必要に応じてゴミを出していくのみ。そのゴミ出しをする係が焼却炉前まで袋を持っていくとき、砂がたっぷり入ったゴミ袋を目にすることがあったのだとか。
先生に聞いてみると、それが砂出しであることを知る。父の通っていた学校近辺は、しばしば黄砂と思われる砂塵の影響が出ていた。
思われる、というのは空を黄色く染め上げたり、車などに降りかかって汚したりという現象を見せるも、ほぼ年中起こっていたという点をあやしく思っていたためだという。
日本の黄砂現象は、おおよそ春に集中する。雪解け後の様々な要因が。黄砂を発生させる条件を整えやすいためとされるが、整うならば年中発生する可能性もあるようだ。
しかし、父の学校だとより被害が顕著になっていく。
汚れ以上に「痛さ」を覚えることが多いんだ。空を黄色に染める頃合いで風が吹く時、風下にいると壁の影なり地面の下なりへ避難したくなる。
もろに体をさらすと、無数のつぶてにぶつかられたようなダメージを受けるからだ。肌を見せているところはもちろん、薄い生地の服ごしにでもむずがゆさを覚えてしまうほど。
――いやいや、それならもっと人以外にも深刻な被害が出るんじゃないか?
普通は、そう思うだろ? でもこれがまた、普通の黄砂とは異なるだろう原因のひとつ。
人とそいつがまとうもの以外、この砂つぶては大きなダメージを与えない。それこそ他の砂塵たちとそん色ない姿を見せるが、人間相手にのみ、恐ろしい牙をむく。
この気味悪い砂が発生した後、数日間のうちにまき散らされた砂たちは掃除され、回収されてこの砂出しの対象となるわけだ。
砂を放置し続けるのは、よくないこととされる。特に悪いとされる理由は臭い。
砂は放っておくと肉などが傷んだときとよく似た、腐敗臭を醸し出すそうだ。奇妙なことに臭いの届く半径はおおよそ数十メートル圏内となっており、そこを越えるとピタリと臭いは届かなくなる。
昔から砂の処理に当たっていた人たちが見つけ出したという、不可解な特性。おかげで発見や隔離が行いやすいという利点はあったそうだ。
そして砂を集めて、焼くことが砂出し。
なぜそのようなことをするか、というと砂がとっていってしまったものを、戻しておかねばならない。つまり人へ与えたダメージについてだ。
砂たちは人から痛みとともに、奪い取ってほうぼうへ散っていく。血とか細胞とかよりも、もっと根源的な何からしい。
父は一度だけ、砂出しする直前の場面で出くわしたと語る。
ゴミ出しに来たとき、たまたまゴミの世話をしていた用務員さんがわずかに席を外していた時間があったそうなんだ。
その日は、いつもに増して砂の入ったゴミ袋が多かった。父がゴミを出しに来た時点で5袋分はあったという。それらが互いにひっついていたというんだ。
比喩じゃない。
近づいて分かったのだけど、袋同士がぴたりとくっついているばかりか、接触面の境界線がなくなっていた。本来は遮られるべき袋の外縁部分がなくなっていて、5袋分の砂が一度に交わっていたのだとか。
自由の許される領域の中で、傾斜もないのに、彼らはさらさらと互いの領域を行き来する。
まるで生きているかのようなよそおいに、父は鳥肌が立つのを覚えながらゴミ袋を置いて退散しようとしたところ。
つながった5つの袋たちが、明らかに飛び跳ねた。一斉にだ。
目を疑う父の前で、合わさった砂たちの真ん中をかき分けて、表へ出てくるものがある。
理科室の骨格標本で見たような、肋骨の左半分が浮かび上がってきたらしいんだ。大きさは人間のそれよりもひとまわり小さく、骨だけであったなら、まだ父はおもちゃか何かかと思っていたと語る。
でも、骨のところどころには赤みがかかった肉片らしきものがこびりついてきて、骨もろとも表に出て来るや、鼻をつまんで顔をしかめたくなる生臭さが襲い掛かってきたとか。
ゴミを出して、すぐその場を離れた父だけれども臭いが移ったのか、およそ30時間ほどはみんなに怪訝そうな顔で見られ続けたとか。
そのあと、特に大きな事件などはなかったようだけど、例の砂たちは人から何を集めて不足を補おうとしていたかもわからないままだとか。
そもそも「砂」なのかすらも怪しいね。




