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二角のホラー(習作ばかり)

雪だるまの贖罪

作者: 二角ゆう

本作品は、しいなここみ様主催「冬のホラー企画4」の参加作品です。

キーワードは「こたつ」ですが、“私”は掘り炬燵に入っているだけです。

 場所不明。電波なし。完全に迷子。

 じゃなかったらこんな山の中にいない。


 眩しい真っ白な銀世界に足を取られ、手先も耳もちぎれそうなほど痛い。


 迷子になってしばらく枯れ木の間を歩くこと数時間、木々が途絶えた。


 平地の奥に平屋の一軒家。


 膝まであった雪が玄関まで綺麗に雪かきされて道が出来ている。


 家までの両脇には手のひらに乗りそうな雪だるまが数え切れないほど、妙に揃った間隔で置かれている。


(可愛い……はずなのに)


 シャリリ


 シャクッシャクッ


 シャッ、シャリッ


 雪を何かで移動させている音。


 音だけを頼りに近づいていく。


 肩まである髪を後ろでゆるく結った一人の男性の姿。

 

「おや、こんなところまで大変でしたね。道に迷われましたか」


 男性の仕草はゆっくりとしており優雅にも見える。

 私の雪を歩く音で腰を戻し、顔を上げた。


「えぇ、道に迷ってしまいまして……」

「そうでしたか。これも、すぐに終わりますので休まれていかれますか?」


 私は寒さで赤くなった頬を緩めながら頷く。

 その男性の近くに立って待つことにする。


 こちらを見ずに「ちょっと、兄が出てきてしまいましてね……」と男性は零した。


(お兄さんがこれ、壊しちゃったのかな?)


 何かを埋めているようだ。

 雪を掛け終わると手乗りサイズの雪だるまを作ってその上に乗せた。


「あの、雪だるま、可愛いですね」


 私の言葉に少し困った様子で笑った。


「……寂しくないように……ですね」


(なんだか分からないけど、優しい人なのね)


 私はその男性の後ろをついて家に入った。



     〜   〜   〜



 掘りごたつで凍えた身体をじんわりと温めながら待っていると、男性はお茶と共に戻ってきた。


 出された湯呑で両手を温めると身体がほっとした。


 ここは誰かと住んでいたようだ。玄関には靴箱があったし、家の大きさからしても部屋数がある。


 男性は淀みなく話していたが、波が消えるように穏やかに口を閉じた。


 壁掛け時計の一定を刻む音だけが小さく聞こえる。


 目だけ動かして男性の様子を伺うが、敵意は見えない。優しい雰囲気だった。


 男性は何の気もなしに硝子戸と障子を開けた。


「不味い……吹雪いてきましたね。もしよろしければここで一泊されますか? もちろん私は別の部屋で寝ます。家には私と貴方の二人だけです。それにその手先、凍傷になってしまいますよ」


 障子の隙間から見える横なぶりの雪が泊まることを強く勧めてくる。


 私は静かに頷くと、男性の言葉が妙に部屋に響いた。


「承知しました。家の中を……案内しますね」


(少し声がブレた……? 気の所為よね)



     〜   〜   〜



 結局、泊まることになった。


 家全体に誰かが長い間住んでいた雰囲気がする。

 部屋の奥に洗面所があるようで廊下を歩く。


 一部屋……二部屋……三部屋あった。


(一部屋は両親、もう一部屋はこの人の、そして……もう一部屋はお兄さんの……?)


 三部屋目だけが、胸の奥に引っかかった。

 洗面所の隣がお風呂。

 夕食後にお風呂を沸かしてくれるらしい。


 男性と共に居間に戻ってくる。

 しかし、すぐに立ち上がった。


「夕食の準備をするので少し待っていてくださいね」


 手伝いを申し出るが丁重にお断りされた。


(優しくて礼儀のある人なんだな)


 男性は部屋の出際にぽつりと告げた。


「あぁ、それから洗面所に一番近いのは兄の部屋です。“絶対に”中へは入らないでください」


 その言葉になぜだが分からないが、身体は短く震えた。


(洗面所に一番近い部屋って三部屋目よね)


 私は考えれば考えるほど“兄の存在”が気になった。


 兄の写真は一つもない。

 柱の切傷も一人分しかなかった。


 この家には本当に兄などいたのだろうか。


 それに“部屋に入ってはいけない”。

 死んだ人間の部屋なのにどうして立入禁止にするのか。

 存在を隠さなければいけない、何か。


 身震いすると、途端にトイレに行きたくなった。


 足音を立てないように廊下に出る。

 台所からは包丁の小気味よい音が聞こえる。

(何も考えないように……考えないように)


 トイレから出ると、例の三部屋目の側で足を止める。


 心臓が大きく鼓動している。

 周りを必要以上に確かめる。

 人の気配はしない。


(いや、さっき“絶対に入るな”って言われたし……)


 わずかに開く隙間が私を呼ぶ。


 襖に手をかけ、慎重に横へと引いていく。


 部屋の中が見えた。

 畳に窓、調度品は一切ない。


 それに正座した髪の短い男性。

 こちらを見ているが、視線は合わない……?


 何かが迫り上がってくる感覚がした。

 首を絞められたように息苦しい。



 ぞわり。



 背中に悪寒が走る。


 気づいた時には遅かった。


 人の気配だと気がついて、振り返る間もなく頭には強い衝撃がきた。


 自分の身体じゃないみたいに頭は振り下ろされた。


「……違う。

 入れるな。



 兄さん、ごめんなさい!


 

 増えた。

 処理しろ。



 兄さん、ごめんなさい。

 ごめんなさい」


 声が、重なっていた。


 視界が黒くなっていく……。


 残された視界で捉えたのは先程の優しかったはずの髪の長い男性の姿だった。



      〜   〜   〜



 シャリリ


 シャクッシャクッ


 シャッ、シャリッ


 乾いた固い音が絶え間なく聞こえる。

 薄っすら開いた瞳で周りを探る。


 視界は真ん中に小さな空。


 頬に落ちた白い欠片が冷たさを知らせた。

 それが雪だと教える。

 周りには、真っ白な雪、だけ。



「兄さん、ごめんなさい。


 兄さん、ごめんなさい。


 兄さん、ごめんなさい」



 小さく聞こえる懺悔の声。


 (あなたは一体誰なの?)


 朦朧とし始めた意識の中で目の前の髪の長い男性に問う。


 あぁ、私が見たのはこれだったのか。


 雪に埋められて、その上に──私が見た小さな雪だるまを乗せるのだろうか。


 数え切れないほど立っていた雪だるま。


 雪が解けて春になったら、どんな景色が見えるのだろうか……

お読みいただきありがとうございました。

狂人も怖いですが、普通っぽい人が普通じゃなくなったのを垣間見るのも怖いかなと思ったので(^^)

誤字脱字等ありましたら、ぜひご連絡ください!

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― 新着の感想 ―
食い足りなーい! もっと食わせろლ(´ڡ`ლ) 途中まで丁寧ですごく良かったのに、食い足りませんでした。
『好奇心は猫をも殺す』ってやつですね。これで『されど満足すれば元通り』となれば好いのですが果たしてそれだけの価値が真実に有ったのか。 『薮をつついて蛇を出す』っていうのが正しそう……。  動機はともか…
そんなっ。Σ(-∀-;) 中入っていないのに……。 なんて理不尽なっ!? せめて入ってから、処して下さいよー。 部屋の中が、気になり過ぎて おちおち死んでいられません。
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