表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
バレンタイン特別章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/57

チョコレートはツチの中④

「ンで? あの三つ目はなんなんだ?」

「わかりません。……あの、渋い顔しないでください。僕も本当にわからないんです」


 俺は山瀬さんに連れ込まれ、近場のカフェにて作戦会議を行なっていた。今まで入ったことのなかった、若者が好きそうな雰囲気に心を潰されそうになるが、そこは()()()()()()を噛み締めるように味わって耐える。

 そんな俺を気遣ってか知らずか、山瀬さんが主導して会話を進める。


「ま、なんであれ祓えばいいだろ。陰陽師なんだし、出来ンだろ?」

「出来る……とは思います。ただ、簡単に引き剥がすことは出来ないんです。その……座敷童子的なアレの可能性もあるので」

「ねェだろ、あんなバケモン」


 そうは言っても、判断がつかないというのが現状だ。……いやまぁでも、祓ってしまえばプラマイゼロではあるし、最善手は何もかも無視しての祓魔なのだろうが。


「……なァ、ソラよ。何にビビってんだオメー?」

「え……?」

「見習いとはいえ、陰陽師なんだろ? ンなら、妖怪退治が仕事なんじゃねェんか?」


 それはちょっと違う。まだ仕事ではない、というのが正しい。俺は神祗専門学校にも通っていなければ、陰陽師としての活動は今日が初めてだ。


「オメーはウチの彼女を助けるために尾行してんだろ? ンなら、別に躊躇う必要はなくねェ?」

「……え、でも……」

「デモもテロもナニもねェよ。仕事ならやれよ、陰陽師」

「ひぅ」


 イラついた声音で山瀬さんは言う。

 心臓が萎んで窮屈になる。やっぱり怖いよこの人。


「ったく……ん?」


 と、ピロピロと電子音が聞こえてきた。山瀬さんのスマホからだ。


「ハイもしもし? おお京子(けいこ)か、どうした? ――は? おいちょっと待て、いきなり何言って……京子? 京子!?」


 平然としていた山瀬さんは、恐らく向こう側から通話を切られたのだろう。しばらく俺の頭には疑問符が乗っていたが、一睨みされると再び縮こまる。

 そんな俺を知ってか知らずか、ふい、と目を背けた山瀬さんは立ち上がり、おもむろに財布を取り出した。



「……付いてこい、陰陽師。お前の決断の結果を見せてやる」



 その低い声音に、俺は途方もなく嫌な予感を感じた。



◆◇◆◇◆



 ピーポー、ピーポー。

 サイレンの音が、耳をつんざく。場所は高級マンション下の地上1階。

 大量のパトカーや救急車、そして消防車など緊急車両が並んでいる中を、俺と山瀬さんは歩いている。


 もうこれだけで嫌な予感がしたが、俺は目を背けることなく前へと進む。マンション下のアスファルト。そこはブルーシートが張られており、一般人では立ち入りできない。


楯無(たてなし)京子(けいこ)の彼氏だ。最後に電話をしたから、状況確認のために来た。後ろのやつ? 俺の連れで、京子とも面識がある」


 慣れたように警官に話を通し、ブルーシートの中へと案内される。


「っ……!」


 死体と思しきモノは無かった。代わりに、赤い液体が染み込んだ、アスファルトが間に入った。

 俺が言葉を失って立ち尽くしていると、紺色の外套を羽織った警官が、俺たちに近づいてくるのがわかった。


「山瀬高雄。()()()()()

「……っス」

「お前さん絡みの自殺件数が、ここ五年で六件。これでお前が関わっていない、ってのは無理があるぞ」

「俺じゃねっスよ」

「ああ、そうだな。お釈迦さんのスマホの履歴には、お前から酷い仕打ちを受けた、なんて妄想できるモンも出なかった。今んところ、お前さんは白だよ」


 ここ五年で六件……今みたいな事件が? 今の状況は、恐らく飛び降り自殺と仮定すると、この人……山瀬高雄は、関わりのある人を五年で六人も亡くしているのか? 呪われてるとか、そんな次元じゃないぞ……?


「……ん? そっちの坊主は?」

「俺の連れだ。京子とも面識があってな」

「そうか。災難だったな、坊主」

「……いえ」


 面識はあるけど、関わりはない。だからショックも人一倍少ないが、それでも心に来るものはある。


「――警部、遺族の方々が警察署に到着されたそうです」

「そうか。なら安置所の方は、向こうの警官に任せる。俺たちは撤収作業を始めるぞ」


 ブルーシートやライトが片付けられている中で、俺と山瀬さんは邪魔にならないように現場から離れる。

 現場から少し離れた交差点。赤信号を待っている最中、山瀬さんは俺に向け、奥歯を噛み締めるように言う。


「きちんと見たか、陰陽師。これがお前の優柔不断の結果だ」

「……」

「お前が、迷わずあのバケモンを倒しときゃ、こんなことにはならなかった。それをしかと胸に刻むんだな」


 カッコー、カッコー。障がい者用の音響装置が鳴る。離れていく山瀬さんの背中を見ながら、俺は一歩を踏み出せないでいた。

 そんな俺に、山瀬さんは振り返って言う。



「じゃあな。彼女を守れなかったなら、もうお前に用はない。せめてお前は生きろよ」



◆◇◆◇◆



「……」


 トボトボと歩く帰り道。

 電灯の少ない住宅街の脇道を歩きながら、俺は鼓動でうるさい心臓を落ち着かせていた。


 彼女……楯無京子と言う女性は、状況判断になるが、恐らく三つ目の妖に殺された……或いは自殺するように仕向けられたのだろう。


 だとしたら、何で?


 あまりにおかしい点が多い。

 何のために? ――人が死ねば、それで食事は終わりだ。

 誰が得をする?――人が死んで得をするのは、妖くらいだ。

 どうやって? ――感情操作……意識操作なのか?


 吸血鬼や袖引き小僧、ハーメルンの笛吹きのように、人の意識に干渉できる妖はいるが、その類に属する妖なのだろうか?

 ……ダメだ。わからない。師匠に尋ねるのが、一番確実な気がしてきたな。


「ふぅ……」


 ともかく、今日は体と心を落ち着かせなきゃ。


 ブロロ、と道の脇を歩く俺の隣を、一台のパトカーが通りかかる。パトロールだろうか。こんな夜更けなのに、大変だな。

 なんて思っていると、そのパトカーは俺の隣で止まった。不審に思っていると、窓が開いて……


 ……あ、まさか補導?


「やあ」

「……あ。さっき、現場にいた」

「キミに用があってね」


 先程は気がつかなかったが、関西の方言が利いた喋り方の警官だ。片手を小さく上げて俺に挨拶する。


「さっきのお釈迦さん――楯無京子に憑いていた妖、まだあそこに残っとるよ」

「…………え?」

「なんや、気づいとらんかったんかいな。事件が起きたマンションの屋上――あそこにまだおるで」


 あ。そうか。妖にとって、死人ほど無価値な存在はない。無価値になったなら、他の人間に憑くのが常識だから、まだ時間が経ってない今、あの三つ目は飛び降り場所に……いや待て。その前に、この警官は何なんだ?


 俺の不安を他所に、ガサゴソとパトカーの中を物色して、「ほれ」と少し重みのある小槌(こづち)を手渡してきた……小槌?


「それ、楯無京子の遺物なんやけどな。ちっと危険物やなと思て、勝手に取ってきたんや。……それ、呪われとるで」

「呪われてる?」

「おう。多分、その小槌が楯無京子に憑いていた妖の発生源なんちゃうか? ほれ、言うやろ? ()()()()()()()()()()()()()()って。それ、火元ちゃうん?」


「――あ」


 俺はその言葉を受け、歩いてきた道を戻り走った。

 急に走り出した俺を見て、パトカーの窓から顔を出した関西弁の警官は、はんっと鼻を鳴らしてハンドルを取った。


「……ほんに、世話のかかる後輩やなぁ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ