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悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
2章 将門夜行編

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44話 天地衝突

 緊急伝達、緊急伝達。司令部各員に伝達。

 新宿中央公園を中心に、巨大な神秘(アンチマテリ)領域(アルフィールド)が出現。

 都市を覆うクラスの“力”の放出……市街級の霊力放出を確認。形状……反転総図……いや、違う。

 反転総図ではない、けれど何かしら固形物質に影響を与える恐れのある形へと変貌を開始。

 平将門の展開物と想定する。放出された霊力は新宿中央公園を覆い、青梅街道まで拡大中。


 ……出現元は平将門ではなく、安房梁所属の高校生? 何を言っているんだ? 成人前の陰陽師が、そんな出力を持つわけが……

 アレはそういうモノ? 気にしなくていい? ……委細承知した。これより、この神秘領域は敵方のものではなく、陰陽師のモノとして計測を開始する。



 緊急伝達、緊急伝達。司令部各員に伝達。

 手の空いている陰陽師は、新宿中央公園へ急行せよ。及び、該当の陰陽師・高原(ごうはら)(そら)の支援――暴走次第では捕獲・処理を遂行する旨を、各陰陽師に伝達せよ。

 可能であれば、平将門を打ち取れ。


 繰り返す。緊急伝達、緊急伝達――



◆◇◆◇◆



 軋む、軋む、軋む。


 芝生公園中央付近から展開される神秘領域は、空間を軋ませる音を発しながら、パチリパチリと電気の弾けさせている。

 空気摩擦か或いは別か。要因が何であれ、俺を取り囲むこの青い放電は間違いなくこの世のものではないと言い切れる。


 ……少し過言だったか。恐らく、この青い放電は俺の知識にないだけで、何かしらの自然現象なのだろう。

 だが俺の“力”解放と同時に現れたところを見るに、俺に害をなすものではないと推測できる。ならば無視だ。


「…………当代の呪いの器、その本質は陰陽師と見ていたが……」


 シトナイの霊力放出を切り払いながら、黒甲冑は言う。声は静かに。しかし厳かなまま――


()()()()()。女狐め、余計な真似を」


 ――険しい殺意を解き放つ。

 その殺意がすべて、俺に注ぎ込まれる中で、俺は……


「……」


 不思議と、穏やかな気持ちを保っていた。

 怒りも、焦燥も、侘しさもない。

 心にあるのはただ一つ――得体の知れない殺意だけ。


「……ふぅ」


 ガクン、と膝が折れそうになる。なるほど。これが“力”の欠乏か。相当、無理をしたようだ。少し関節が痛い。頭がぼーっとする。集中力が切れそうだ。


「立てるな、よし」


 でも、立てる。立てるなら、十分だ。

 この足さえあれば、後は何とでも――



 ――風が、吹いた。



 俺の心をざわつかせる。惚けていた頭を覚醒させる。悪寒さえ感じる【威圧】の風。

 だがこれの効果対象は、恐怖を抱いている相手にだけ。俺にはまったく効果はない、どころか起床を促すだけであったが……


「――起きたか?」

「――ああ、バッチリだ」


 目が覚めた。仮眠を取る必要は、もうない。ならばこの後はどうするか。


 ……俺は、一歩踏み出した。



◆◇◆◇◆



 衝突は、その後すぐだった。

 肉薄した黒甲冑の逆袈裟を天は見切り、虚空を舞った腕を掴んで背負い投げ。これを受け身で耐えた黒甲冑が蹴りを繰り出すが、天は対応する足でそれを止める。


 何故これほど動けるのか。根本的な理由まではわからないが、恐らく放出された霊力の効果だろうか。

 体力と身早さが、山を登るだけで疲弊していた天とはまったくの段違いだ。


 明美はその攻防を注視しながら、地面に平伏すノーラに駆け寄った。


「ノーラ、無事!?」

「ええ、ごめんなサイ……転がされた時に、少し恐怖を抱いちゃったみたい……」

「【威圧】は時間経過で治るわ、それより教えて。あの黒甲冑は何なの? 本当に将門公なんでしょうね?」

「……」


 明美の問いに、ノーラは黙り込んだ。組織的な秘密か? だとしたら、日本に持ち込まれた外患、ということになってしまうが……


「はぁ……ま、隠してもイイコトはないですね。ええ、あれが私の追っている邪神……外宇宙由来の神擬きが持つ、化身の一つです。悪心影(あくしんかげ)と呼ばれるモノですね」

「神の化身……アヴァターラみたいなモノ、ってことね?」

「アジアの方々が崇拝する神とは、色々と相違点が多いですけどね……もちろん、我々が崇拝するアース神族とも違うものですが」


 付け足すように言うノーラ。アゥサトゥルーが多神教である以上、確かに怪しい点はあるが、別に疑っているわけではないので、そこは無視する。


「私は外宇宙由来の存在から、地球を守護する組織に所属する邪神ハンターの一員なんです……お姉様、嘘は良くないよ。一員、じゃなくて三員ね」

「……ん?」


 口調が変わった。必要以上の情報は、整理のためにカットしようと思っていたが、これは無視できない。


「……ごめんなさい、妹が出しゃばってしまって。話を続けても?」

「続けられるわけ……! ……ないけど、一旦我慢するわ。続けてちょうだい」

「寛大な配慮、感謝します」


 呪いか何かだろう、と定義付ける。これ以上の詮索は、無用な混乱を生むだけだ。死地においての混乱は、自死以外の何物でもない。


「とりあえず、今は倒す方法ですね。……あの男の子が、何かしら狙ってそうではありますが、とりあえずそれは置いておいて。史実の将門像を見るに、眉間を射貫くのが弱点となり得るでしょう」

「藤原秀郷の弓ね。……でも、ここに弓はないわよ?」

「ここでは『眉間を射貫く』という行為が大事になるので。弓でなくとも、射貫けるならば何でも。それこそ銃でも投擲武器でも、射貫けさえすれば退治は可能でしょう」


 遠距離武器か。それならば、ないことはない。式神でも陰陽術でも、方法はいくらでもある。


「わかった。わたしも狙ってみるけど、アンタも復帰したら加勢しなさい」

「ええ、もちろん。……そろそろ、【威圧】? が解ける頃ですからね……」


 ぐぐ……、と力を込めながら起き上がるノーラ。

 明美は天と黒甲冑の肉弾戦を見やり、符を用意した。



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