37話 脳内会議
4/13 23:59。
百鬼夜行発生。
戦闘記録開始。
【新宿中央公園】
現対応者 安倍鵬明/安倍明美/高原天
想定対応者 ノーラ・シュリュズベリイ
占卜 倉橋巴
遭遇対象 百鬼夜行首魁・平将門
戦闘開始時刻 25:16
【明治神宮】
対応者 卜部晶斗/卜部晶/長門英二
遭遇対象 餓者髑髏
戦闘開始時刻 24:48
【日比谷公園】
対応者 安倍泰明
遭遇対象 女郎蜘蛛
戦闘開始時刻 24:46
【浜離宮恩寵庭園】
現対応者 芦屋咲/賀茂保正
想定対応者 賀茂保安
占卜 土御門清栄
遭遇対象 河童
戦闘開始時刻 24:36
【同時発生事案/討伐確認/討伐者】
・秋葉原公園 百目鬼 ――ノーラ・シュリュズベリイ
・東京大神宮 鎌イタチ ――安倍鵬明
・戸山公園 大蜘蛛 ――斎藤友道
・港区増上寺 一本だたら――賀茂保安
以上四件、討伐完了を確認。
以下、戦闘未発生、または討伐未確認の妖異を記載する――
◆◇◆◇◆
――困った時の、神頼み。
足を食われたあの日。
神はいないと感じたはずなのに。
人魂に焼かれたあの時。
神はいないと断じたはずなのに。
俺は今も、未練たらしく願っている。
過去も、今も、恐らく、未来も。
……俺は――
――キィィィン、と。
頭に響く、音がした。
◆◇◆◇◆
「――ぅ、だっ、ダァっ!」
「……シトナイ……?」
ぺちぺちと顔を叩かれながら覚醒する。
何か、誰かに起こされた気がするんだけど……
……頭が、少しぼんやりする。
今は何時だ? ここは何処だ?
そこまで考えて、俺は土の上で寝転がっていることに気がついた。
「……そうだ、戦闘!」
確か、鵬明爺が将門霊に一撃入れたところで、風が吹いて……それで――
――と、俺の手に何かが当たる。
俺は反射神経に釣られて、当たった何かに視線を向ける。
「……師匠!?」
そこには、仰向けに倒れた師匠の姿があった。
まさか死んでるわけじゃないよな。
俺は耳を近づけ、師匠の呼吸を確認する。
「――すぅ」
安定した呼吸が聞こえた。
外傷もなさそう。
ひとまず安心はして良さそうだ。
「……ふぅ」
だが、安心は出来ない。
そうだ、鵬明爺と黒甲冑は……
「さすがは平安武士! 身体能力がバケモンだな!」
「…………」
「なんだ吊れんな、話くらいせい!」
「…………」
刀に拳でやり合ってる……え、拳で? 鉄の刀と? どんな身体してんの?
……いや、そんなことはどうでもいい。問題は、どっちが優勢か、ということだ。
聞くところによると、鵬明爺は一秒間に六回の打撃を繰り出せるという。
見た感じだと、かなり的を得ている攻撃を仕掛けているが、相手もそれを完璧にいなしている。
だが、いなせてるからとは言え、それで攻撃に転じられるかといえば難しそうだ。
一言で言えば、膠着状態と言った方がいいだろう。
相手は完璧な防御、こちらは的確な攻撃。
後はどちらが先に体力が尽きるか、ということなのだろうが……
「…………」
仮定の話をしよう。
戦争のない時代の陰陽師と、日夜戦いに明け暮れた武士。体力勝負となった時、どちらが勝つかと問われたら――
「まずいな」
――俺なら躊躇なく、後者を推す。
「シト――」
『――待って!』
「――ナイ?」
呼ばれたと思い、振り向いたシトナイを見ながら、俺は感情的に出そうになった言葉を噤む。
鼓膜ではなく、脳内に響く声を探して、俺は周囲を見渡した。
『高原くん、聞こえる? CQ.CQ……こちら倉橋巴。聞こえたなら、速やかに応答して』
倉橋? どこに……いや、どこから?
『はぁ、やっと起きた……こちら霞ヶ関陰陽庁舎の司令室。そこで戦闘が発生してるわよね? 私はその占卜……つまりオペレーター。OK?』
……オーケーわからん。けど信じる。
そうだ、冷静になれ。俺、師匠、鵬明爺の中で、最も強いのは誰だ。鵬明爺だ。
その翁が、あれだけ押しても倒れない黒甲冑に、俺が突貫して勝てるのか?
『……高原くんの思考処理速度、すごい早いのね。考えるのは少し遠慮してくれる? 私の頭がパンクするから』
あ、ごめん。
『とりあえず戦況報告をお願い。近くに一人倒れてるのは確認出来るけど、明美さんよね?』
そう。芝生広場で戦っているのは、鵬明爺と黒甲冑だ。優劣はわからないけど、多分やり続けたら負けると思う。
『なるほど。じゃあ、まず明美さんを起こして。話はそれからしよう』
え。あ、うん、そうだね。
「師匠。起きてください、師匠! 風邪引きますよ! ほら、シトナイも起こして」
「うぅー!」
「……うむ……なんか、ほっぺ叩かれ……シトナイ?」
「たーっ!」
「シトナイ、もうやめて。起きてる、師匠もう起きてるから」
ぺちぺち両手で叩き続けるシトナイを離した。
『……考えなくていいって言ったでしょ』
ごめんなさい。
『はぁ……戦闘時はしょうがないけど、日常的には気を付けなよ? 思考を読み取る妖だっているんだから。……それで明美さん、聞こえますか? 占卜の倉橋巴です」
「オペレーター? 随分と遅いわね。今回はいないのかと思ったわ」
『ごめんなさい。担当者が不在だったために、三十分ほど前に開始された戦闘のオペレーター代役を務めていました。あと朗報です。援軍が其方に向かっています』
「……誰? 賀茂? 土御門?」
『ノーラ・シュリュズベリイと名乗る少女、と伝えられましたが、その他の詳細は伝達されていません』
外国人? こんな緊急事態にわざわざ顔を出してくるのか。助っ人を自称しているのなら、陰陽庁に関連する人物……とは到底思えないけど。
……と。俺が二人の会話を黙って聞いてると、明美に服の袖を引っ張られた。
「……?」
口を開いて、トントンと下唇を叩いている。
……ああ。
「声に出さないと、お互い何を言ってるのかわからないですもんね」
「ええ。あと他家に知られたらまずい機密事項とかも、間違っても頭の中で考えないように」
「あ、はい」
割と本当に何もないんだけど、それでもか。
『ちなみに高原くんの思考はすごい頻度で流れてくるので、秘密事は本当に気をつけた方がいいですよ。考えてから動くタイプなんですかね。あ、ほら今も』
……やめて。それ以上はやめて。
ほら、師匠がすごい目でこっち見てきてるから!
「ともかく、オペレーターの……ええと」
「倉橋巴さんです」
「そう、倉橋さんだったわね。敵の詳細な情報をもらえる?」
『了解しました、こちらで確認できる情報をそちらに送ります』
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個体名:平将門
ステータス:悪霊?
身長:176センチ
体重:10キロ
国籍:日本
特徴:黒い和製甲冑の所々に鋭い牙、揚羽蝶紋
特記事項:空を跳んでの移動を見るに霊体のはずだが、刀によって斬られた事例が発生。恐らく"力"の密度が高い故の物理的現象と考えられるが、このような事例はワイルドハントや悪魔召喚のように、欧米で見られることが多い事例のため観察が必要。
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「……なるほど、悪霊だとは断定できないわけね?」
『はい。司令室内では九割九分悪霊だと思われていますが、相手は推定日本の大怨霊です。霊力放出のように神秘密度が高いが故の相互作用過密現象だと考えられますが、「これだ」と断定して戦うよりも想定範囲を増やして戦う方が、遥かにリスクが少ないと判断しました』
「了解……高原くん」
「あ、はい」
「戦闘プランが出来たわ。シラフじゃないお爺様をずっと戦わせるわけにもいかないし、そろそろわたしたちも参戦するわよ」
『此方でも内容を受諾しました。高原くん、がんばれ』
「……え?」
俺、頑張るの?




