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悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
2章 将門夜行編

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36話 新宿中央公園の戦い

「いやぁ、楽しい事になって来たなぁ」


 三十層もの階を跨ぎ、酸素も薄くなり始める地上二百四十三メートルの、さらにその上。

 東京の夜景を一望できる東京都庁の屋上に、今回の件の火付け役はいた。


 その相貌は黒いローブで隠され、風に吹かれても尚、その貌は露わにならない男。


「三つ巴の大決戦……くっ、ふふっ……いやぁ、胸が高鳴るねぇ」


 平将門率いる百鬼夜行。

 総数百四十二の陰陽師。

 そして、我ら第三勢力。


 三つの勢力が覇を競い、ひとつは護るため、ひとつは壊すため……互いの力を押し付け合う。


「ふは、ふはは、ふははははは! なんて、なんて熱い闘争! 醜い競争! 見苦しい紛争! これが人類! これが、オモシロおかしい生命体の真骨頂か!」


 高らかに笑う彼を知る者はいない。なんせ貌がない。


 見えない――というわけではない。

 何故か?


 ビュオッ! と吹いた風に揺られ、ローブのフードが捲り上がる。



 ――そう、()()()()のだ。



 目も耳も鼻も口も。

 毛も垢も皺もない。


 まるで漆黒の仮面を付けたような、地球にあって明らかな異質物。

 それが今の彼だった。


「防衛のため? ()()の解明もせず、まずは見える異物を薙ぎ倒す、か……ふはは滑稽!」


 それは人間への嘲笑か。あるいは喝采か。

 顔のない()は、パチパチと拍手する。


「いあ! いあ! やはり人間は愚かだ! これだから面白い! 見ていて飽きない! 愛でるべき対象だ! 愛する相応しい! ……ああ、そのためには――」


 ぎろり、と。

 もしも瞳があったのなら、そんな効果音が付くだろう動作で、彼は足元の新宿中央公園に頭を傾ける。


「――ああ、余りにも惜しい。キミには消えてもらわねばならない。我らと同じく人類を愛するキミ。愛するが故に、我らと袂をわかったキミ。……残念だよ」


 失望にも似た低音の声。

 また、風が吹く。

 今度は突風どころではない、台風のような竜巻が、都庁の上空に吹き荒れる。


「お望み通り、人類の手で死ぬといい。キミが死のうが生きようがね――」


 姿が消える。

 そして言い残された言葉は、銀杏(イチョウ)のように朽ちていく。



「――もう、()()()()()



◆◇◆◇◆



「……あの、師匠」

「……なによ」

「確か、敵の首魁って平将門、でしたよね?」

「ええ、そうね」

「……()()、じゃないんですか?」

「…………」


 新宿中央公園・芝生広場。

 区民センターや新宿ナイアガラの滝が見えるこの広場にて、明らかに身体が半透明の黒甲冑がいた。


 時刻は、二十三時四十五分。

 あと十五分もすれば、日付変更線が襲来する。つまり夜更かしの時間である。

 一般の高校生にとっては、これからが本番の時間なのだろうが。生憎と、最近は早起きばかりの陰陽師にとっては辛い時間だ。クソ眠い。


 しかしそうも言っていられない。

 なんせ相手は自衛隊と交戦した侍。しかも勝ってここまで来たという。ふざけろ。


「……どうやって戦う……いや、そもそも戦うようなヤツなんです?」

「戦わなければいけないのは、そうでしょうね」

「でも、全然攻撃して来ませんよ?」

「……そうだな」


 師匠は兎も角、鵬明さんまで首を傾げている。そう、なんせ全然敵対して来ないのである。

 桜の木の下に立つ黒甲冑は、俺達が目の前に立っても、ピクリとも動かない。これは何かあったか? と思った俺達は臨戦体制を解除していた。


「敵対行動を取っていないことが、この霊の行動理由になっていない、というところか? 特撰部隊との戦闘記録も、まず特撰部隊からの攻撃から始まっていたからな」

「……だとしたら、大手町で殺されたっていう陰陽師は、どうなるんですか?」

「うーむ……今の所、それがノイズなのよな。……敵対行動に起因しないとするなら、もしや今は回復行動を取っているから、になるのか?」

「だとしたらヤバくないですか?」

「うん、ヤバいわね」


 立ち惚けているこの黒甲冑、回復してるから動けない説。

 ……だとしたら奇襲攻撃するべきなのだろうけど、もし敵対行動起因で戦闘が起こるなら、と考えると攻撃するのがもどかしくなる。


 と、俺がどうするか迷っていると、鵬明が徐に拳を掲げて言った。


「ふむ、どうせ戦いは必定なのだ。攻撃するが得策と見た!」

「え、お爺様?」

「止めるな明美、そして今すぐに下がれ! もし死んだら安倍家の今後は頼むぞぅ!」

「いやちょっと待って、もう少し考えてから!」

「酒に呑まれた頭に、問答は無用!」


 ……あ。

 振るわれた拳が、メキョ、と変な音を立てて黒甲冑にめり込んだ。

 鉄ってあんな音するんだ、と思考が停止している俺の腕を、焦った表情の師匠が引いた。



「――何者だ」



 脳に直接響くような低声(おと)

 ガンガンする頭を押さえながら、俺と師匠は近くのガーデンテラスへと撤退。

 離れた位置にいるはずの黒甲冑の声は、低い音を保った鼓膜に響いた……気がした。


 それを真正面から受けた鵬明は、しかし「カッカッ」と高らかに笑って言う。


「――安倍鵬明。ちょっと強めの陰陽師だ!」


「陰陽師……ほう。つまり――」






「     敵    か     」



 ――瞬間、風が吹いた。



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