34話 Whodunit?
CQ, CQ. Do you copy?
Forgive my Earth language.
Hello, Captain Gagarin.
At last, I've reached the cosmos.
You were right, after all.
The Earth was blue.
――And there was no God.
It was the Patriarch who was wrong.
――Dear Sir, From beyond the Earth.
◆◆◆◆◆
東京都千代田区大手町。
2000年代から今も再開発が進むオフィス街に、その墓はあった。
右も左も高層ビルばかり。
多くの人が行き交う街の中では、その墓の存在は如何にも異質であった。
将門塚。別名、将門の首塚。
日本三大怨霊の一角・平将門の首が眠るとされる、浅草寺にも比肩する東京都最大の霊地である。
景観が悪いとして壊そうとしたGHQのブルドーザーが横転し、運転者は投げ出されて死亡するなどの事故が発生。
それまでにも、将門塚を破壊しようとするものの悉くは破壊され、あるいは地中深くまでに落ちていった。
地盤が緩いのか、あるいは祟りか。
それらの結果、高層ビルが林立するコンクリートジャングルとなった大手町にあって、今も崇敬されているのである。
そこに一人、夜遅く。訪れる者がいた。
「やぁ〜……まさか、ここまで手厚く埋葬されているとは。さすがに笑っちゃうね」
街灯に照らされるシルエットこそ人間だが、生憎、顔も体も隠されている。さらに声も中性的であるために、性別もわからない。
ここでは”彼”と呼称しよう。
彼は人の気配のない将門塚の前に立つと、カラカラと何がおかしいのか笑っていた。
「あの堅物は、嫌な呪いを振り撒いたのか、それとも本当に人の役に立ったのか。う〜ん、どうでもいいけど、そろそろ姿を現してくれない?」
軟派に言う彼に誘われたか、春一番にも匹敵する突風がビュオッ! と吹いた。
風に目がやられ、少し長い瞬きの後に目を開けると――そこには、黒い甲冑を纏った、半透明の侍らしき男が立っていた。
「やあ、やっと出てきてくれたね! 待ってたよ、きみを迎えに――」
「 帰れ 」
――男の言葉は、端的だった。
たった一言。それだけで、彼の言葉を切り裂いた。
しかし彼もまた、男の言葉の真意を汲み取ったのか。
飄々とした雰囲気は薄れ、言葉の重みが増す。
「――正気かい? 僕たちを敵に回すと?」
「是」
「へぇ、やる気なんだ。勝てると?」
「再、是」
「ふーん。個人的には面白いけど、本体は笑えないと思うよ? なんせ――」
「是」
そして、問答は終わった。
彼は何も言わず、男に踵を返す。
「後悔するよ?」
「否」
「あっそ。じゃあ頑張って」
再び、突風が吹く。
東京都千代田区大手町・将門塚にて。
相対していた二人の影は、夜闇に消えた。
◆◇◆◇◆
「……ふぁふ……」
リストバンドの呪いのせいで溜まった疲れを、風呂で一通り流した後、俺は居間でスマホをポチポチ待ちぼうけていた。
俺は身体の汚れを落とし切っても、相棒のシトナイは未だに出ていない。
出ていないなら待つ。それが日常になりつつあった。
陰陽師の存在を知って早数ヶ月。
そして、式神を召喚して一ヶ月が経とうとしている。
この生活にも慣れたものだ、と言いたくあるが。やはり数年染み付いた引きこもり癖は、未だに治らない。
何かあれば自室に引き篭もる。
休日なんかは外には出ない。
……これに関しては、高尾山の麓などという田舎の影響がモロに出ていることが、一因にもなってはいるけれど。
けれど、電車に乗って何処かに行こう、なんて考えも湧いてこないのは重症だ。
「……あ、長野山荘の失踪事件。見つかったんだ」
昔、どこかで伝え聞いた遭難事件の続報。
遺体となっての発見だそうだが、どうやら見つかったらしい。
結果としては、決して良くはないのだが、未来永劫見つからないよりはマシだろう。
どうやら崖から落ちての転落事故らしい。南無。
「出たわよー」
「だぁー」
「お、シトナイ、お帰り。あと師匠も」
「も、って何よ。ついでみたいに言わないで」
「う!」
ぴょんこ、と師匠の肩から飛び跳ね、一回のジャンプで俺の元までやって来た。
そして、まるで「ダメだよ」とでも言うように、俺に小さな人差し指を向けて来た。
「ごめんなさい」
「分かればよろしい。で、何を見てたの?」
「ネットニュースですよ。例の失踪事件、見つかったらしいです」
そう言ってスマホの画面を師匠に見せる。
「へぇー、良かったわね。これで成仏できるじゃない」
「そうですね」
「不思議な事件ではあったのよね。狐火が出てたって話だったけど、こっか――」
そこで師匠はハッと口を押さえた。
どうやら俺のことを気遣っているらしい。別に気にしてないのに。
「そうでしたね。黒環さんの関与が疑われてたんでしたっけ?」
「ええ、そうね……、……その、気にしないの?」
「え? ああ、精神的な話ですよね? はい、まぁ、別に。俺はまだ、裏切られたとは思ってませんので。名前を出されただけでは、そこまで」
いちいち反応してたら疲れる、というのは東京に来て覚えた教訓だ。
山姥の悪霊め。何度も俺の身体をスカスカして来やがって。ウザったいんだよ、あれ。
「そ。……今日は疲れたでしょ、早く寝なさい」
「はい。そうさせてもらいます。行こう、シトナイ」
「だッ!」
元気よく返事するシトナイを両手で持ち上げ、俺は居間を後にしようとする。
――ビーッ、ビーッ!
突然の警報が鳴り響いた。
「「っ!?」」
警報音はスマホから。緊急地震速報かと一瞬疑ったが、しかしどうにも音が違う。
二、三度ほどスマホがバイブした後、機械的な音声が居間の中で鳴り響いた。
『東京都内、および近郊に所在する全陰陽師に通達。至急、東京都千代田区大手町・皇居近郊に急行せよ。繰り返す――』
「師匠!」
「ええ、わかってる。――爺や、車を出して!」
陰陽庁によってインストールされたアプリ、陰陽師専用のアラーム。
通知をオンにしていれば、陰陽庁からの緊急連絡を、機械音声で耳に入れてくれるアプリである。
これが鳴った、ということは――
「千代田区……しかも皇居近郊って、かなり戦いづらい位置ね……もしかしたらアンタが出会したっていう、人魂が関係してるかもね」
「そうですね……」
――相当な緊急事態だ、ということだ。




