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悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
2章 将門夜行編

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30話 熱は冷めて

 肉薄は、その後だった。

 俺が逃げるよりも速い速度で飛来する人魂は、首筋まで来ると熱を上げ、俺を焼き焦がそうとする。


「あッツ!?」


 反射神経を全開にし、俺はパッと低姿勢になって熱を避け、次に飛来する二個目の人魂を横に躱した。


「何体いるんだ!?」


 一体だけなら兎も角、人魂が何体も熱を持って来るなら話は変わる。

 避けるにしたって限度がある。十体同時とかされたら、此方としては打つ手がない。数は最強の暴力だ。


「シトナイ! 何体いるか教えて!」

「うぁ……」

「どうしたあッツァ!?」

「う! あ!」

「あッつつ……数えきれないとか!?」

「ダッ!」


 正解らしい。最悪の答えを引いた。

 敵は、炎を使った物量作戦。

 ……待てよ。統率が取れた、作戦的行動ということは……


「……術者は!?」

「う……」

「まさか、いない?」

「……ダッ」


 まじか。じゃあ、この人魂はなんなんだ?

 考えられる可能性は二つ。

 不可思議な自然現象か、区を跨ぐレベルで超遠距離の術行使。


 ……あり得ない。どちらもあり得ない。


 まずメリットがない。

 他区から千代田区に向けて術を使うとして、見えない区域で成果を挙げられるわけがない。


 次に方法がない。

 超大規模な霊地……富士山や伊勢神宮の本殿に入らなければ、超遠距離の術行使なんて不可能だ。


 ……不可思議な自然現象?

 不可思議、と枕詞が付いている時点で、不可能だと断じるべきだろう。

 たまたま起こったとしても、これほど人に攻撃的な自然現象なら、もっと大規模に起こるはずだ。


 台風や地震などの例を鑑みるに、間違いなくこの人魂は自然現象ではない。


「くっそ……まじでわからん!」


 天災と人災。

 そのどちらにも当て嵌まらないとなると、知識不足の俺では流石に思いつかない。

 師匠に電話を掛けたいところだが、走っているせいでスマホを鞄から取り出せない。


「ぐ……あツぃ……」


 ……シトナイに、吹っ飛ばしてもらうか?

 いや、ここで迎撃しようものなら、周りの建物すべてを吹き飛ばしてしまうだろう。

 流石にそれは不味い。俺が被害を食うどころの騒ぎでは無くなってしまう。せっかく社会に戻れたんだ……


「……猿田彦」


 応じてくれ。俺じゃ無理だ。

 この人魂には勝てない。

 死んでしまうかもしれない。助けてくれ!


「――……クソッ!」


 応答、なし。

 どういう理由かわからない。もしかしたら、猿田彦なんて存在はいなかったかもしれない。

 あの時の俺の夢が作り出した、都合のいい神的存在だったのかもしれない。


 ……クソが、そんなことだろうと思――


「う……ぐッ……!?」



 ――キィィィン、と。

 耳鳴りのような音がした。



「ガ……!?」



 頭が、割れるような痛みがした。

 首が、捩じれるような痛みがした。

 胸が、張り裂けるような痛みがした。


 ……足が、止まった。


 蹌踉けて、転けて、体勢が崩れる。



 ――高原天は、意識を失った。



◆◆◆◆◆



 人は、生まれながらに不平等だ。

 生まれた時には王権を得て、一を殺し、千を支配した者がいた。

 神と対話し、剣を抜いて旗を持ち、敵の悉く殺し尽くした者がいた。

 不平等を無くそうとした結果、新たな不平等を築き上げた者がいた。



 ――お前は、どちらだ?



 自らの手で人を辞め、狐に育てられた者よ。

 天狗の収まった器を持ちながら、何を思う?


 普通の、人生を歩もうと思うか?

 ああ、そうとも。不可能だ。

 人生を歩めるのは、人の特権。……人ではないお前はもう、人生を歩む権利がない。


 殺人鬼という名の妖。

 英雄という名の人外。

 お前も、これと同じだ。


 人の皮を被った妖。

 妖に夢を見た異常者(アブノーマル)


 ……ああ、滑稽だよ。

 畜生が人の真似をしている。

 質の悪い笑い話(コメディ)だとも。



 ――選択の時だ、笑い話よ。



 困った時の神頼み。

 神がいない、のなら。



 お前が神になるしかないだろう?



 ……手を差し出すか。


 よくぞ、答えた。

 懐かしき同胞よ。

 貴様の帰還を、心より歓迎する――



◆◆◆◆◆



「――そこまでよ、まがい者」



 伸ばした手がはたき落とされ、俺は現実へと覚醒した。


 一秒にも満たない気絶。

 倒れそうになる身体を、地面を踏みつけて片足ひとつで留まる。

 頭が、首が、胸が、痛い。

 今にも千切れてしまいそうだ。今にも、胃液を吐き出してしまいそうだ。


「まったく、日本(ヤーパン)にまで手を広げてるとか。節操ないわね、本当に……」


 俺の手を叩いたのは、恐らく目の前の女の子だ。

 ブロンド色のショートボブをふわふわと揺らしながら、明らかに身の丈に合わない槍を持つ子供。

 年齢はわからないが、小学生くらいだろうか。この場においては間違いなく、何よりも浮いている存在だ。


「ここは何とかするから、ほら逃げて。それとも死にたいの、お兄さん?」

「だ、だけど君は……?」

「お兄さん、結構胆力あるね。けど、それは蛮勇だよ。ほら、逃げれる時に逃げなくちゃ」


 女の子に諭され、急に情けなくなる。

 俺、もしかして小学生くらいの女の子に、弱い者扱いされてる……?


 だがこの世で強さに年齢は関係ないことを、俺は師匠から学んでいる。

 そこで考えるのを止めた。

 思考を放棄し、俺は一目散に路地裏の外へ足を早めた。



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